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【さらにもう一歩だけ前に進みましょうよ】

 ……ケルが部屋から出て行ってしまった。

 俺、おかしなことは言ってないよな?


「これでいいんだ、これで」

【そんなわけないでしょうが!】


 おわっ!


「ア、アオ?」

【はい、私です……ちょっと私の中に来たください、いいですね?】

「あ、ああ……」


 アオの勢いに押されて再び剣の中に入ることになった。




「……また青い空間か」


 青白くとても広い空間。

 またここにやって来ることになるとは。


【まぁ簡単に変わるものでもないですしね】


 後ろを振り向くと青い少女がいた。

 相変わらず、青く光る人型の物体なのだが。


【さて所有者(ユーザー)……一言言っていいですか?】

「あ、ああ、構わないよ」

【では遠慮無く……ケルさんを極限まで信じるんじゃなかったんですか!】


 お、怒ってる……?

 怒ってる!


 しかし……どういうことだ?

 俺は別にケルを疑ってなんていない……


【ケルさんは! 本当に所有者(ユーザー)のことが大好きなんですよ!】

【そんな彼女が! 勇気を出して……告白してくれたのに……なんであんなことを言ったんですか!】

【割りと最低なことしてますよ!】


 ……そういうことか。


「あのなぁ……あの子が好きになっているのは俺であって俺じゃない、自分をピンチから救ってくれた王子様なんだよ」


 女の子が夢見る。

 自分だけの王子様。


「俺はそんな都合のいい存在じゃねぇ、それにいつもいつもケルのピンチを救えるとも限らねぇ……変に夢持たれて、失望してほしくないんだよ」


 俺はそんな聖人みたいな、いい人じゃない。


「それだけだよ、それだけ……それに俺の言ったことは嘘でもないしおかしなことじゃないだろう?」


 そうだ。

 ケルが冒険者ギルドを再建させるつもりなら俺なんかよりも、もっといい婿候補がいるはずだ……


 第一、金はどうする。

 本当に再建させるつもりなら莫大な資金が必要だ。

 その資金源のために……金持ちを婿に入れるのことは不思議なことじゃない。

 むしろ、合理的なことだ。


「だから、いいんだ、これで」

【やっぱり……怖いんですね?】

「なにがだ」


 いったい、なにを言っている?

 俺が、怖い?


【今までのそれ、全部言い訳じゃないですか! それも自分が、自分だけが納得するための!】

「言い訳ってそんな……」

【言い訳です!】


 きっぱり、言い切られてしまった。

 俺には反論すら許可されていないようだ。


【だって……自分が、ケルさんを諦めるための言い訳じゃないですか!】


 ……俺が、ケルを、諦めるための、言い訳……?


【全部そうですよ! 自分じゃないほうがいい、自分じゃないほうがいいって! ケルさんに、と言うよりも自分に言い聞かせてるようじゃないですか!】

【そんなに、誰かを好きになるのが怖いんですか……?】


 あいつらの言葉がフラッシュバックする。


「キモ、お前なんかに本気で告白するわけないじゃん!」

「うわぁ……本気で喜んじゃってる! アハハ! バカみたい!」

「なにその目? まさか本気にしたぁ? ゴメンネー?」


 ああ、そうだ、俺は――





「怖いよ、怖いさ……だって……だって! もしかしたらが、消えて無くならないんだ……!」


 今は好きでいてくれるかもしれないが……いつまでもそうとは限らない。

 もしかしたらいつか不倫されるかもしれない。

 もしかしたら托卵され自分の子ではない子供を育てさせられるかもしれない。


 そんなの遠い未来の話だし、そもそもありえない。

 と笑い飛ばせる勇気が……ない。


 もしかしたら、裏切られるんじゃないか。

 そう思うと……耐えられない。


「だから……深く関わるのが……怖いんだ……異性の友達なら……多分、まだ耐えられる、けどもし……恋人以上の関係になって、裏切られたら! 俺から離れてしまったら!」


 今度こそ……壊れてしまう。

 再起不能なまでに。


「ケルにまで裏切られたら……俺は、俺は!」

【大丈夫ですよ……ケルさんは所有者(ユーザー)のことが大好きですから】


 例え、そうだとしても。


「それに、俺は……そんなにかっこ良くないし……人を好きになることに恐怖しているんだぞ? こんなやつ、好きになってくれるはずがない……本性を知ったら、きっとケルは俺から離れてしまう……」


 俺より、もっといい男なんて、いっぱいいる。

 そいつが現れたら、ケルは離れてしまうのではないだろうか。


【それは大丈夫ですよ、所有者(ユーザー)よりもカッコいい男の人との縁談を蹴っていますからね】

「本当にか?」

【本人から聞きました……! 私たちは別に顔は気にしない、だそうですよ?】


 そうなのか……

 ならば…… 


「ケルはきっと強い俺が好きになったんだろ? 戦闘じゃあ今のところ負けなしだもんな……でも俺は別に強くなんかない……いじめられてた弱いやつだって知ったら……」

【それも、気にしてませんでしたよ? 話しましたけど】

「へ? おいおい、俺のプライバシーは!?」

【そんなもの、私の前じゃ有って無いような物ですよ?】


 お、俺の個人情報……


【むしろ、それで自分に自信がなくて自分が信じられないのなら、私たちがレンを信じる、とまで言っていましたからね】

「……なんで、俺なんだ?」

所有者(ユーザー)……それ、あなたがいいます? それはですね、あなたがヨザキレンだからですよ】


 俺が、俺だから?


「それってどういう……」

所有者(ユーザー)、死にかけて怪我をしていたケルさんを助けたのは、誰ですか? 言い方を変えましょうか、大ルクス金貨一枚をつかってケルさんを助けたのは誰ですか?】


 俺だ。

 でもそれは俺が一人になりたくなかったからで……

 それでも、俺が助けたんだよな。


【そうです、所有者(ユーザー)です、だからですよ……普通、そんな量のルクス硬貨、使う勇気出ませんよ、あなただから、ケルさんを助けられたんです!】


 ……そういう、もの、か?


「……もし、ケルが裏切ったら?」

【絶対にありえません!】

「じゃあ……信じて、いいのかな」

【はい、さらにもう一歩だけ前に進みましょうよ……このままじゃ駄目だと思ったから、ケルさんを信じることで一歩踏み出したたんでしょう?】


 ……そうだったな。


「信じてみるよ……自分を……スミレを、レモンを、ローゼを……ケルたちを」

【はい! まずは……】

「ケルに謝らないとな」


 ……どうやら、現実に戻るようだ。

 青い光が……

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