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「俺一人で……充分だ」

「光力、装着!」

【スリーブモードを終了し、バトルモードに移行します。】

【アプリケーション「オートパイロット」を起動。】

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】

【戦闘を開始します。】

【行きますよ所有者(ユーザー)!】


 「スノーホワイト」を纏い、気合いを入れる。

 よし、行くぜ!


「ケル、下がっていてくれ……俺一人で……充分だ」


 こういうセリフ、言ってみたかったんだよね。

 だってかっこいいじゃん?

 実際、俺一人で問題なく倒せるだろうし。


「そういうわけにはいかないな……私たちは最低でも金貨十枚分の働きをしなくちゃいけないんだ、レンに救われたこの命、お前のために使わせてくれ」

「……そっか、じゃあ援護よろしく!」




「こいつら吐く糸と体液は強い酸性だ! だから俺が近づいてたたっ斬る!」

「大丈夫なのか!?」

「この鎧は頑丈だ! 問題ない!」


 こいつら……木の上にいやがる。

 どうにかして地上に引きずり落とさないと。


 木の上のアシッドスパイダーが糸を吐き出す!

 避けると後ろのケルに当たるかもしれないな……

 よし。


「ゲシッ! シシシ!」


 糸が俺の左腕にまとわりつく。

 勝利を確信したらしい蜘蛛が笑う。

 普通なら骨まで溶けてしまうのだろう。

 が。


「効かないな……おらッ! こっちに来い!」

「ゲシ!?」


 まとわりついた糸を逆に利用して蜘蛛たちをこちらに引き寄せる。

 蜘蛛の糸を使った蜘蛛の一本釣りだ。

 こうやって引き寄せると同時にッ!


「パワースラッシュ!」


 【パワースラッシュ】を発動させて……貫く!

 これで一体!


「ゲシィ……」


 突いて動かなくなった緑色の蜘蛛モンスターを剣から投げ飛ばし、地面に落ちてきた残りの二体を見据える。

 さぁ……次はどいつからにするか。


「残りは私たちがやる……」

「大丈夫なのか?」


 ケルだ。

 よく見るとその腕は獣のそれに変わっている。

 部分的にも変えられるのか。


「酸性の体液があるぞ? 大丈夫なのか?」

「この爪で引き裂くつもりはないさ……魔術で倒すからな! 火炎よ……敵を焼きつくせ! ダークインフェルノ!」


 ケルが前に手を突き出すと……黒い塊が放たれた。

 謎の黒い物体は二体の蜘蛛たちの間にぶつかり……黒炎を上げた!


「ゲシシィィィイイイ!!!」「ゲゲ、シ……!!!」


 あっという間に蜘蛛が黒焦げになってしまった。

 凄い威力だ。


 っていうかダークインフェルノって……完全に悪役の技……

 ……そう言えばケルは魔族でしたね。


【戦闘終了。】

【蜘蛛型モンスター「アシッドスパイダー」の群れの全滅を確認しました。】

【アプリケーション「オートパイロット」を終了。】

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」の脚部以外を収納します。】

【バトルモードを終了し、メインモードに移行します。】

【お疲れ様でした。】




「ふぅ……終わったか」

「ああ、終わったな……どうだったレン! 私たちはちゃんと役に立つだろう!?」


 またもやケルが俺に抱きつく……また、おっぱいがぁ!

 や、やばい。

 り、理性が、理性がががが。


 俺の中の悪魔が囁く。

 このまま押し倒してヤっちまえよ……と。

 童貞を卒業するチャンスだぞ、と。


 イカン、イカン、イカン!

