「救世主」
元メイド長と別れ、ファクトリージャイアントへと近づいていく。
走り出してからそう時間は経っていないのだが……ハイペースで巨人が崩れていく。
今にも右腕が取れてしまいそうだ。
【左腕もかなり怪しいですねー】
【あ、所有者そのまま突っ込んでください】
【そこに空いた穴から内部に侵入しましょう】
「了解!」
タイミングを見計らって巨人の胸部分に開いた穴へと飛び込む。
さて内部はどうなっているのだろうか……
「これは酷いな」
外部も穴があいて酷い状態だったが、内部はもっと酷い状況だった。
あちこち穴が開いていてとても開放的な空間が広がっている。
劇的な変化が起きたんだろう、匠の仕業に違いない。
【冗談言ってないで、先に行きますよ!】
【大部分が崩壊してますが、反応はこの先……巨人の頭部にいるようです】
はいはい。
さて、今が巨人の胸のあたりだから……
上に行けばいいのか。
赤い方の聖光神剣の持ち主は破壊しながら上方向に進んだらしく、天井に穴が開いていることが多い。
今の強化された脚力なら軽く跳んでいけば頭部に行けるだろう。
わざわざ階段を探す手間が省けるのは助かる。
「ん……なんだ?」
ふと外を見るとなにかが飛んでいる……服を着ているところを見るに、魔物ではなく魔族のようだ。
しかも軍服……なるほど、空を飛べる鳥系の魔族は飛んで避難しているのか。
例の元メイド長といい、大体の魔族は逃げ出しているようだし避難する魔族のことはあまり考えなくて良さそうだ。
【どうりで誰もいないわけです】
【大体は逃げ出したようですね……そういう命令が出たということもあるんでしょうけど】
【ただ巨人頭部にはまだ何名かいるようですね】
それでもまだ残ってるのがいるのか。
なにか目的があるんだろうか……?
「止めろぉ! 止めてくれぇ! あ、あ、ああ……」
巨人の中をジャンプして移動しているとなにやら嗚咽が聞こえてきた。
ここが頭部……のはずなんだが。
天井はなくなり青空は見えるし、壁は穴まみれで凄く開放的だ。
ぶっちゃけ元の姿が分からないくらい破壊されている。
多分、あそこにいるのが軍部のトップ、ストラテゴ=サテュロスなんだろうけど……
部下らしき魔族に支えられて辛うじて立っている、という状態だった。
「これだけ壊せばもう悪さは出来ないだろう……これで僕が救世主だ」
部屋の反対側でアオによく似た赤い剣を持つ鎧姿の男がそうつぶやく。
日本語だ。
龍の魔族でミサシで会った紅さんと同じく、アオによる翻訳のない完璧な日本語……
やはり赤い聖光神剣の持ち主は日本人だった。
「貴様さえ! 貴様さえ現れなければああああああ!!! 全て成功していたはずなのにぃぃぃ!!!」
「さっきから五月蝿いなぁ……! 魔族なんて人間とは違うイキモノなんだし、殺していっか」
「ひぃ!」
そう言って剣を向ける鎧男。
ってこのままじゃマズイ!
「待て!」
「ん? なんで同じのが……いや、微妙に違う」
そう彼も俺も纏う鎧は全く同じ物……スノーホワイトなのだ。
ただ俺のスノーホワイトにはサーベラス家の家紋が刻まれたマントが付いている。
「そこの人を殺すのは待つんだ、然るべき場所で罪を裁く必要がある」
スミレたちを襲ったりとか、例のメイド長を潜入させてたとか、色々と罪があるのだ。
全て白日の下に晒す必要がある。
スミレたちもそれを望んでいたし、俺もそれでいいと思っている。
「罪? 裁く……? なにを言っているんだ」
わけがわからない。
彼はそう言いたげな様子だった。
「魔族は悪なんだぞ? それなのに罪を裁くとかどうとか……なにを言っている?」
なにを言っているってこっちの話なんだけど。
なんか話が噛み合わない。
まさか……魔族を人間と認識してないのか?
【十分あり得ますね……】
【人大陸では魔族は迫害の対象のようですし】
人大陸で魔物と戦っていたんだ、ならば魔族が諸悪の根源だと勘違いしてもしかたない。
なんせ魔物が封印されていたのは魔大陸で……その封印を解いたのは魔族だから!
魔帝を殺すんじゃないかとか言われていたし、この反応になるのもある意味当然か! ちくしょう!
……取り敢えず、話し合いだ。
同じ日本人だと認識してくれば、話し合いくらいは出来るはずだ。
「なんで僕の持っている剣と同じような剣を持っているのか気になるところだけど――」
「待てって! 俺は余崎蓮! 日本人だ!」
ああもう! 人の話を聞いてくれよ!
アオ! 兜だけ収納してくれ!
【了解しました!】
一瞬光が顔を包み、スノーホワイトの頭部だけが収納される。
これで俺の顔を見ることが出来るはずだ。
「に、日本人!?」
よし、食いついたぞ。




