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「レディーにすることじゃなかったな」

「もう逃がさないぞコラァ!」

「メェー!」


 【ミラージュダッシュ】で走っているとあの逃げ羊に出くわした。

 もう逃がさないからな!


【スリーブモードを終了し、バトルモードに移行します。】

【アプリケーション「オートパイロット」を起動。】

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】

【戦闘を開始します。】


「パワースラッシュ!」


 相手よりも早く移動出来る。

 分身も出来る。


 だったら、羊を逃がすはずがない。


「メェ……」


 断末魔をあげながらルクス硬貨になっていく羊。

 よし。

 今回の稼ぎは……六枚か。


【戦闘終了。】

【羊型モンスター「サンダーシープ」の群れの全滅を確認しました。】

【アプリケーション「オートパイロット」を終了。】

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」の脚部以外を収納します。】

【バトルモードを終了し、メインモードに移行します。】

【お疲れ様でした。】


 足りないな……俺は一体いつまでこの世界で暮らせばいいんだ?

 もしかして一生……

 そうなる可能性が一番高いな……

 どうやって来たのかも分からない異世界。

 せめて、せめてなにか一言……父さんに言っておけば良かった。




「暗くなってきたな……」


 適当に休みを入れているが走り続けると流石にちょっと疲れてきた。

 今日はこの辺りにしよう。

 昨日と比べればだいぶ進めたし。

 ケルもよくついて来てくれている。


「ワン!」


 あ、いやこれは単純に走るのが楽しいだけだな……


「まぁいいさ、よし今日はここをキャンプ地としよう!」


 さて、【ルクス=サンクチュアリ】で安全な寝床を用意するか。

 ……ケルは結界の中に入れるかな?

 


「よーし、ケル、ちょっと離れてろよ……」


 剣を構え地面に突き刺す準備をする。

 発動に必要な言葉は……これだこれこれ。

 LPに問題もないし、大丈夫だな。


「閃光よ、我らが敵を遠ざける聖域を! ルクス=サンクチュアリ!」


 地面に剣を突き刺すと光の波が発生しゆっくりと周りに広がって行く。

 ケルになにか害は……無さそうだ。

 ただビックリはしてるみたいだが。


「ワ、ワフ……」「バゥ!?」「……!!!」


 はは、かわいいやつめ。


【現在のLPは490。】

【明日の朝にはフルチャージされます。】




 柔らかそうな土の上に剣から引っ張りだした寝袋を広げる。

 昔学校の行事でキャンプをしたから分かるが、硬い土の上で寝るのはなかなか辛い。

 寝るなら柔らかいところだ。

 まぁ柔らかすぎると逆にダメらしいが。


「さて早く寝るか……あんまりやることないし」


 欲を言えば風呂に入りたい……

 日本人として何日も風呂に入らないのは嫌だ。


 まぁ三日ぐらいならギリギリ許容範囲内だけどさ……


「そうだ、ケル、ちょっと来てくれ」


 ケルを手招きする。


「バゥ?」


 俺に誘われ近づいてくるケル。

 ……三頭犬もなかなかかわいいな。


「動くなよ……っ!」


 持ち上げてオスかメスかを確認しようとした瞬間!


「グルゥゥゥ!」


 左の頭が噛み付いて来た!

 痛ッ!


「なんだよ……ちょっとオスかメスかを確認したいだけなんだけどな……」

「ゥウウウ……!」「……バゥバゥ!!!」「グルッ!」


 三つの頭が全部怒っている……

 なんか、失礼なことしたか? 俺。

 

「バゥバゥバゥバゥバゥバゥ!!!!!」


 未だに怒っているし……

 なんだろう、なにかを伝えたいのか?


 あ、もしかして。

 いやでも。

 ……こいつ頭いいみたいだし。

 確認するだけ確認しよう。


「お前たちって……メス?」

「ワン!」「バゥ!」「……!」


 三頭犬はコクンと頷いた。

 あ、君たち女の子だったの……

 それは失礼なことをした。


「ゴメン、ゴメン。 レディーにすることじゃなかったな」


 プィと横を向かれてしまった。

 ……怒らせちゃったなぁ。


 でも日本語分かるんだな。

 いや、意味だけを理解しているのか?

 ……イマイチよく分からない。

 まぁ真っ当な犬ではないのは確かだし、なにか特殊な能力を持っているのかもしれない。


「夕食は贅沢なのやるから、な?」

「ワン!?」「……バゥ!?」「……クゥン」


 食いしん坊な右の頭がすぐに反応した。

 正直なやつだ。

 真ん中の頭はなにをやっているんだお前は! といった感じでツッコミを入れたがよく見るとよだれがちょっと出てる。

 左の頭も呆れたようにため息をついたが、その目線の先はルクス硬貨が入った俺のポケットだ。


 訂正。

 みんな食いしん坊だ。


「よし、じゃあ夕飯だな……肉がいいか?」

「ワン!」


 肉ね、さてなにがいいかな。

 ハンバーグ! だと昼のハンバーガーと被るしな。

 ……じゃあステーキだ!

