「我が愛する……」
水浴びが終わり、体をルクス銅貨で出したタオルで拭いていく。
うん、なかなか良い手触り……けっこう良い品だな。
「新しいパンツで更にルクス銅貨を使ってしまったな……」
流石にまた同じものを履きたくなかったので、新しいものにしたが……
ふぅ。
また出費してしまった。
まぁ最近収入が安定して良くなって来ているし、LPもあまり消費し過ぎない戦闘にも慣れてきたし……
多少の贅沢は問題ない、はず。
はずである。
逆に不衛生な状態で体を壊してしまったら最悪、死んでしまうことも考えるとこれでいいのかもしれない。
「こっちの古いのは……水で洗っておくか」
川の水で洗うだけ洗っておこう。
乾かすのはまぁ後にして今は剣の中に入れてっと……
寝るときにでも干して置くか。
適当な枝を洗濯竿にしてさ。
「じゃ出発だな……おーいケル、どこに行ったー?」
見当たらないケルを呼んでみる。
どこにいったんだ? あいつらは。
「ワン!」「……バゥ」「…………」
お、いたいた。
三つの頭は俺の体を見ている……
どうもちゃんと服を来ているのかどうかが気になるようだ。
なんだかね、男に耐性のない乙女かよ。
今時そんなのまずいないぞ?
「お前たちどこにいたんだ? まあいいや、出発するぞ」
無事合流出来た俺たちは川辺を歩いて行く。
この辺りにはモンスターがいないのか、全く出くわすことが無かった。
平和なのは良いのだが、全くモンスターと出くわさないのも困る。
俺はモンスターを狩ってお金を稼ぎたいのだ。
危険手当もないし、貰えるお金も日本円ですらない超絶ブラックな職場に強制的に就職することになってしまったが、これ以外で生きるすべはない。
早く安全な環境の職場に再就職したいものだ。
でもそうなるとケルと一緒にいられないか。
だいぶ愛着が湧いてきたし、離れるのは嫌だなぁ。
「ん? なんか暗いな……」
まだ日は高いはず。
雲に日が隠れてしまったかな?
「……ッ! 違う、こいつは――」
……そんな呑気な話じゃなかった。
大きい、影。
下手なビル並の大きさの……怪物。
「ギャロァァアア……」
近づいて分かった、鼻を刺すような激臭。
片目は腐り、歯は何本も抜け落ちている。
こいつは……ゾンビだ。
しかも巨大なオオカミの。
「クソ、こんなのどうすればいいんだよ……」
この大きさの怪物退治は……光の巨人の仕事じゃないのか。
こんなの剣持ってるだけの一般人が倒せるわけないだろ……
幸い、こちらには気づいていないようだ。
「ス……ミ……ロ……レ……ン」
スミロレン?
なにかを呟いているようにも聞こえるが。
まぁそんなふうに俺が聞こえるような気がするだけで、深い意味は無いだろう。
脳みそ腐ってそうだし。
「ワ……ア……イ……ム……ス……」
また意味不明な言葉だ。
このゾンビオオカミがこっちに気づく前に退散しよう……
川の先とは違う方向に進んでいるみたいだし、まずは逃げよう。
最終的にはこいつくらい楽に倒せるほど強くなりたいが、今じゃ絶対に無理だ。
「一応情報をくれ」
【検索中……】
よし、後で確認だ。
検索にはちょっと時間がかかるみたいだしな。
「今は逃げるぞ、ケル。 ……ケル?」
ケルの様子がおかしい。
三つの頭全てがあのゾンビオオカミから目を離さない。
「ワフ……」「クゥン」「……グルゥ」
「逃げるぞ! 今の俺はマッドゴーレムを倒すのにすら苦労しているんだ、あんなの倒せるか!」
ケルが俺を強く睨む。
「う……あとで絶対になんとかするから、そうだ、この銀貨を使って新しいスキルを覚えるから! それから、それからだ」
新しいスキルを覚えればなんとかなる可能性がある。
ぶっちゃけ1パーセント以下だが。
「…………」
渋々と行った感じでようやく頷いたケル。
「ここは一旦引く……逃げるんだ、生き残ればなんとかなるけど、ここで死んだらそれまでだ……だからここは逃げる、逃げるんだ」
ケルと一緒に俺たちは逃げ出した。
川から離れることになるが……命を優先するしかない。
ゲームと違って、死んだらそれまでなのだから。
「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫だろう」
雑木林の中突っ切って行くとある程度開けた場所に出た。
……あのゾンビオオカミの姿は見当たらない。
なんとか戦闘は避けられたようだ。
「そうだ、検索は終わったか? 情報を見せてくれ」
【検索中……検索中……】
【データがありません。】
は?
データが無い?
壊れているのではなく、無い……
またか。
どうゆうことだ?
【完全に新種のモンスターだと予測されます。】
【当剣の搭載されているモンスター図鑑に一切の情報がありませんでした。】
【あくまで予測ですがAランクより上のSランクより更に上、SSSランク以上のモンスターだと思われます。】
SSSゥ!?
やっぱり化け物クラスじゃねーか。
「戦わなくて正解か……マジモンの化け物だ」
今はまだ戦うべきじゃないな。
よかった、よかった。
上手いこと逃げられて……あれ。
「なんで暗いんだ……? って……あ、ぁ、ああ……」
「ギャロァァァアアア!!!!!!!」
撒いたはずの、ゾンビオオカミが、そこにいた。
現在のルクス硬貨はルクス銀貨一枚とルクス銅貨一枚、小ルクス銅貨五枚。




