「帰宅」
行かない、という選択肢はなかった。
『ここで陛下の元に行かなかったら、完全にクロになるし……』
呼んだのにも関わらず来ない、ということはやはり噂は本当だった……と判断されかねない。
私たちの潔白を証明するためにも行かねば。
『私たち悪くないはずなんだけどなぁー』
『真実を伝えれば、陛下も分かってくれるはず……噂を駆逐するチャンスでもある……』
そうだ、誰が本当の裏切り者なのか――証明するチャンスでもある。
証拠はある。
この馬車は特別な物で、外見よりも広くなっている。
具体的には二階建てになっている。
レンは馬車なのに二階建てバスみたいだ、と言っていたが。
『……二階にいるアイツ……アイツを陛下の元に連れて行けば』
スローズたちが見張ってくれているから逃げ出さないとは思うが……テンカラ=ヴェノネーク。
あの男がキーマンになる。
本当に捕まえられて良かった。
あの時逃げられていたらどうなっていたことか……
「陛下に会いに行かねば」
「このまま直行するのか?」
私たちの隣に座るレンが聞いてきた。
確かにこのまま直行してもいいかもしれないが。
「この格好では流石に無理だ」
「長旅で汚れてるもんな」
『そういう意味じゃないんですけど!』
服が汚れているとか、そういう問題ではない!
こんなラフな格好で陛下に会いにいけるか!
「陛下の所へはちゃんと正装で行く! だから一旦は帰宅する」
「ああ、なるほど……って俺はどうすればいい? また鎧か?」
む、そうだな……それがいいか。
もしくはニホンジンの服を来ていて貰ったほうがいいかもしれない。
「就活用のスーツ? まぁ偉いヒトに会いに行くわけだからおかしくはないか……?」
馬車に乗りしばらくしたら、魔帝都の我が家に帰ってきた。
個人的にはここも自宅、という感じなので久しぶりに見るとホットする。
『こっちは壊れてないね!』
『……こっちまで壊れてたらどうしようかと思った……』
まったくだ。
こちらの家にも私たちの服がいくつか置いてある。
早く着替えなければ。
「外も立派だったけど、中はもっと凄いな」
「この部屋は客人を迎えるための部屋でもあるからな、一番贅沢な作りになっているんだ」
客室が貧相なのは問題だからな。
ここは特に贅沢な作りだ。
取りあえずレンには客室にて待ってもらうことにした。
その、流石にレンの目の前で着替える勇気はない……
『……私なら大丈夫だから、代わろうか?』
お前は大丈夫でも、私がダメだ! ダメ!
『私もちょっと……まだ、恥ずかしいからダメかな』
ほら! レモンだって嫌なんだ、二体一でこっちの勝ちだ。
……なんて思っていると客室にメイドが入ってきた。
「領主様、準備が出来ました」
こちらの家に住み込みで働いている犬の魔族のミルだ。
「ん、ありがとうミル……レン、私たちは着替えてくるから少し待っていてくれ」
「ああ、分かったここでお茶でも飲んで待ってるよ」
ミルの弟であるザムが用意してくれたお茶を飲んでいるレン。
レンには悪いが少し待っていてもらおう。
時間はない。
故に私たちは大急ぎで服を脱いだ。
はしたないからあんまりやらないが、こういう時の……!
「トランス!」
自身を魔犬の姿へと変える変身スキル、「トランス」を使う。
私たちは魔犬時のときの方がヒトの姿より小さいから……服を着た状態でこれを使うと一気に脱げる。
『脱ぐっていうか、服に埋もれるっていう方が正しくない?』
まぁそれはそうなのだが。
……よし、なんとか服の中から出ることが出来た。
『……やっぱりこれ、はしたないよ……』
レンの前で脱ごうとか言い出すお前の方がはしたないだろ!
この変態ローゼ。
『へ、変態じゃないし! レンだけ! 私がそういうことするのはレンだけ!』
どうだか。
さて脱いだら汗を流さねば。
私たちはトランスを解除し、そのまま大急ぎでシャワーを浴びた。
シャワーを浴びたあと、ミルに手伝ってもらいながらこういう時のためのドレスを身に纏う。
そんな時、ふとミルが言葉を漏らした。
「領主様……その、私たちはあなたを信じております」
「ミル……」
「私もザムも、いえ、この館にいる者全てが領主様と前領主様を信じております」
そうだ。
魔帝都にいる彼女たちは噂をよく耳にしただろう。
本当か嘘か分からない、私たちと父上の噂を……
逃げ出してもおかしくない状況の中、彼女たちやカウスは付いてきてくれている。
私たちを信用して信頼してくれているのだ。
ならば。
『その思いに答えなきゃ』
『うん……!』
まったくだ。
さぁ陛下に会いに行くぞ。
無実を証明するために!




