「バゥ!」
私たちの名は魔大陸を収める偉大なる十二鬼将が一人、魔狼将軍トレーブル=サーベラスが娘、アコニートゥム=サーベラス。
親しい友はアコたち、と呼ぶこともある。
『えー? それよりも私たち個人の名前で呼ばれるほうが多くない? それにお父さんってさそんなに尊敬出来る人じゃなくない?』
『……多い、と思う』
う、うるさいな。
お前たちは父上を尊敬してないのか!
『……あんまり?』
『スミレはさー真面目過ぎるんだよね、ちょっとは肩の力を抜こ?』
お前たちは抜きすぎだ!
全く……ああ、今は亡き父上。
どうか私たちを見守ってください……
「お、お前たち! この館に何のようだ!」
「姫さん、あなたはちょっと邪魔なんですよ……せっかく魔狼将軍を消せたんです、娘のあなたがいると面倒になりそうなんでねェ?」
「おい隠者無駄口をたたいている暇はあるのか?」
「へへ、そうだったなァ戦車……じゃ消えてください」
隠者と呼ばれた男がそう冷酷に言い放ったその瞬間。
「あ、あああぁぁぁ……」
「ヘへ……姫さんは一生そのお姿でお過ごしくださいねェ? ケヒャ!」
父上なき屋敷に突如現れたあの男たち。
そいつらに謎の呪いをかけられ……私たちは魔犬の姿で固定される呪いを受けてしまった。
この呪いの首輪さえなければ……
やつらの裏切りを……魔帝陛下に伝えられるのに……
私たちの一族は頭部が三つある魔犬の姿と頭部が一つのニンゲンの姿の二つを持つ。
どちからかが偽り……というわけではない。
どちらも本性なのだ。
当然、ニンゲンのときでは頭の数が足らないから表に出る人格は三人の内から一人、ということになる。
『ニンゲンになっているときの私たちの脳みそってどうなってるんだろうね?』
『……自分の体ながら、謎が、多い』
まったくだ。
だがこの姿では喋ることすら出来ない……
どうすればいいんだ。
それにあの奇術師と呼ばれていた男の不可思議な力で父上の屋敷は風化してしまった……
あの男は……時を操っていた。
そんな奴にいったいどうやって戦えばいいんだ……
私たちは無力だ……
誰か、味方になってくれる者を探さなければ……
心当たりは、ある。
まずは屋敷から出なければ。
私たちは、ここまでなのか。
味方を探そうと風化した屋敷から出たのはよかったが……
怪物に出くわした……
こんな、獣に……太古の昔から蘇った異形、モンスターに殺されるだなんて……
奴らの裏切りは伝説となっていたモンスターを大量に蘇らせた。
女神ルクスがいたという神話の時代……女神が作りだしたルクス硬貨を狙って闇の勢力が作り出した怪物、それがモンスター。
それを蘇らせるのが、奴らの目的だったとは……
軽率だった。
浅はかだった。
こんなところで終わるのか……
「光力、装着ッ!」
誰だ……?
この光は……?
「パワースラッシュ!」
パワースラッシュ……?
レモン! ローゼ!
目を覚ませ!
『なに? もう、限界だよ……?』
『……あれって伝説の……』
そうだ、伝説の……聖光剣士だ!
すごい……これなら……!
あっと言う間にモンスターを倒して行く聖光剣士。
この力さえあれば……
「装着解除……ふぅ」
な!?
鎧を外した聖光剣士……その顔には魔の要素が一つも存在しなかった。
あれは純人……純粋なニンゲンだと!?
『うわぁ……終わったー』
『……純人が魔族の私たちを助けてくれるわけがない』
……だろうな。
私たちの人生は、こんなものか。
やはりこんなところで終わる、負け犬だったか……
ああ、光が暖かい……
これが光力による浄化か?
苦しまずに父上の所に逝けるのは幸運だったな……
「えーと癒しの光よ、我らの傷を癒せ……ヒールライト!」
は!?
ヒールライトだと!?
光力よる回復術だろう、それは!
今はただの魔犬でしかない私たちの傷を治すだなんて……
何者なんだこの男は……
この男……ただの純人ではないのか?
「よしよし……大体治ったかな」
本当に傷を治してしまった。
しかもほんの数分で。
あの程度の傷なら高名な回復術師でも数時間はかかるものなのに……
しかもこの男はまるで疲れた様子すらも見せない。
化け物か、こいつは。
「お前たち……俺の言っていることは分かる……わけないか」
普通、魔犬ならばある程度は人の言葉を理解するものなのだが……
なにを勘違いしているんだ?
しかし、なんだこの男の言葉は……言葉の意味は分かるが、なにを言っているのか分からない……
言葉の意味だけが伝わる。
なんなんだ、これは。
『よく分かんないけど……味方? よかったー』
『……まだそうだって決まったわけじゃないし……油断しちゃダメ。 あとあくびもダメ』
『いいじゃんそれくらい!』
そうだ、サーベラス家の女ならばあくびなどしてはいけない!
分かっているのか? レモン。
『う、分かってるよー』
だといいのだがな。
はぁ、私たちはいつニンゲンの姿に戻れるんだ?
「お前たちの主人は……どこにいるんだ?」
……どうしようか。
この男、私たちがサーベラス家の者だと気づいていないようだぞ。
ただの魔犬、ないし人大陸で飼われている犬だと思っているようだ。
『どうする? ねぇどうする?』
『……私に……いい考えが、ある』
なに?
……なるほど、それはいいかもしれない。
「これは……廃墟、か」
キョロキョロと辺りを見回す聖光剣士。
そう、私たちは風化してしまった屋敷に男を連れてきたのだ。
「お前たちの主人は……死んでいるのか?」
「…………」
うっかりここでなにか言ってしまったら台無しだ。
ここは静かに……
『うーなんか話したい』
我慢するんだ。
あいつが勘違いをしてくれるのを待つんだ!
「……な、なでなでしてもいいか?」
かかった!
『作戦、成功……』
これが私たちの作戦。
忠犬のふりをするというものだ。
こんな首輪をつけてこんな風化した屋敷に招待すれば勘違いしてくれるんじゃないかと、思っていたが……
『大成功だね!』
ああ、全くだ。
お、撫でるようだな……
「よしよし」
「…………クゥン」
わざとらしく鳴いてみる。
ふ、どうだ。
これが私たちの力だ!
力とはなにも武力だけではないと父上はおっしゃっていたが……その通りだな。
『……それはちょっと、違う気がする』
うるさいな。
しかし、その、なんだ……案外、撫でられる、というのも悪くないんだな。
うん、もうちょっと続けれていいぞ。
男に触られるのは初めてだが……こんな感じなのか。
『え、ちょ、なにそれズルい! 私も私も!』
「ウー」
「悪い、悪い。 お前にも、だな」
レモン……
お前というやつは……
「そういやお前もか……お前たちの主人はどうやっていたんだろうな……」
ん?
なんだ、ローゼお前もか?
『私……なにもしてない』
だが撫でられたいんだろう?
私はもう十分撫でられたからいいぞ。
『いいの? ……じゃあお願い』
「クゥン」
「わかった、じゃあ……」
男の手がローゼの頭を撫でる。
「……ワン」
『……あ、これ結構いい……もうちょっと続けて……』
「どうする? 俺と一緒に来るか?」
その言葉を待っていた。
これほどの実力者……そうそう会えるとは思えない。
これはきっと、運命だ。
「ワン!」
こうして私たちはこの男についていくことを決めた。