 あんまり違いがないかもしれないけど!




「来い! 高級ステーキ!」


 小ルクス銅貨を二枚使いステーキを呼び出す。

 さぁどうなる?


「…………!!!」


 おお……すげぇ。

 ちょっと前まで鉄板の上で焼かれていたであろう……美味しそうなステーキ!

 それが皿の上に置かれ出てきた!

 しかも結構大きい。

 ステーキというざっくりした望みだったが、ちゃんと叶えてくれるんだな。


 そんなステーキを見て三つの頭全ての目を大きく見開くケル。

 え、これ本当に食べていいの!?

 そう言いたそうだ。


「ああ、いいんだよ食べて、今日はお前たちに助けられたりしたしな」

「ワン!」「バゥ!」「……!」


 ものすごい勢いで食いついた!

 うん、やっぱりいい食いつきだ……

 さて、夕飯としては早めだけど俺もなにか食べようか。

 適当な岩に座りつつ考える。


「……そうだミートボールスパゲティにしよう」 


 ある映画で泥棒たちが美味しそうに食べていたあのスパゲティがふと、脳裏をよぎった。

 あれ……食べてみたいな……


「ミートボールスパゲティ……ミートボールスパゲティ……ミートボールスパゲティ!」


 小ルクス銅貨を二枚取り出しイメージする。

 今日は銀貨を一枚手に入れられたんだ。

 ちょっと贅沢してもいいだろう。


「おお、来た! 夢のミートボールスパゲティ!」


 あのスパゲティが……ここに!

 ……いただきます!


「うわッ……ミートボールがジューシーで美味い! このミートソースも絶品じゃないか! それにこの麺……スパゲティ本体もしっかりアルデンテで……美味しい!」


 ああ、美味しい……

 二枚も使ったかいがあった。


 このミートボール。

 こいつが大きくてジューシーで美味い!

 このミートボールスパゲティ、今は亡き母さんに作ってもらったことがあるがあのときはミートボールはお弁当にいれる小ぶりなものだった。

 それじゃない、これじゃないのだ、あの映画で食べていたミートボールはもっと大きかった……!


 大体! 母親が創る料理というものは大半がいい加減なのだ。

 バターを使えと書いてある料理本を無視してマーガリンを入れるし!

 大した違いはないわよって、違うわ!

 味わいが全然違うんだよ!


 ……ってもういない人に文句を言ってもしかたないか。


「ウー」


 お?

 食べ終えていたケルの右の頭が俺を……俺の持つミートボールスパゲティを見つめている。

 ……しょうがないなぁ。


「ほれ、残りも食べるか?」

「ワン!」




 夕飯を食べ終えると辺りはすっかり真っ暗闇だ。

 もう日没か、そう思い立ち上がった瞬間……


「あ、あれ……」


 あ、足が、言うことを聞かない……

 まるで、石みたいになったように全く動かせない……

 そのまま俺は倒れこんでしまった。


「バ、バゥ! バゥ!」


 ケルが俺に近づく。

 心配、してくれているのか。

 あ、ありがたいな……


「ウグッ! あ……ッッッ!!!!!!」


 ケルが近くに来てくれて、気が緩んだ瞬間。

 足に激痛が。


「な、なんだってんだ、いったい……くッ……」


 ケルにみっともない姿は見せたくなかった。

 例え犬であろうとも立派なレディーの前なんだから。

 男のちっぽけなプライドだった。


「な、なんだこれ……」


 俺が痛みに呻いていると画面に文字が表情された。


【ミラージュダッシュの副作用の可能性があります。】


 なに、【ミラージュダッシュ】の副作用……だと?


【ミラージュダッシュは脚部を光力で強化する術です。】

【その結果、知らず知らずのうちに脚部を酷使し過ぎたのだと予測されます。】


 そう言えばちょっと疲れたことはあったけど……

 こんな痛みがなんで急に……


【ミラージュダッシュは脚部の痛みを緩和します。】

【ですが、それはミラージュダッシュが有効である間だけ。】

【ミラージュダッシュの効果が切れたと同時に緩和されていた痛みが襲ってきたのだと予測されます。】


 麻酔で痛みを誤魔化していたら、麻酔が切れた途端に痛くなるようなものか?

 それにしても、これは……キツイ。


「痛みで、意識が、飛びそうだぞ……」

【堪えてください】


 堪えろって、我慢しろってことだろ……

 ああ、ダメだ。

 意識が……


 せめて、寝袋の、中に、ぅあ……

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