「ジェワッ!」
三頭犬……ケルと一緒に川辺を歩いていく。
ケルは俺の後ろをテコテコとついてきている。
後ろを振り返って確認すると誰かかがいるというのはいい。
孤独を感じなくて済む。
……孤独には耐性があるつもりだったんだがなぁ。
昨日の夜の寂しさはどうにも我慢出来なかった。
寂しさが身にしみるというか。
やっぱり人間は一人では生きづらい生き物なのだろう。
人間は一人で生きることなら出来る。
その寂しさに耐えられるのならば。
「一人で戦ってばかりじゃ心が荒むよな?」
「ワン!」「クゥン?」「…………」
ま。犬であるケルじゃ会話は出来ないが寂しくはないな。
実にいい。
そういやケルってオス、メス、どっちなんだろうな?
後で寝袋で寝るときにでも確認してみようか……
しばらく歩きつづけると、またもやモンスターが。
今回のは……
「人の形をしている……!?」
土色の人型物体が川辺の道のど真ん中に立っていた。
人間とは大雑把な形だけが同じで見るからに真っ当な生き物ではないようだった。
「ジェワッ!」
俺が近づいたのに気づいたのか、奇声をあげファイティングポーズらしき構えをとる土人間。
全体的に子供が作った出来の悪い粘土の人形のようだ。
っていうかこれ……
「どっかの特撮ヒーローっぽいなぁ……」
土色だからまんまではないがポーズとか、顔とかが例のあの巨人に似ている気がする……
腕からビーム出すなよ? 絶対だぞ。
あ、頭も駄目だからな。
いくら大地から生まれたであろう存在とはいえ頭から出すのは駄目だ。
あの作品のファンである俺が許さん。
「ま、紛い物はさっさと潰すのが良識あるファンの行動だよな」
「ワフ?」「……バゥ!」「……!」
ケルは……右の頭はのんきそうに、真ん中の頭は敵に警戒し、左の頭は何も言わず静かに睨んだ。
さて、戦闘開始だ。
「下がってな……光力ッ装着!」
ペンダント化した剣を握り戦う覚悟を決める。
さぁ行くぜ……!
【スリーブモードを終了し、バトルモードに移行します。】
【アプリケーション「オートパイロット」を起動。】
【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】
【戦闘を開始します。】
「今のLPは……」
【現在のLPは3042。】
3000くらいか……【ルクス=タワー】が2000だから一応使っても問題はない……が。
後ろにはケルがいる。
またこいつらが怪我することも考慮すると無駄使いはしたくない……
【パワースラッシュ】だけで倒せたし、今夏も省エネ仕様で行きますか。
「ジェワワワワ……」
「しかし、こいつHPバーが長いな……」
剣を構えながら距離をはかりつつHPバーを覗いてみる。
こいつ……オルトロスの倍以上はあるぞ。
モンスター界のタフガイポジションなのだろうか。
「今回はアレを試してみるか……行け!」
土人形に向かって剣を突く。
当然この距離では当たらない……が。
今回試したのは伸び縮みする刀身。
どうもこれは、この剣の機能の内の一つのようで縮小機能を上手く戦闘用に流用したもののようだ。
俺が放った突きはどんどん伸びて――土人形の胸を貫いた。
が。
「ジェワァアアア!!!」
き、効いてない!
普通、胸を貫かれたら死ぬだろ!?
HPバーもまるで減ってないし!
あ、いや、こいつ体が土で出来ていたわ。
モンスターの中でもかなり異質そうな存在だった。
「ええい、戻れッ!」
剣を元の長さに戻し、一気に近づいて斬りかかる。
「くたばりやがれッ! パワースラッシュ!」
【パワースラッシュ】を発動し、縦に剣を振り下ろす。
胸を一突きで駄目なら一刀両断してやるッ!
「ジェワワワァ……」
ふぅ、これで倒せ……
ってえ?
斬り倒したはずの土人形の右半分が立ち上がる。
すると切断面からなんと土が突然盛り上がり失われていた半身を蘇らせた。
左半分も同じく、土が盛り上がり始め――
「ジェワワ」「ジェワワ」
増えてやがった。
なんで斬られて増えるんだよ!
単細胞生物かお前は!
「ジェワァアアア!!!」
増えた土人形が大きく口を開ける――おい、まさかその動作はッ。
予想通りに土人形が口からなにかを吐き出してきた!
「ぐぇッ!」
なんだ? これは……泥だッ!
咄嗟に左腕でガード出来たが……張り付いて取れねぇ!
しかも衝撃が……痛みでなんか左腕がジンジンする……
鎧がなかったら骨折れてるんじゃないのか?
「縦が駄目なら横だッ!」
まだ自由に動く右腕で剣を振るい、土人形を横薙ぎに斬り倒す。
が、
「ジェワワ」「ジェワワ」「ジェワワ」「ジェワワ」
横でも増えるのかい……!
ゆっくりとこっちに近づいてくる……ッ!
