「特権」
ふぅ、ようやく一息つけるな。
俺がほっと一息ついていると、あの狐のお爺さん――魔帝がストラテゴ=サテュロスに話しかけていた。
「あなたの望みは世界を支配することですか? やれやれ、野心があることは良いことですが……どんなことにも限度がありますよ? 少しオシオキが必要ですね」
またあの光だ。
俺や来栖くんの扱う光力とはまた違う力。
「ひ、や、やめろぉぉぉぉぉ! 来るな、来るなぁぁぁ!!! あひゃ? あらぱぱぱぱぱぱあぱっぱぱああああああああああああぃいいいぁあああぅ?」
なんだ? こ、壊れた?
あの七色の怪しい輝きに包まれたストラテゴ=サテュロスは……発狂してしまったらしい。
あうあう、とかいぺぺぺぺ……などと意味不明なことを言っている。
光力を使っても翻訳できないんだ、マジで意味の無いことを喋っているんだろう。
【壊れた? ヒトとしてですか?】
【そういう意味でなら既に壊れていましたよ?】
アオって時々辛辣だよね。
【いえ、当剣は事実を言っただけですよ?】
【絶対に失敗すると分かっているのにもかかわらず、それでも試みようとするのはもはや狂人と一緒でしょう?】
どういうことだ?
【あの短剣は生物を蘇生させることまでは出来ないんですよ】
【流石にそのことは分かっていたはず……】
【スキルをシュガー=スノウラットに移植できるくらいには短剣を調べていたはずですからね】
なるほど。
魔道具に宿っていた力をスキルとして移植できるくらいには、知っていたはずだからな。
なにが出来て、なにが出来るのかくらいは把握していたはずだ。
「ファクトリージャイアントはモンスターとして死んだ……」
【ええ、ですからファクトリージャイアントを取り戻すことなんて出来るわけないんですよ】
死者はよみがえらせることは出来ない。
ルクス硬貨ですら出来ないことだ。
当然といえば当然だった。
発狂したストラテゴ=サテュロスはどこぞへと連れていかれた。
あの状態だ、恐らく医務室的な場所にでも連れていかれたのだろう。
ちなみにサテュロス家の代表は……
「うちは関係ない! 関係ないんだ!」
……と繰り返していた。
まぁ一緒に連行されたけど。
「本人にいろいろ聞いてみたかったが……仕方ないか」
「あれ、元に戻るのか……?」
「戻るとは思う……多分……」
多分かよ。
「陛下が直々に動くなんてそうそうないから……私たちも初めて見たし」
「そうそう、特権を使うとこなんてさ」
「特権?」
レモンとローゼがいう特権とはなんだろうか?
スキルの一種……と言ったところだろうか?
「まぁそんな感じ……かな?」
「詳細不明の超スキル……って言えばいいのかな……」
なんでも特権とは、歴代の魔帝が持つ特殊なスキルらしい。
魔大陸にいる間限定でわりとなんでもありなことが出来るスキルらしい。
例えば分身を創り出したり、もしくは発狂させる光を生み出したり、または幻覚を作りだすことも出来るし、絶対に逆らえない命令を出すことさえも出来るらしい。
マジでなんでもありだな。
ただその詳細は一切謎。
十二鬼将にすら教えられていないのだという。
「謎なのか」
「うん、謎なんだ……お父様はあえて秘密にすることで敵を必要以上に警戒させる目的があるんだろう、って言ってたけど……」
未知、か。
確かになんだか分からないものこそ怖いよな。
恐怖の根源とは無知である、とか言うし。
ふと横を見ると鎖でガチガチに固められ動けなくなっている来栖くんの隣にシュガー=スノウラットがいた。
なんだか……話してるみたいだな。
ちょっと見守ってみようか。
「あなたも、騙されていたのですか?」
「ああ……僕は魔帝さえ殺せば全て終わる……そう思っていたでも、違った、魔帝は関係なかった、関係なかったんだ……」
来栖くんとオリジンの間にあるつながりは、完全になくなったわけじゃない。
アオがオリジンを掌握しているため、来栖くん自身はなにも出来ないが翻訳くらいは出来ているらしい。
【流石に翻訳機能まで持っていくのはかわいそうかと思いまして】
【あ、そうそう真相について話しておきましたよ?】
【もう魔帝を殺そうだとか、考えないはずです】
来栖くんによる魔帝暗殺計画は未遂に終わるようだ。
よかった、よかった。




