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「光力……装着」

 しかし、戦いとは基本的に避けられないもので。


「グルル……」


 オルトロスの一匹がビビりながらも唸る。

 正確には右側の頭が恐怖に震え、左側の頭が唸っているのだが。


 魔犬と俺の目が合った。

 か、かわいい……


【モンスターとの接触を確認。】

【犬型モンスター「オルトロス」の存在を確認。】

【スリーブモードを終了し、バトルモードに移行します。】

【アプリケーション「オートパイロット」を起動。】


 へ?


【戦闘を開始します。】



 ペンダント化していた剣が突然元の姿に戻ったかと思うと俺の体から俺の意識が弾き飛ばされるような感覚が襲ってきた。

 頭の中で風が吹いたような……なにかと繋がったような……不思議な感覚だ。


 直後。


 ッ!?


 跳びかかってきた魔犬を剣で受け止める俺の体。

 衝撃で少しのけぞるが、まるで気にせずそのまま剣で切り飛ばす。

 残りの魔犬たちも襲い掛かってくる。

 

 どう見てもピンチなのに、俺の体は、俺の口は――

 ニヤリと笑った。



 青熊との戦闘では俺の意識がだいぶ残っていた。

 だが今回は……


(なんだこれぇえええええ!!!!!!)


 まるで背後霊のように俺の意識体が体の周りを漂っていた。

 なにこれ。

 俺死んだの?

 幽霊なの?

 むしろ生き霊?

 また乗っ取られた!?


 っていうか俺の体が勝手に動いてるぞ!?

 うわすげぇ……達人の動きだよこれ。

 例えるなら格闘ゲームで達人とか神などと呼ばれている人の対戦動画を間近で見ているような感覚が一番近いだろうか。

 ゲームのキャラじゃなくて、俺の体だけど……

 襲い掛かってくる魔犬たちを軽々と斬り倒していく俺の体。

 その剣筋にはなんの躊躇いもない。

 俺なんてチワワと目があった瞬間かわいいとか思っていたのに……


 やはり、俺であって、俺ではない。

 だが、この体間違いなく俺のものだ。

 現に五感が極限まで研ぎ澄まされているのが分かる。

 より多くの情報を得て三次元的にこの場を理解しようとしているのが分かる。

 意識は体の外に出てしまっているが、俺の体が感じるものは俺も感じるようだ。


 しかもこの剣、何だが伸びたり縮んだりしている。

 自由に伸び縮みするので魔犬たちも距離をどうとっていいか分からず、困惑しているようだ。

 群れのボスらしき他のよりも少し大きい魔犬が両方の口から炎を吐き出す。

 どうもまともに近付けないから飛び道具で攻撃することにしたようだ。

 流石にヤバイと思ったのか横に跳んで避ける俺の体。

 ゴロリと転がり勢いを利用して立ち上がる。

 ああ、リクルートスーツが……

 土で汚れていく……

 しかしこの動き……柔道の前方回転受け身の動きに似ている。

 前方ではなく横だけど。

 ……俺が持っていた知識なんかも利用しているのか?

 

「光力……装着」


 炎を避けた俺の体。

 勝手に口が動き、そう呟く。

 すると、剣が強く輝き光が俺の体を包む。


【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】


 ……この状態でも画面は相変わらず見えるんだな。

 っていうかなんだあの鎧!

 あんな鎧あったのかよ!

 その鎧があれば……俺のスーツ。


 見た目は純白の雪のような白い鎧……のようだ。

 へぇ結構カッコいいじゃないか。

 ただ頭部がフルフェイスタイプなので顔が分からなくなっている。

 ……全体的になんだか変身ヒーローみたいだ。


「バゥ!」「バゥバゥ!」


 斬り倒されていない魔犬たちが集まり一斉に火炎を吐き出した!

 これはもう避けられな――


 ってあれ?

 熱くない……

 さっき転がって避けたときは間近に迫った炎の熱を感じたが、今回はそれがまるで無い。

 火炎の中にいるのに……


「閃光よ……我らが敵をなぎ倒せ……ルクス=ウエーブ」


 またもや俺の口が勝手に動き、同時に刀身に光が走る。

 これは……この輝きはルクス=タワーに似ている。


(どんなスキルなんだ……?)


