幕間 虎と法王
「スゲェなァ? あれが伝説……まさか本物の聖光剣士サマが現れるとはなァ? で、どうだった? お前から見た感じは」
隠者、そう呼ばれる男は戦車に話しかける。
どうやら直接会った戦車がどう思ったのか……それが気になるようだった。
「強くもあるが……弱い」
「弱い!? おいおい! 冗談は止めてくれよ! お前と引き分けるよなヤツが弱い!? チャンピオンサマはいったいなにを考えて……」
刹那。
「ヒェ……! や、止めてくれよ……わ、悪気はなかったんだよ……」
光力の爪が隠者の喉元を引き裂こうとしていた。
あとほんの少し進めば……致命傷は避けられないだろう。
「今の私はっ! チャンピオンではない……! あの方の爪であり牙だ……! 絶対に間違えるな……!」
「わ、分かっているよ……ケッ、なにがチャンピオンじゃない、だ……正確にはただの発情したメスネコ……」
「命が惜しくないようだな?」
「じょ、冗談だよ、へへ……地獄耳すぎるゥ」
隠者は彼女を完全に怒らせる前にもう黙ろうと決めた。
そう彼が思った直後……
「お前は口は災いの元というニホンの言葉をしらないのか? まったく……」
「お、法皇のオッサン!」
法皇……そう呼ばれ「姿隠しのコート」に身を包む男がゆっくりと闇の中から現れた。
「オッサンはどう思う? あの聖光剣士」
「直接会ったわけではないが、不思議な存在ではあることはワガハイの優秀な耳たちから伝わっている、なんでも突然現れたとか、お陰で殆ど情報がないが……まぁサーベラスの娘と一緒に行動するようだ、故に赤とぶつかることはまだあるまい」
法皇はフードに手を伸ばし自分の角を触っている……
どうやら彼のクセのようだ。
「ならいんだけどよ……ま、オレ様はオレ様の仕事をするだけだぜェ、今度は聖光剣士に負けないような強力なモンスターを作らねぇと」
「おいおい隠者、ワガハイたちの目的を勘違いしていないか? 聖光剣士を倒すのは目的ではないぞ?」
「でも邪魔者は少ないほうがいいだろ? それに聖光剣士が死んでも聖光神剣は残る……残った聖光神剣はそれはそれで利用すればいい……オレ様の邪魔をしたツケはしっかり払ってもらうぜェ……!」
隠者は……自分の邪魔をした青い聖光剣士を憎んでいた。
自分の邪魔をするものは全て破壊する。
それが彼の生き方だったし……これからもそうするのだろう。
「そういや、弱いってのはどういうことだ、弱いなら弱点があるってことじゃねェか」
「闘士として精神面に迷いがあるというだけの話だ、実力は高いぞ」
「んだよ、精神論か、そんなもんクソの役にもたたねぇだろうが、まぁいいオレ様はオレ様で情報を集めるだけだァ……どんなヤツにだって弱点は必ずあるゥ……!」
「あのお方は……?」
「表の仕事で忙しいようだ……特に今年はな」
「ああ、そうだったな……そのための私だ、私はあのお方の……」
隠者が去った後。
戦車と法皇は話し会っていた。
法皇は考える。
彼女が抱く思いは恐らく一般的な恋や愛とはまた少し違ったものではないだろうか、と。
戦車……ルシャーティ=ヴャーグラは彼に命を救われたようなものだ。
それゆえか、ルシャーティは自分の存在は全て彼のためだけにある、そう考えている節がある。
自分は彼の爪であり牙であるという彼女の言葉がそれを示している。
尊敬……いや、崇拝。
殆どその領域だ。
だからこそ彼は彼女を信頼し、重用するのだろう、そう法皇は考えていた。