どうすればいいんだこんなの……
「情報だ、情報! あの土人形は何だ!」
【検索中……】
【マッドゴーレム】
【Bランク魔物。】
【土塊のヒトガタ。】
【効率よくルクス硬貨を集めるために古代のある高名な魔術師が作り出し野生化した人造モンスター。】
【高い再生能力と分裂能力を持つが知性があまり高くなく、戦闘能力も低い。】
【また再生能力と分裂能力にも限界があり体内のコアが限界を迎え壊れるかコア自体が破損すると自壊する。】
Bランクのモンスターだったのか。
今ままでのがEランクだから……D、Cと何個か上のランクってことになる。
一番上のランクがAなのかSなのかそれともSSSなのかは分からないが……今までの敵より強いってことだけは確かだ。
って言うか人造モンスター?
この世界の人間はモンスターを自作してたのか。
サンダーシープを家畜化してるそうだし、そういう技術って結構高いのかね。
でも効率よくルクス硬貨を集めたいなら知性をどうにかするべきだったんじゃないのか? 高名な魔術師さんよ。
「Bランク……どうりで強いわけだ……」
「ワンッ!」「バゥ!」「グルゥゥゥウ!」
ケルの三つの頭が一斉に吠えた!
な、なんだよって……
「危なッ! ありがとうケル」
文章を読んでいたらマッドゴーレムがすぐ近くにいた。
集中すると周りが見えなくなるのは俺の悪いクセだ……
危なかった。
今度はケルに助けられちゃったな。
ゆったり歩くマッドゴーレムたちから後ろにステップして距離を取る。
バックステップまでこなせるようになるとは……「オートパイロット」には頭が上がらない。
だったら早く自動的に動いてくれたほうが……あ、そうなると前と同じか。
アレはなんかイヤだったし、今のままでいいか?
「さて、どうしたものか……」
とりあえず斬っても斬ってもキリがないのは分かった。
じゃあどうするかって、話だ。
【光力戦闘術1】にある攻撃用のスキルで使えそうなのは……これは消費が重すぎる。
こっちは移動用じゃねぇか!
……【ルクス=タワー】じゃ四体に増えたマッドゴーレムに対処出来ない。
【ルクス=ウェーブ】だと威力に不安が残る。
【ルクス硬貨を消費して新しいスキルを取得しますか?】
だぁ! うるせぇ!
こっちはあんまりお金掛けられないんだよッ!
どうする? どうすればいい!?
「カネか? 結局課金して……ルクス硬貨を使うしかないのか……!?」
なにか、なにか妙案は。
この状況をひっくり返す一発逆転の策はないのか!?
「バゥ! バゥ!!!」
な!?
ふと目を離すとケルがマッドゴーレムの一体に跳びかかっていた!
なんだ、なにをするつもり……ッ!
「ガルッ!」
左の頭がなにか伝えたそうにマッドゴーレムの胸を見る。
そうか、そういうことかッ!
マッドゴーレムには核であるコアがある!
今ケルが襲い掛かっているそいつにコアがあるんだな!
よしッ!
「下がってろッ!」
俺がケルが襲っているマッドゴーレムに剣を向ける。
「バゥ!」
俺の意図を理解したケルがマッドゴーレムから離れた!
今だッ!
「閃光よッ! 我らが敵を飲み込めッ! ルクス=タワァアアアー!」
俺が剣を地面に突き刺した瞬間!
光の柱が発生し、マッドゴーレムを包み込んだ……
【戦闘終了。】
【人造モンスター「マッドゴーレム」の消滅を確認しました。】
【アプリケーション「オートパイロット」を終了。】
【戦闘用アーマー「スノーホワイト」の脚部以外を収納します。】
【バトルモードを終了し、メインモードに移行します。】
【お疲れ様でした。】
「終わったか」
【ルクス=タワー】でケルが示した一体を倒すと他の三体は突如崩壊し始め、ただの土塊に戻ってしまった。
俺の左腕に吐きつけられ張り付いていた泥も同じくだ。
あれがコアを隠していた本体だったんだな。
「よくやったぞ! ケル!」
ご褒美になるか分からないが、ケルを思いっきり撫でてあげる。
真ん中の頭は頬ずりをしてあげて両隣の頭にはワシワシと頭を撫でた。
「……ワフ!」「……クゥーン」「…………!」
ああ、喜んでくれている。
良かった。
さて本体がいた辺りに行ってみるか。
ルクス銅貨をどれだけ落としたかな……
「こ、これは……銀貨かッ!?」
そこにあったのは……銀貨だった。
大きさは……小ルクス銅貨よりも大きい!
「これは? このルクス銀貨は?」
もしかしたらルクス銀貨かもしれない!
しかも小がつかないほうだ!
【検索結果、ルクス銀貨】
【データを表示します。】
やったぁ!
ルクス銀貨だッ!
【ルクス銀貨】
【ルクス硬貨の中でそれなりのランクのルクス硬貨。】
【大抵の願いならこれで十分叶えることが出来るだろう。】
よしッ!
この調子なら早めに日本に帰れるぞ!
このルクス銀貨でパワースアップすればAランク以上の敵を倒せるかもしれない!
銀貨を集めて早くルクス金貨を手にして……!
日本に、帰るんだ。
現在のルクス硬貨はルクス銀貨一枚と小ルクス銅貨十四枚。




