「絶対に惚れさせてやるからな!」
部屋を出てケルの待つ部屋へ向かう。
今度は俺の番だ。
【そう言えば……なぜあの先代たちを信じなかったんですか?】
【普通、魔に連なるものが悪だと思いませんか?】
ああ、それか。
「まあ確かに、光が善で、闇や魔が悪ってことは多いと思う……けど、俺には……ケルが悪いやつとは思えなかったんだ」
俺を何度も助けてくれたケル。
それを、この世から消し去る、そう言ったんだ奴らは。
「なんだかあいつら……ネットでよく見る実態を知らないのにイメージだけで決めつけるような奴らと一緒に思えたんだ……それに……光は物を破壊するんだ」
そう光は物を破壊する。
昔、博物館にいた学芸員に聞いたことがある。
なぜ博物館は薄暗いのか? と。
「確か……一般的な博物館に置いてある物の大半は紙、布、木……まぁ熱や光に弱い素材で出来ているから、だったかな? あと絵画の絵具とか着物とかの染料は光を当てると色があせたり、薄くなったりして色が飛ぶ、とも聞いたな」
博物館の使命は次世代に、今ある展示品を残すこと。
展示品を破壊するかもしれない光は抑えなきゃいけない。
「本当は真っ暗が一番いい、そうだけどね」
【ジレンマ、というやつですね……光を当てないと展示品が見れない、けど光を当てると展示品を破壊することになる……】
そういうことだ。
だから、光イコール善というのには少し違和感があった。
だって……光は物を破壊するんだぞ?
「それに……ケルを消すだなんて言われたら、怒るに決まってるだろ?」
【……だ、そうですよ? ケルさん、愛されてますねー】
え。
「そうか……」
ケルがいた。
……あれ、聞かれてた?
「聞いてた?」
「最初から……」
おぅ……
おのれアオ!
お前のせいでなんとも言えない空気になっちゃったぞ!
……さて覚悟決めないとな。
「あのさ、ケル……すまなかった! ごめんなさい!」
頭を下げる。
こんなので簡単に許してくれると思えないけど……
「……私たちたちの好意は、この思いは勘違いだとレンは言ったよな」
……やっぱり簡単には許してくれないか。
自分の恋心を勘違いだと否定したんだもんな。
俺、最低だ……
「……でも、確かにそうだったかも……」
……あれ?
ローゼの声だ。
儚げな桃色……
「うん、自分たちでもびっくりするくらい急に恋に落ちたからね……冷静に考えたらおかしいくらいに」
今度は……レモンか。
なにか、伝えたいことがある……?
「だが……私たちのこの思いが偽物だと思えない、思いたくないんだ……ほら」
瞬きをしてスミレに戻ったケルに手を捕まれ……胸に手が……!
俺の手が! ケルの暴力的な胸に!
や、柔らかい! 柔らか過ぎる!
り、りり……理性が、が、ががが……!
……? なんだ、これ……
このドクドクと脈打つのは……?
「ほら、レンがこんなに近くにいるだけで……心臓が、こんなになってしまうんだ、これが、まやかしや勘違いだとは私は、私たちは思いたくない」
一人、いや、三人に強く見つめられた。
スミレ、ローゼ、レモン。
三人が、確かにそこにいた。
「……だから……本物にする……」
「急に好きになったことが信用できないなら!」
「私たちが時間をかけてレンに好きなってもらう! 始まりがまやかしだったとしても……本物にすれば問題はない!」
強く、宣言された。
要するにそれって……
「俺が、ケルに惚れるまで……諦めないってことか?」
「そうだ! 時間が足りないなら……時間をかけるだけだ!」
「……私たちが、ここまで、誰かを好きなってのは初めてだから……」
「諦めたくないんだよね……私たちってさ、微妙に好みが違うからさ……誰かに恋するだなんて、これが最初で最後かもしれないから!」
恋する女の子は無敵だと、聞いたことがある。
まったくもってその通りだ。
勝てる気がしない。
「分かったよ……じゃあ……一ヶ月だ、一ヶ月経っても、ケルが俺のことを好きだったら……」
「……好きだったら……?」
きょとんとするケルたちのおでこに、キスをした。
俺のほうが背が高いから俺が少しかがむ形になったが。
「……この先をするよ」
「あ、ああ!」
カッコつけて後ろを向いたが。
……は、恥ずかしい!
顔から火が出そうだ!
だったら最初からやるなって話だけどさ!
でもさ! 女の子がここまでしてくれたんだぞ!?
じゃあ何らかの形でその気持ちに答えないといけないじゃん!
「待っていろ! 絶対に惚れさせてやるからな!」
「お、おう! 待ってるぞ!」
……なんだか妙なことになったな。
実際のところ、俺だって……ケルのことが好きだ。
だったあんなにかわいくて、おっぱい大きい女の子、嫌いになれるわけないじゃん!
でもだからって見た目にで人を好きになるのって、なんかいけないことのような気がするし……
ああッ! もう!
自分の心が分からねぇ!
【あ、あれ? なんか妙なことに……私の計画はじゃあ……こんなはずじゃなかったはずなのに……】
【今は、時間が必要ですかね……?】




