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「水浴びでもするかぁ」

「お……ここからは滝壺か」


 アシッドスパイダーを倒し、ケルと一緒に先へ進んで行くとまた滝壺が。

 が、今回のはだいぶ小規模なもののようだ。


 前に【ミラージュダッシュ】で駆け下りた滝壺はなかなか迫力のある急なものだったが、今回のは周りの崖も険しくないし、これは【ミラージュダッシュ】なしで降りても問題無さそうだ。

 ……っていうか、【ミラージュダッシュ】はもう二度と使いたくないけど。


「よっ……と問題なく降りれたな」


 ちょっとした崖を降る。

 うん、問題なく降りれた……が


「……ちょっと臭くなってきたな」


 ふと体臭が気になった。

 流石にそろそろ風呂に入りたい……がこんなところに風呂があるとは思えない。

 ……この滝壺は川の流れも大人しいし、水浴びでもしたほうがいいかな。


「水浴びでもするかぁ」


 この辺りにモンスターはいないようだし、ちょっと休憩しよう。

 そう思い、Yシャツを脱ぐ、すると――


「バ、バゥ!」


 俺のあとから降りてきたケルが突然、後ろを向いてしまった。

 ん? どうしたんだ?


「おいおいどうした……」

「ワフ……」


 チラチラと俺の姿を盗み見るケル。

 なんだ?


 ……もしかして。


「俺の裸が気になるのか?」

「ワ、ワン!」「バゥ!」「グルゥ……!」


 そう問いかけたらどこかへと行ってしまった。

 なんだかね。


「犬のくせになんで人間の男の裸で恥ずかしがるのかね……」


 不思議な犬だ。

 犬にしては頭が三つあるからか妙に知性が高いし、それが関係しているのかな。


「さて、ルクス銅貨を使ってタオルでも出して置くか……ハンカチじゃ流石に無理があるし」




「あれ……俺、こんなに筋肉質だったか?」


 水面にはなかなかに筋肉質な男。

 細マッチョくらいだろうか。

 しかも腹筋はしっかり割れている。


「柔道をやっていた時もこんなにはならなかったのにな……」


 最近は殆ど運動していなかった。

 だからちょっとプニプニしていてだらしなかったのが俺のお腹のだったはずなのだが。


「ここ数日でこんなに変わるものなのか?」


 この剣に知らず知らずのうちに肉体改造されているのか。

 この世界の空気中にはプロテインでも入っているのか。


「凄いな俺の体……!」


 この体だったら……!

 中学で初段を取ってから全然やっていない柔道でも活躍出来るかもしれない。


「って体が優れているからって勝てるもんでもないしなぁ……」


 昔のことを思いだした。

 俺が小学校、中学校と通っていた柔道教室ではある後輩がくるまで俺が一番だった。

 柔道教室にいた俺以外の子供は俺よりも年下だったから、体格差もあり俺は最強だった。


 流石に大人には負けるが、俺は強い……! 天才だ!

 なんて子供ながらに思っていたのだ。

 まぁそんなわけもなく……俺は天才ではなく、井の中の蛙でしかなかったのだ。


 ある日やってきた後輩……同じ小学校の一つ下の少年。

 彼は……大きかった。


 背は一つ上の俺よりも大きいし、体重も相当なもの……まるで重戦車のような少年だった。

 デブ、デブ、と学校でいじめられ強くなりたいと、この柔道教室に来たそうだったが……

 彼はすぐにその才能を開花させた。

 受け身を覚え、技を覚えていったら、圧倒的な強さで天狗になっていた俺をあっさり打ち負かした。

 そのまま地域の柔道大会でも優勝し、高校も柔道が強いことで有名なところへと進学していった。


 この時、俺は才能、身体の限界を察した。

 生まれた時から強い奴は強い。

 弱い奴が苦労して強くなっても元々強い奴は既にもっと強くなっている。

 どうあがいても、勝てないものは勝てない。

 それ気づいてしまったら、柔道をし続け強くなることが馬鹿らしくなってしまった。

 こうして、俺はけじめとして柔道の初段認定試験で合格すると同時に柔道から足を洗ってしまった。

 元々、あの後輩に負けた時点で真面目に柔道をやらなくなっていたのであまり後悔もなかった。


 そんな例の後輩だが今では大学生、柔道が強いことで有名な大学に通っているそうだが最近はあんまり戦績が振るわないと聞く。

 柔道とは単に体が優れていても勝てるものではないようだ。

 全国クラスともなると、町で一番のちょっと優れている程度では本物の天才、と呼ばれるような超人たちには勝てないらしい。


 なんだか、バカバカしいよな。


 そう思って俺は、柔道から、戦いの世界から足を洗ったはずなのだが。


「まさかこんな形で戦いの中に身をおくことになるなんてな……」


 こんなインチキな強さでなんの副作用もなし、だなんてありえない。

 だが、今は。


「この力で先へと進んでいくしかない……」


 結局、俺は弱い。

 弱いままだ。

 なにも成長していない。


 強いのは、剣の方。

 強いのは「オートパイロット」のお陰。


「勘違いしないようにしないとな……じゃないとまたミラージュダッシュの二の舞いだ」


 ……水、冷たッ!


 現在のルクス硬貨はルクス銀貨一枚とルクス銅貨二枚、小ルクス銅貨五枚。

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