【ルクス=ウェーブ】

【消費LP1000】

【空を舞う輝きの斬撃。】

【光力を使った飛び道具。】

【単体へ与えるダメージは「ルクス=タワー」が勝るがこちらは全体を攻撃出来る。】

【取得している光力戦闘術のランクで威力が変動する。】

【「閃光よ我らが敵をなぎ倒せ、ルクス=ウエーブ」のボイスキーで発動可能。】


 あ、気になったスキルは自動的に表示してくれるのね。


「…………!」


 俺の体が剣を横に振るうと輝く斬撃が空を飛ぶ。

 俗にいう飛ぶ斬撃だ。

 ゲームとかでよく見るやつだ。


 輝く斬撃が魔犬たちをなぎ払う。

 一撃で吹き飛ばされ消え去る魔犬たち……

 そうか、倒すと硬貨になるから遺体とか残らないのか。



「光よ……」


 俺の体が剣の刀身を撫でることによって刀身に光が走る。

 ん? なにをするんだ?


「パワースラッシュ……」


 パワースラッシュ?

 ええっと


(パワースラッシュってどんなスキルだー?)


【パワースラッシュ】

【消費LP200】

【力を込めて放つ斬撃。】

【一定時間斬撃の威力を上げることが出来る。】

【「パワースラッシュ」のボイスキーで発動可能。】


 お、表示されたな。

 【光力戦闘術】ではなく【剣術】のスキルに内蔵されているようだ。

 恐らく切れ味アップとかそういうスキルなんだろう。


「グルルッ!」「グルルッ!」


 ボスらしいき魔犬が今度は己の体に炎を纏いながら突撃してきた!

 ……あれ熱くないのか?



「…………!」


 突撃してきたオルトロスを迎撃する俺の体。

 炎を纏った二頭の牙に怯えることもなく、炎ごと魔犬を……突く!

 魔犬の回転と火炎を加えた突撃を輝く剣で突き刺し、力任せに投げ飛ばす。

 投げ飛ばした魔犬を――飛び上がりつつ落下の勢いを付けて……斬る!


 硬い骨と柔らかい肉を斬った感覚。

 これが、この感覚が、生き物を殺すってことなのだろうか。




「クゥン……」「クゥーン……」


 斬り倒された魔犬はルクス硬貨に変わって行く……

 ああもう、そんな悲しい声を出すなよ。

 うう……罪悪感が。


 でもあの時「オートパイロット」が起動していなかったら……

 俺の喉が食いちぎられていた。

 また、命を救われたのか。

 青熊との戦闘だってそうだ。

 「オートパイロット」無しじゃあ間違いなく死んでる。


【戦闘終了。】

【犬型モンスター「オルトロス」の群れの全滅を確認しました。】

【アプリケーション「オートパイロット」を終了。】

【バトルモードを終了し、メインモードに移行します。】

【お疲れ様でした。】


 終わったか。

 って!

 か、体に吸い込まれる!


 ……戻ってきた。

 体は……問題なく動くな。


 なんとも不思議な体験だった。

 自分ではない自分に体を動かされる――とでも言えばいいのか。

 だが不思議と嫌悪感は無かった。

 他人に体を乗っ取られるってかなり嫌なはずなんだがなぁ。


 青熊のときは、殺意は俺のものだった。

 だが今回は――


「完全に乗っ取られていたな……なんだ? この違いは」

【前回の「オートパイロット」は完全に起動していませんでした。】

【前回戦闘時は所有者(ユーザー)登録が完了しておらず、不完全な状態での起動でした。】

【それが今回と前回の違いの原因と推測されます。】


 なるほど。

 だけど……


「いきなり体は乗っ取るのは止めて欲しいな」

【申し訳ございません。】

【今回は所有者(ユーザー)の安全を第一に考え一方的に戦闘を開始しました。】

【それが原因で所有者(ユーザー)の気分を害してしまって本当に申し訳ございません。】


 ……感情がないって嘘だろ。

 まあいいけどさ。


【アプリケーション「オートパイロット」を前回使用時と同じように設定しますか?】

【これで戦闘時に体を乗っ取られるような感覚になることを軽減出来るはずです。】

「じゃあ、それで」

【了解しました。】

【アプリケーション「オートパイロット」の設定を変更しました。】


 これで軽減出来るといいんだけど。

 でこの鎧はどうやったら脱げるんだ?


「この鎧ってどう脱げばいい? 動きは邪魔しないけど……」


 この鎧、なぜか重さを感じない。

 かなりの強度を持つのはさっきの火炎で確認済みだ。

 これはスキルではない……?


【ボイスキー「装着解除」で戦闘用アーマー「スノーホワイト」は当剣に収納されます。】

「なるほど、じゃあ装着解除!」

【「スノーホワイト」を収納します。】


 おお?

 鎧が光の粒子となって剣に吸い込まれて行く……


 良かった良かった。

 いくら重さを感じないからって鎧をつけたままなのはちょっとな。

 でも……父が買ってくれたスーツは土で汚れてしまった。

 気にならないレベルだし、命を一番に考えるなら、こればっかりはしょうがないとは言え……

 後で洗う手段を考えよう。

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