「ついて行けない」
書類に目を通しながら判子を押していく。
今、求められているのは速攻性だ。
細かなルールづくりはあとで厳しく作っていくとして……よし、これで終わりだ。
『だねっ! とりあえずこんなものでいいんじゃない?』
まぁ、そうだな。
本当に最低限レベルの法整備しか出来てないが。
少なくともこれで冒険者ギルドは問題なく活動出来るはずだ。
『冒険者ギルドを作ってから法整備するとか……本来なら逆だよね』
『……しょうがないよ、緊急事態なんだし……』
どうも後手後手に回っているな。
今度はこちらから仕掛けなければ。
相手にいいように振り回され続けるのは嫌だ。
『でもどうするの? こっちから仕掛けるっていっても……』
『相手の……ナーガール家の屋敷に襲撃する……?』
あそこにはレンのいたニホンに行くための次元の穴なるものがあるそうだが……
それだけに、警備も厳しいはずだ。
『……簡単に近付けないようになっている……はず』
『少なくともチャンピオンはいるよね?』
そのはずだろう。
彼女と戦って、果たして無事に次元の穴にたどり着けるだろうか……?
『それ多分無理じゃない? やっぱりルクス硬貨を集めてこっちで新たに次元の穴を作れば……』
『レモン、それこそ無理だよ……何枚必要だと思ってるの? この大金貨十枚分だよ……?』
『う、そうでした……』
持ち歩くことにした父上――正確にはその記憶や人格をコピーした存在が眠るルクス硬貨を見つめる。
言うの簡単だが、実際にこれ十枚分を集めるのは容易なことではあるまい。
確か……ニホンの言葉では『言うは易く行うは難し』だったか?
『それで合っていたと思うよ……? で、どうするの……? 実際……』
むぅ……なにか妙案は……やはり魔帝陛下にこのことを伝えるのはどうだ?
ニホンに対して感謝している魔族は多い。
そんな恩人たちの国を侵略しているとなれば、奴らも動きづらなるはずだ!
奴らの裏切りを……陛下をとうして多くの魔族に伝えれば!
あの男を連れて行けば、証拠にもなる!
やはり、これしかあるまい!
『それこそ相手が一番警戒してることじゃないかな? だってテンカラ=ヴェノネークは……』
確か……「この計画に今の魔帝陛下は邪魔だァ……だから他所から来た勇者サマに殺して貰うのさァ! ヒャヒャヒャ!」と言っていたな。
そう考えると巻き込まない方が……? いや、命を狙われている以上、黙ったままというわけには行かない!
即刻、危険であることを伝えなければならない、ならないが……
『私たちがデンポーか手紙を書いて送ったとして、信じてくれるかな?』
『……証拠もないと、難しい……と、思う』
だろうな。
私たちは十二鬼将、手紙を送ればまず間違いなく陛下は読んでくれるはずだ。
だが……信じてくれるかどうかは別の話だ。
異世界からきた人物があなたの命を狙っています、と聞いてまじめに受け取ってくれるかどうか……
『やっぱり証拠を連れて魔帝都に行くしかないのかな』
『陛下の近くにも蛇男の仲間はいるだろうし……そいつに手紙そのものをもみ消される危険性もあるし……直接会いに行くしかないと思う』
危険は伴うだろう、だがそれしかない。
ここから魔帝都へは……上手く特急列車に乗れば3日で着くはずだ。
ただ、モンスターの影響で運行が止まっている可能性もある。
なるべく早く動いた方がいいだろう。
『レンの修行が終わり次第、移動するってこと?』
『だね、そういえばレンは今なにをしてるのかな……?』
レンの所に行ってみるか。
『私が歩こうか? 二人は疲れてるでしょ?』
まぁ……そうだが。
『そうといえばそうかな……レモンと違って私とスミレは忙しかったし……』
『う、だから代わりに歩くって言ってるんじゃん……』
まぁ歩いてくれるのなら任せよう。
私も楽が出来るからな。
『……結局この体は疲れるんだけどね』
体は一つしかないからな。
お、レンが見えてきたな。
『赤角』さんは……いないか。
どこかへ行ったのだろうか?
「えっと……今はレモンか」
「正解! で修行のほうは?」
【あっさり覚えましたよ? プロテクトも【光力戦闘術3】も!】
こ、この僅かな間にか!?
『あれ? まだ数時間しか経ってないよね……?』
そのはずだ。
あっさり強くなったぞ、この男。
せ、成長スピードがおかしい……!
『……犬からヒトの姿に戻った時は私たちでも戦闘に協力出来てたけど……』
『確か【光力戦闘術3】になると時間を操ったり、瞬間移動とか出来るんだよね? 流石にもうついて行けないよ……』
私たちでもう、戦闘面では完全に足手まといだろうな……
「もう時とか止められるの?」
「ああ、そうだな……それっ!」
あれ、いない――って!
「ひゃっ!」
「そんなびっくりしなくてもいいだろ?」
いつの間にか後ろにレンがいる!
まさか……時を止めて移動したのか!?
『それとも瞬間移動……!? どっちにしても凄い! 凄いよ!』