 この子は俺を信頼してくれているんだ。

 なんで俺の方から裏切らなきゃならないんだ。


 ケルは俺のことを友人としか思っていないはずだ。

 そんな友人と思っていた人物に襲われレイプされたら……彼女の心が壊れかねない。

 元気そうに振舞っているがケルは相当限界のはずだ。

 だから、大事に、扱わなきゃ。


 そもそも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 俺のことを信頼してくれているようだが、それはあくまで友として。

 異性としては見てないだろう。


 だから、これでいいのだ。


「うん、役に立ったから……その、離れてくれる? 苦しい……」

「あっ! す、すまなかった……」


 ふぅ。

 離れてくれた。


「さて今回の稼ぎはっと」


 俺が投げ飛ばした蜘蛛はしっかりルクス銅貨に変わっていた。

 だが……


「あれ? この蜘蛛……黒焦げ遺体のままだ」


 ケルが倒したアシッドスパイダーは緑色から黒色に変わってはいるがルクス銅貨には変わっていなかった。

 モンスターって倒すとルクス硬貨に変わるものじゃないのか?

 どういうことだろう?


「あ、あれ? 何故変わっていないんだ? ロ、ローゼ!」


 ケルが瞳を閉じる。


「……分からないことがあるからってすぐ私に頼るのはやめようよ……面倒」


 儚げな桃色……ローゼに変わったようだ。


「あー俺がいるが、大丈夫か?」

「ヒッ! ……な、慣れてきたから、だ、大丈夫……」


 本当に大丈夫なのだろうか。

 ヒッ、って……ちょっと傷つくぞ。


「そ、それに……命の恩人に、あんまり失礼なこと、出来ないから……私も、その、このままじゃ駄目だと、思うから……まずは、レンで試してみようって……」

 

 俺が人を信じられるようになるために、一歩踏み出したように、ローゼもまた一歩踏み出したようだ。

 …って俺の行動で、人の人生を変えることになるとはね。

 随分影響力を持ったものだ。


「……私、おかしく、ない、よね……?」

「ああ、おかしくない、おかしくない……それで、理由は分かるかい?」

「……ご、ごめんなさい……分からないけど、多分、剣さんなら知ってると思う……」


 剣さん……ああこの剣のことか。

 そう言えば、こいつに名前らしい名前って無かったな。

 ルクス=ブレード アナザーじゃあ人の名前としては長いし。


【私ですか?】

【お二人とも仲良く話しているので邪魔かな、と思い何もしていませんでしたが……】

【ああ、質問に答えますね、それは当剣……私で倒してないからですよ】


 聖光剣で倒してないから?

 なんじゃそりゃ。


「どういうことだ?」

【当剣にはモンスターが体内に隠すルクス硬貨だけを取り出す機能が搭載されています。】

【まぁ要するに光力以外で倒してもルクス硬貨は落とさないんです、モンスターは。】


 光力以外じゃ駄目なのか。


「絶対にか? あの蜘蛛の中を探せば出てくるんじゃないのか?」

【時間と労力の無駄、とだけ。】


 マジか……要する俺じゃないと駄目と。


「……あの蜘蛛の遺体から取り出すことは出来る……?」

【あ、それは大丈夫ですよ、あの遺体に当剣を突き刺してくれればこっちで勝手に浄化してルクス硬貨に変えておきますから。】


 なるほど、じゃあ早速。


「それ」


 転がっている蜘蛛の黒焦げ遺体に剣を突き刺す。

 死体に鞭打つならぬ、死体に剣を刺すことになるとは。

 しかも化け物。


「おお? 光が……」


 剣を突き刺すと蜘蛛の遺体が光に包まれ……ルクス硬貨に変わった。

 なるほど……こういう感じでルクス硬貨に変わっていたのか。


「……本当に、変わった……私たち、無駄じゃ、なかった……?」

「ああ、一手間かかるが、俺の代わりにある程度戦ってくれるんだ、充分役に立っているよ」

「……そっか……私たち、役に立ってる……」


 役立たずではないことに安堵したようだ。


 ……そう言えば。


「なぁ、いろいろ聞きたいことがあるんだか」

【はい、なんですか?】

【あ、データが無かったり、破損してたりすると答えられないのは変わっていませんよ?】


 そうなのか。

 まぁそれでもいい。

 さて、質問タイムだ。


 現在のルクス硬貨はルクス銅貨三枚、小ルクス銅貨五枚。

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