「……大体わかった」
「……大体わかった」
ケル……いや、アコニートゥム=サーベラスの話は衝撃的だった。
お、女の子だったんだ……いやレディーだったのは知ってたけどさ。
こうやって顔を見ても……美人さんだなぁ……
大きく濃い紫色の瞳が美しい。
濃い紫色のアメジストを見たことがあるが、それ以上に美しい。
しかし……この世界のモンスターは封印されていた存在だったとは。
本当に生態系が破壊されているんだな……
そして、俺が倒したあのゾンビオオカミは……
「えっと……アコ、さんでいいのかな?」
「いや、今まで通りケル、でいい……そう言えば『ご主人様』の名前は? 聞いていないんだが……」
「あ、俺の名前? そう言えば言ってなかったっけ、俺は余崎、蓮。 レン」
レンという名前が女の子のようだと、あいつらにいじられたこともあったが……
この名前自体は気に入っている。
「ヨザキ、レンか……よろしく頼む、ヨザキさん」
「いや、レンでいいよ」
「しかし……」
どうもためらっているようだ。
「こっちもケルって呼ぶからさ、な?」
「む、むぅ……よろしく、頼む……レン」
アコさん……いや、本人がケルでよい、と言うのでケルと呼ぼう、はなんだか俯いていることが多かった。
俺を騙していた、という罪悪感があるのだろうか。
この裏切り……というか騙されたことに関しては驚きこそあったが、裏切ったな! 騙したな! という怒りの感情は無かった。
まぁ俺が勝手に勘違いしていた、というところもあるし。
「じゃあ……ケル、今の君は……真ん中の頭の子?」
「あ、ああ! わ、分かるのか?」
「なんとなくだけど」
この真面目な感じは紫色の瞳の頭ではないだろうか。
あくまでただの勘だが。
「改めて自己紹介しよう、私はスミレ、魔犬のときに真ん中にある頭が私だ」
「ってことは……」
「ああ、ちょっと待ってくれ、交代する……」
ケルが瞳を閉じる。
すると……
「……私が、レモンだよ! えっと魔犬のとき……」
「右の頭の子だろ、食いしん坊っていうか、食い意地張ってる」
「そ、そんなんじゃないし! も、もう……」
この子がレモンか……あんまり犬のときと変わった感じはしない。
元気そうな感じだ。
ただ……
「眼の色が変わるんだな」
「あ、分かった? 私たちさ、表に出ているとき人格で眼の色が変わっちゃうんだよね」
濃い紫色だった瞳はキレイな黄色に変わっている。
その名の通りレモンの黄色だ。
「じゃ、また交代するね……」
また瞳を閉じるケル。
次は……消去法でいけば桃色の頭の子か。
……長くない?
先ほどと違い時間がかかっている……
「……う、あ……ローゼ、です……ご、ごめんなさいっ!」
遅いと思ったら早っ!
一瞬しか見えなかったが……確かに瞳はあの儚げな桃色だった。
「……すまない、ローゼは人見知りなんだ……私たちとなら問題なく会話出来るんだがな……」
「そ、そうなんだ……えっと、今はスミレ?」
「ああ、そうだ」
また紫色に戻っている。
目だけじゃなくて他も結構違うな。
声は凛としている。
レモンのときは元気いっぱいな声で、ローゼのときはオドオドした感じだった。
喉は同じようなので、声優が声の質を変えるのが近いだろうか。
……とはいえ目のやり場に困る。
あの上着の下は……いや、駄目だ、考えるな。
「……そうだ」
俺はポケットの中のルクス銅貨を取り出す。
これで残りのお金は……小ルクス銅貨が五枚か。
「それは?」
「いやその……これで服でも着てもらおうと思って、下着とかは無理だろうから直接着てもらう形になるけど……」
「ッ! そ、そうだったな……」
恐る恐る、近づく。
あんまり近づき過ぎるとまた突き飛ばされてしまう。
まぁ裸で男があんなに近くにいたら、驚くよなぁ。
「……はい」
「う、受け取ったぞ……どう使えばいい?」
【強く念じてください。】
【そうすれば……服くらいなら出せるはずです。】
「わ、分かった……ええっとワンピースでいいかな……」
瞳を閉じ、ルクス銅貨を握るケル。
「あ、俺は後ろ向いてるから」
「ん……頼む」
俺はもうデリカシーのない男にはならない!
……かなり怒られたよ、アレだけは。
ケルたち……スミレ、レモン、ローゼ。
名前が見事にバラバラだ。
スミレは菫……日本語だ。
レモンはレモンイエロー……まぁ英語かな。
で、ローゼは……確かオランダ語? だった気がする。
ちなみにこの個人の名前は翻訳されていない。
そのままだ。
そのまま。
ハンバーガーの存在も知っているようだし、妙だ。
……どういうことなんだ?
ここは地球ではない。
なのに地球と同じ文化が存在する。
なぜだ? ……さっぱり理由が分からん。
なんて気を紛らすためにいろいろ考えているけど……やっぱり気になる。
この後ろに全裸の女の子……いやダメだ!
「終わったぞ……もう振り向いてもらって構わない」
ふぅ……
なんか疲れた。
「ど、どうだ? おかしくはないはずだが……」
あらかわいい。
ケルは白いワンピース姿だった。
サラサラの長く、キレイな髪との相性もよい……美人は何でも似合うな。
「おかしくないし、似合っているよ」
……でもこの下にはなにもつけてないんだよね。
ノーパン、ノーブラ……
「そ、そうか! それはよかった」
「他にも服があればよかったんだけど……」
「みんな風化してしまったからな……」
ケル曰く、魔帝という偉い人をトップに十二鬼将という貴族のような上流階級が十二存在する。
彼らがこの魔大陸を支配し領地として管理しているそうだが。
その十二鬼将に裏切り者がいてそいつらがモンスターの封印を解き、ケルがいた屋敷を襲撃した……らしい。
「心当たりって、あるか?」
「いや……あの男たち、と説明したがそもそも男かどうかも分からないんだ」
横に首をふるケル。
どういうことだろうか。
声を聞けば性別くらいは分かりそうなものだが。
「『姿隠しのコート』という特殊なコートがあって……それで個人が特定出来そうなものは全て隠されていたんだ」
そのコートはフード付きのコートでフードを深く被ると顔も声も判別出来なくなるという。
まさに、「姿」を「隠されて」しまう。
透明になるわけではないようだが、凄いアイテムだ。
「だがアレは規制されている……簡単に用意出来るものじゃないんだ、同じ十二鬼将並の権力がなければあの数を用意することなんて出来ない」
なるほど。
身分を隠すためのもので、むしろ身分の特定が出来た、と。
「ああ、サーベラス家以外の残りの十一の家が……容疑者だ」
そいつらが、俺をここに呼んだ……というのは考え過ぎだろうか。
だが、モンスターの封印を解くと同時に異次元に干渉した、とも考えられるんだよなぁ。
「まぁ、私たちの話はこんなところだが……レンはどこから来たんだ?」
「ああ、俺はな……」
さて、今度は俺の番か。




