「信じる」
「ああ、お茶が美味い……」
犬型魔族の執事さんから渡された緑茶を飲む。
ティーカップに緑茶というめちゃくちゃな組み合わせだが、お茶は美味しい。
魔帝都にも純人はそれなりにいるから鎧のままじゃなくていいって話だったけど、やっぱり注目を浴びるのはなんか慣れない。
それを考えてか、この部屋には俺だけだ。
近くに気配は感じるので呼べばすぐに来てくれるのだろう。
せっかくなのでゆったりと一人きりの時間を楽しむことにする。
「しかしなぜにティーカップに緑茶?」
【どうも地球から渡った文化が適当に混ぜられているようですね】
【詳しくは知らないが故の誤解……なんでしょう】
そういうものだろうか。
でもそうであったとしても俺以外のニホンジンは誰も修正しなかったのかよ、とは思う。
いや、もしくは気付いた時にはもう修正出来ないほど誤った文化、知識が広まっていたのかもしれない。
昔からそういう物であるって言われていると、伝統がどうのこうのって言う奴が出てきてなかなか修正出来ないからな。
なんてぼんやり思いながらスミレたちの着替えを待っていると……
「女子の着替えは時間がかかりますねぇ」
「まぁこればっかりはしょうがない……ってあなたは?」
いつの間にか目の前には狐、のだろうか? 魔族のお爺さんが座っていた。
笑顔が素敵なまさに好々爺って感じのお爺さんだ。
「なに、サーベラス家とは古い付き合いがあるというだけのただのジジイですよ」
古い付き合い……執事とかではないというと商人ギルドとか、そういうヒトだろうか?
十二鬼将に狐はいないはずだし、その線はない。
このヒトは一体何者なんだろうか? 当の本人はニコニコと笑っているだけだけど。
噂になっているサーベラス家に入って来ているということはスミレたちのことを信じてくれているんだろうか?
「サーベラス家のことを信じているんですか?」
「信じていますとも、ですが……この家に疑惑があるのもまた事実」
「……スミレたちも、その父親だってそんなことをするヒトじゃない」
「ほぅ……ではなぜそう思うのです? なにを根拠に信じるのですか?」
俺はスミレたちしか会ったことはない。
その父親にはモンスター化してたり、その記憶を持つ存在にしか会ったことはない。
けど。
「俺は俺のことを信頼してくれるヒトを信じる……ただそれだけです」
スミレたちは俺のことを裏切らないと言ってくれた。
俺がスミレやレモン、ローゼを信じる理由なんてそれだけで充分だ。
あの三人は俺が守る。
「ふふ……そうですか」
納得したような顔のお爺さん。
「純人も引きつけますか、この一族は」
「えっと……?」
「レン!」
ふと後ろからスミレの声がした。
振り返るとやっぱりスミレだった。
闘技場でみたドレスよりもよりフォーマルな物だ。
「ああ、ちょうどいいところにこのお爺さんは……ってあれ?」
「お爺さん……? レン以外誰もいないようだが?」
あれ? さっきまで目の前にいたはずなのに……
振り返る間のほんの一瞬の隙に消えてしまったのか?
【どうやら、幻覚系スキルの類だったようですね】
【あのご老人は最初からここにはいなかったんでしょう】
要するに幻だったと。
一体誰だったんだろうか?
「よく分からないけど……もう出発するよ? もう時間がないんだからさ」
「お、そうだったな行こうかレモン」
あとでレモンたちに聞いておこう。




