「闘技場のチャンピオンね」
「軍隊が怪しいとなると……」
「そこ以外から人材を持ってくることになるニャ」
しかし、そんな都合のいい魔族なんているだろうか。
それも大量に。
一人や二人じゃとてもじゃないが足りない。
「そこで闘技場ニャ!」
「闘技場……ああ!」
俺は見たことはないが、闘技場にはスポーツ化したとは言え攻撃用スキルを覚えた魔族がいっぱいいるそうじゃないか。
そこから持ってくれば問題解決だな……ただ。
「どうやって闘技場にいる彼らを冒険者にするか、という問題があるな……そのための広告塔……レンなんだが」
スミレが俺を見る。
え、俺?
「なんで俺?」
「冒険者として戦い続ければ、こんなに強くなれる! っていうキャッチフレーズで冒険者を集めるニャ、闘技場に来る奴らは自分を強くすることしか頭にない脳筋ニャ」
脳筋って。
まぁ……そうかもしれないけどさ。
「そこで! 冒険者ギルドにはこんなに強い奴がいる! そいつが強いのはモンスターを戦っているから! っていう嘘八百を並べるニャ」
嘘八百って言ったぞおい。
まぁ俺が強いのはアオのお陰だからな……
「でもどうやって俺が強いって闘技場の連中に認めさせる?」
「そんなの簡単ニャ! お前さんが闘技場に出ればいいだけの話ニャ」
俺が闘技場に!?
あ、いや、でもそれが一番か?
「それが手っ取り早いだろうしな……レン、頼めるか?」
「ルクス硬貨が一枚も貰えない戦いか……アオ、魔族相手との戦いってことになるが……」
【安心して下さい、ちゃんと非殺傷モードで戦いますから!】
【ふふ……私たちの強さ、見せつけてやりましょう!】
「なら大丈夫だな、よし、闘技場で軽く優勝してくる!」
今の俺ならこれくらい出来るだろ。
なんせ、今のところ負けなしだからな!
余裕で優勝くらい出来るさ。
「相当強いと聞いているニャ、期待しているニャよ? まあ、万が一負けてもこんなに弱い奴でもモンスターは倒せる! って感じで宣伝するだけニャ」
なんか酷くね?
ま、負けるわけないからありえないけどな!
「そうそう……魔帝都からチャンピオン……虎女王がこっちに来ているニャ! 」
チャンピオンが?
それって魔大陸で一番強いってことだよな?
「それって……白き虎女王とも名高い、チャンピオンルシャーティ! ルシャーティだろう!?」
「キレイでかっこ良くて、凛々しくて……!」
「……そしてとても強い……! 最強の女チャンピオン……!」
おお、ケルが凄いな……
憧れの人、なんだろうか。
……なんだろうこのモヤモヤした感情は。
ケルたちにもこういうところがあるのは当たり前のはずだ。
俺が見たことがない、ケルたち。
そうだよな、まだ出会って数日しか経ってないんだから。
それなのに……俺の知らないケルたちがいる、というのが、俺の知らない人物を尊敬している、ということが。
無性にムカついた。
でもこれって……独占欲みたいなもんだよな。
ケルを、ケルたちを自分の物だけにしたいっていう、原始的な欲望。
オスが、つがいのメスを他のオスに取られたくないと願う……ケダモノの発想だ。
人間という動物が知性を得る前から持っていた……欲望。
人間だって動物だ、だからそういう感情はあって当然だ。
でもそんな欲望がふつふつと湧き出てきたってことは……
俺は……ケルが、ケルたちが好き……なのか?
自分の感情が、心が、理解出来ない。
これを理解するには……時間が必要そうだ。
「闘技場のチャンピオンね……そのチャンピオンとも戦ったほうがいいか?」
「それは止めておけ、チャンピオン、ルシャーティは強い……!」
「レンじゃ勝てないと思うよ?」
「……それに、いきなり出てきたのが、チャンピオンを倒したってなったら……」
「……面倒なことになりそうだな」
戦わないほうが良さそうだ。
「でも、なんでチャンピオンは、この町に来ているんだ?」
「さぁ……? 知りませんニャ、噂によると個人的な用事のついでらしいですニャ」
個人的な用事のついでねぇ……
まぁチャンピオンにもプライベートはあるか。
「そうだ……ソマリ、腹が減ってきてないか?」
「お……? 確かにもうお昼の時間でしたニャ、じゃあ早速あれ、を食べるニャ!」
あれ?
その「あれ」ってなんだろうか。
やっぱり港町だから海鮮丼だったりするのだろうか?
「おーい、紅! 紅はどこニャ!」
「お呼びですか?」
紅、そう呼ばれて現れたのは赤い鱗の……
「ド、ドラゴン!?」
「あら、あなたは……日本人のようね」
赤いドラゴン……のような鱗をもつ女性、紅。
鱗や翼、尻尾などの身体的特徴が……彼女を龍だと強く認識させる。
「私は紅、商人ギルド、ミサシ支部長ソマリ様の秘書をしているわ」
「危ない時にはボディーガードにもなってくれる優秀な秘書ニャ、そうそう紅、いつものあれを」
「はい、そう言われるだろうと思って……全員分用意しました」
彼女が用意したという「あれ」その正体は……
「これは……ツナサンドだと!?」
美味しそうなツナサンドだった。
耳なしのパンに挟まれた美味しそうなツナサンド……
ゴクリ。
「あ、紅さん! これ、食べてもいいよね?」
「はい、もちろんですよアコお嬢様、食べてもらうために用意したんですから」
「やったね! いただきまーす!」
何の躊躇いもなくツナサンドを口に運ぶレモン。
……美味しそうだ。
きっと美味しいのだろう。
「俺もいただきます!」
「はい、どうぞ」
まずは一口……
「……ッ! これはマヨネーズとツナの塩梅が……最高だ!」
自己主張が強すぎないマヨネーズがツナの美味しさを引き立てている!
たまらず、二口目。
「やっぱり美味い……!」
このパンもいい。
サンドイッチ向けのパサパサとしたパンだ。
あんまりがっしりした重いパンだと、サンドイッチとしては重くなり過ぎてしまう。
このパンだから良いのだ。
そして、このツナ。
このツナが俺のしるツナである保証は……ない。
なんせ異世界だからな、同じ魚である保証もない。
だがこの美味しさは……世界を超えても一緒だ!
俺はツナマヨおにぎりも好きだが、やっぱりツナサンドがいいかなぁ。
ま、これは好みの問題だよな。
「これが商人ギルド名物、ツナサンドニャ! 気に入ってくれたかニャ?」
「もちろん! おかわり!」
「おうおう! どんどん食べるニャ! 腹が減っては戦は……商いはできぬ、ニャ!」
……久々に美味しいサンドイッチだった!
「このサンドイッチはなにかと忙しくて食べる暇がない商人ギルドの従業員に片手で、しかも手軽に食べれる食事として大人気ニャ!」
なるほど、それは納得だ。




