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「今日だけは休むよ」

 ……行かないと。

 こんなところで燻っていても仕方がない。

 先に進めない。


 向上心の無いやつはバカだって、有名な作品でも言ってたしな……

 成長しなきゃ。


「行くか……」


 そう思い立ち上がろうとしたが……

 体が重い……

 やっぱり足腰が悲鳴をあげている……


「ワフ!」「バゥ!」「……!」


 休め! と言わんばかりに膝に乗せていたケルが跳びついてきた。

 ……今日は一日だけ休もう。


「わかったよ、今日だけは休むよ」


 今回の一件を教訓として、今日だけは、休もう。

 ……いったい俺と父さんの間に何があったのかは思い出せないけど、いつかは日本に帰らないと。

 現時点では帰還手段がひとつしかない以上、ルクス硬貨を集めるしかない。


 ……じゃあどうすればいい?

 一体、何体モンスターを狩り続ければ俺は日本に帰れるんだ?

 俺は……俺はッ!


「クゥーン」


 ケルの真ん中の頭が見上げ、右の頭と左の頭が俺をペロペロと舐める。

 ……焦ってたら、またさっきの二の舞いか。


 慎重に確実に、進んでいこう。

 ケルの真ん中の頭を撫でる。


「目標が大雑把過ぎるのが行けないんだよな、こういう大きな目標があるときは小さな目標を作って行かないと」


 そう、日本に帰るという目標には金貨で百枚必要だ。

 ならば、どうするか。


「金貨百枚集めるには……まず金貨を手に入れることから始めないと」


 今は銀貨が一枚と小ルクス銅貨が少々。

 足りない。

 絶望的に金が足りない。


「とりあえずは金貨一枚! そこからかな」


 まずはそこから。

 今は焦らずに金貨を集めるところから始めよう。

 この森には結構モンスターはいっぱいいるし、時間をかければ金貨一枚分集めるのは難しくないはずだ。

 ……考え方を変えよう、今はこの異世界生活からの脱出しか考えて無い。

 けどこの状況を楽しむのはどうだろう?


 そうだ、二日前はワクワクしてたじゃないか。

 未知の冒険に、見たことのない世界に。


 それがどうした。

 ちょっと辛くなっただけでホームシックになって……


 そうだ楽しもう。

 楽しむんだ。

 だって俺には……拾い物とはいえ力がある。

 十分戦える。

 着の身着のままの無理ゲー状態からのスタートじゃない。

 俺はかなり、恵まれている。


 大丈夫だ。

 俺なら出来る。


「……よし! 今日は寝る! 眠って食って英気を養うぞ!」




「さてなにを食べようか」


 体はなんとなくダルいがお腹が空いた。

 時計を見る限り昼だ……朝食を食べてない。


 通りで腹が減るはずだ。

 腹が減った状態で寝たくないし、なにか食べてからにしよう。


「そうだ、ケルはなにが食べたい? またハンバーガーにするか?」

「ワン!」「バゥ!」「…………」


 三つの頭がこくこくと何度も頷く。

 よしじゃあ……小ルクス銅貨二枚使って呼ぶか。

 一枚で出すのはかわいそうだし。


「こい! テリヤキハンバーガー!」


 さて俺は……なにしようか?

 ガッツリしたものを食べたいような気がするが、あんまりガッツリし過ぎるものだと胸焼けしそうだしな……

 うーむ、そんなワガママな望みを満たす食べ物は……

 食べ物は……


 ……! アレだ!


「よし、タレかつ丼だ、タレかつ丼……タレかつ丼をくれ!」 


 小ルクス銅貨を二枚使い、タレかつ丼を召喚する。

 そうかつ丼の一種、タレかつ丼だ。

 俺自身に活を入れるためにも、今日はかつ丼だ。

 ……もう小ルクス銅貨一枚の料理じゃ満足出来ない……すっかり贅沢者な舌になってしまった。




 タレかつ丼。

 それは卵でとじないカツ丼。

 元々は新潟県の料理らしいが……まぁそれは置いといて。


 昔一度食べたことがあるが、これが美味い!

 オマケに揚げ物なのにまぜかあっさりなのだ。

 ああ、もう一度食べたくなったぞ!


「よし来た! こい、タレかつ丼!」


 召喚されたタレカツ丼が俺の目の前で誘惑する……

 ああ、美味そうだ……いや、美味い、絶対美味い。


 タレかつ丼は美味しいかつが何枚も入った豪快な料理だ。

 その上卵で一体化していないため、わけて食べることが容易になっている。


 さぁ、まずは一口……柔らかジューシー!

 何枚も入ったこのかつがたまらない。

 そしてこのソースでなく……タレ。

 そうタレだ。

 恐らく醤油ベースであっさりめのこのタレがニクイ。

 テリヤキソースとはまた違ったこの味わいが……たまらない!

 甘いというか、なんというか、ともかくこのかつにフィットして肉厚なかつをよりおいしく食べられる。

 食べれてしまう!

 そのタレがかつの下に隠れていたご飯にまで染み込んでいて……。


 ああ! 美味しい!


「ハッハッハッ……」

「なんだ、食べたいのか? しょうがないなぁ……ほら、一枚あげるよ」

「ワン!」「バゥ!」「……ガルゥ!」


 俺からもらった一枚のかつを器用に三つにわけて食べ始めるケル。

 さて、気に入ってくれたかな?


「…………!!!!!」


 おお、いつも気だるそうにしている左の頭の目が大きく見開いている。

 どうやら彼女はとくに気に入ったようだ。


 他の頭も美味しそうに食べているが、左の頭が一番反応がいいかな。

 ……ってまた餌付けしてるよ、俺。


 まぁいいか。

 当人ならぬ当犬が幸せそうだしな。

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