幕間 鼠と龍
「くちゅん! うう……誰かが噂してる気がしますわ……」
「どうしたのかな? 奇術師」
「ああ、あなたですの」
くしゃみをした少女、奇術師ことシュガー=スノウラットはなんだか嫌な予感がしていた。
最近なんだがツイてない――気がする。
あの犬の一族、そうあの犬っころの家を崩壊させてからどうも悪寒が止まらない。
本能的なところでこの件から引いたほうがいいと警鐘を鳴らしているような――そんな気がするのだった。
とはいえ、自分がやったことは正しいことのはずだ。
誰かに後ろ指を指される筋合いはない! ……はずである。
「隠者との間に交わしていた血判契約書が強制的に無効化された……彼は生きている、生きているはずなんだが……」
「連絡がないのはおかしいですわね」
隠者ことテンカラ=ヴェノネーク。
はっきり言っていい印象はない。
とは言え仲間である以上……心配しないわけにはいかなかった。
「例の聖光剣士、でしたっけ? そいつがなにかした可能性が高いんでしょうけど……」
「十中八九ルクス硬貨を使ったんだろうね、それ以外に方法がない」
鱗に包まれた男は考える。
あの友人は趣味こそ悪いが頭が致命的に悪いわけではない。
相手の力量を見誤って返り討ちにあった、と考えるのが自然だろう。
とはいえ……
「助けには行けないな」
表の仕事もある以上、男が友を助けに行くのは不可能だった。
他の人員を割く余裕もない。
「あいつには悪いが、しばらくは捕まっていてもらうか」
お人好しが服を着て歩いているとまで言われているような彼女らがヴェノネークを殺すとは考えにくい。
あの一族はどれほど憎くても殺すことは出来ない。
そういう一族なのだ。
「ワタクシが助け出しに行きましょうか?」
「その必要はないよ、君には別の仕事があるからね――」




