「迷っているようだな」
「迷っているようだな、聖光剣士殿」
ふと、声をかけられた。
振り向けば白色と黒色の体毛の虎……ではない。
恐らく……ホワイトタイガーの魔族。
彼女は確かチャンピオン、ルシャーティ。
紅さんがスタンダードな美女ならば……チャンピオンは……野性味のある美女だろうか。
ただ美しいだけではなく、油断すると一瞬で殺されてしまいそうな……そんな怪しげな危うさを抱えた美女。
「おおっと!? チャンピオンだっ! チャンピオンが闘技場に降り立ったぞー! ワタシ感激です! まさかチャンピオンの試合をこの闘技場で見られるだなんてっ!」
「ふふ……まだ君と戦うなどと言っていないのだがな……」
などと、本人は言っているが……
【ッ! スリーブモードを終了し、バトルモードに移行しますッ!】
【アプリケーション「オートパイロット」を起動!】
【戦闘を開始します……やる気まんまんですよこの人っ!】
アオが敵意を感じて「オートパイロット」を自動的に起動させた。
ああ、俺でも分かる、この人、やる気だ。
「そっちもやる気になってくれたみたいだな……しかし、君は不思議だ……今、こうして剣を構える直前までは素人そのものだった……だが今は、百戦錬磨の戦鬼に見える、いや剣の鬼、といったほうがいいか?」
楽しそうに、愉快そうに。
いや、正確には――久々に見つけた得物を狩ろうとする獰猛な虎のような顔でチャンピオンはゆっくり近づいてくる。
「私はな、最近まで暇だったんだ、チャンピオンになってから……退屈だった……だがッ! お前が現れた……! 優勝者よ、私が相手をしよう……」
「やはりっ! チャンピオンは伝説の聖光剣士と戦うようですっ!」
観客がざわめく。
チャンピオンの試合が見れる、ということもあり……凄い熱気だ。
(ケル……!)
ケルの方を見る。
俺は、どうすればいい?
「スノーロータス……戦ってくれ」
あの紫の瞳で強く、見つめられた。
ああ、こりゃ俺が勝つのを確信しているな。
【こうなってしまったら戦うしかないですしねー】
【それにしても……信頼されてますね! 戦う前は勝てないとか言っていたのに】
(やっぱりそれだけ俺のことを心配してくれているんだろうさ)
こうなったら、勝つ。
チャンピオンがなんだ、こっちはいつもモンスターと命の取り合いだ!
俺だって勝てる!
「よし! 俺は伝説の聖光剣士にかける!」
「いやいや、チャンピオンだろう! 俺はチャンピオンにかける!」
……俺とチャンピオンでの賭けまで始まっている。
賭博ありなのか、この闘技場。
っと、それそろか。
「それではっ! チャンピオン、ルシャーティ=ヴャーグラ対聖光剣士スノーロータスの特別試合を開始します!」
「ああ……いいぞ、心が踊る! さぁいつでもかかってくるといい……!」
俺にゆっくりと近づくチャンピオン、ルシャーティ。
一見すると隙しかないような、ゆったりとした歩みだ。
隙ばかりのようにも見える。
……だが実態は。
【隙がないっ! だ、駄目です、どう攻撃しても反撃を喰らうヴィジョンしか……!】
【そ、そんな……何回計算しても反撃される……】
アオはお手上げのようだ。
俺も少しは武道の道にいたからちょっとは分かるが……こいつはヤバイ。
「スノーホワイト」があるから怪我はしないだろうが……HPは一撃で半分以上は確実に持っていかれるはずだ。
そう思えるほどに、今までの闘士たちとは……格が違う。
いや、闘士だけじゃない、今まで戦ってきたモンスター全てと比べても……強い。
今まで戦って来たモンスターの中で最も強かったのは……ケルたちの父親がモンスター化したゾンビオオカミだった。
確かにあれは強い。
だが……頭を地面にこすりつけたり、と大きな隙を晒していた。
だから俺でもあんな巨大な敵を倒せた。
けれど、このチャンピオンは……
「どうした? いつでもいいぞ? ふふ……」
「…………!」
だがこのまま近づかれたら、アウト。
だったら……!
(閃光よ……我らが敵をなぎ倒せ、ルクス=ウエーブ!)
完全に近づかれる前に先制攻撃するしかないッ!
剣を振るい、青き輝きの斬撃を飛ばす!
「それは……なるほど、ならば私もだ、閃光よ、我らが敵をなぎ倒せ……ルクス=ウエーブ」
チャンピオンがそう言うと同時に……白い輝きの斬撃が三つ、飛んできたッ!
(な、なにぃ! チャンピオンが【ルクス=ウェーブ】を使っただと!?)
【やはり光力使い! 魔力を一切感じないため、もしやと思いましたが……】
俺とチャンピオンが放った【ルクス=ウェーブ】は空中でお互いぶつかり合い、相殺した。
単発の威力は、こちらが上か?
いやだが、相手は三発同時……
「意外か? 自分以外の光力使いは?」
そうだよ、コンチキショー。
そういえばケルは光力使いを一人知っていると言っていたが……あれは俺じゃなくてチャンピオンのことかよ!
チャンピオンが光力使いなら、あらかじめそう言ってくれよ!
「私も久しぶりだ、自分以外の光力使いと会うのは……もうすっかり有名な話だが、私は生まれた時から魔力が殆どなかった、故に一族からは落ちこぼれ、ヴャーグラ家の恥と、いろいろ言われたものだ……」
……そう、だったのか。
チャンピオンは元落ちこぼれ……
だが実際……どうする?
どうすればあのチャンピオンに勝てる?
【ルクス=ウェーブ】はもう使えないだろうし……
「そんなある日、私はあるちょっとした出会いから光力と、光力使いの存在を知った……私には魔力に関する才能はなかった、だが……光力はどうも、逆だったらしくてな……我が爪は敵を引き裂く聖光の輝き、シャイニング=クロー」
何かを高速で呟くと、チャンピオンの爪が……伸びている!
白い光に包まれていて巨大化している……!
決勝戦で戦った氷爪の……光力版とでも言えばいいのだろうか。
だがデカさも迫力も……氷爪とは段違いだ。
「さぁたっぷり無駄話をしたんだ、スキルの詠唱は終わっただろう? さぁ、来い……私を楽しませてくれ」




