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「とっておきの」

「その勇者がこの魔大陸に来る目的は……」

「魔帝陛下を殺すためだァ……モンスターの封印を解いて、人大陸を侵略してるのは魔帝って思っているようだからなァ」


 だから、魔帝を殺せば全て解決する……そう考えているのか。

 まずいな。


「どうする、ローゼ」

「……どうするもこうするもないよ、魔帝陛下を殺されるわけにはいかない……!」


 だよな。

 しかし、なんで人大陸の王族は勇者を召喚したんだ?

 失敗したときのリスクが大きすぎるだろう。

 最悪勇者に守って貰うための物が全て吹き飛んでいた可能性だってある。


「それほど追い詰められていたのか……? もしくは最悪大量のモンスターと心中するつもりで……?」

「そんなつもりはねェだろうなァ……なんせ、失敗したらどうなるか分からない状態で発動したんだしィ?」


 な、なんじゃそりゃ!

 そうなる危険性すら知らずに使ったのかよ!


「あいつらもまさか失敗したら大陸ごと吹っ飛ぶとは……知らなかったんだろうなァ、こっちとしてはそのまま吹っ飛んでくれた方が嬉しかったんだけどよォ」

【そんな呪文、よく成功しましたね……いや? もしかしたら……】

所有者(ユーザー)……って聞いてみてください】


 ん? 分かったぞアオ。


「なぁ、その勇者召喚って……次元に裂け目を作らないと必ず失敗するんじゃないのか?」

「お? 勘がいいなァ、そのとーりィ! 勇者召喚呪文だけじゃ絶対に失敗するゥ、それプラス偶然開いた次元の裂け目を用意するか、もしくはルクス硬貨あたりを使って穴を開けておかないと……呼び出すことは不可能だァ」


 この世界と地球がある世界。

 二つの世界はコインの表と裏……そういう関係らしい。

 二つの世界を繋ぐ裂け目が自然発生することが偶にあり、その裂け目に飲み込まれると――世界を移動することになる。


 俺よりも先にこの世界に来ていた日本人……「スズキノート」の著者や、鉄道の考案者……彼らは恐らく次元の裂け目に偶然飲まれてここに来たはずだ。

 対する俺は……


「父さんに送り出された……小規模な次元の裂け目を発生させる装置を使って、ここに……まさか!?」


 俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。

 もしかしたら、いや、間違いない!


「その勇者は……偶然ここにいた人と違って、俺と同じようにこの世界に送り込まれたんじゃないのか?」

「レンみたいに、避難してきた人、ってこと?」

「いや、避難、というよりもなにか目的を持ってこの世界に送られた可能性が高いと思う……俺がそうだったからな」


 俺ですら、なにかの役割を与えられた。

 恐らくだが、彼もまた……なにかの役割を与えられている可能性が高い。


「彼、とも限らないけど……会って話をしないと」


 魔帝を殺しても、なにも解決しないことを伝えなければ。

 同じ日本人だし話せば分かる……はずだ。


「勇者が魔大陸に来るのはいつだ?」

「あと9日で到着するんじゃないか、って話だ、その辺はオッサンの仕事だったからな、俺は詳しくは知らねェ……ま、まともなルートじゃ来ないだろうなァ」


 目的が暗殺だからな……

 勇者さまによる人々を苦しめる魔王討伐の旅……のようだけど、実態はただの国家元首の暗殺、か。


「ローゼ、まともなルートならどうやって魔大陸に来る?」

「えっと……人大陸からだったら、まず中央大陸に行って、そこから船に乗ってミサシの町から魔大陸に入るのが普通、かな……?」


 ミサシか。

 あの町で出待ちをすれば会える可能性があるってことだな。

 ただ、まともじゃないルートで来る可能性もある。

 そうなったらすれ違うのは間違いない。


「魔帝都に行って、待ち伏せするのがいいのか? 相手の狙いは魔帝なわけだし」

「その前に魔帝陛下に逃げてもらわないと……! 早くこの事実を伝えなきゃ……!」


 ……どちらにせよ、魔帝さまとやらに会わないと行けないな。




「ま、時間稼ぎならこれくらいで十分だろ、ケケケ……」

「おい、どういうことだ」

「あら? 聞こえちゃったァ? 実はなァ……オレ様が一日以上ラボに戻らないとモンスターが起動する仕掛けがあるのよォ……今頃、町をめちゃくちゃに破壊してるだろうなァーと思ってただけさァ」


 なにっ!?

 まだそんなものがあったのか!


「おい、それはどこだ! 言え!」

「魔帝都、当たり前だろォ? マッチポンプ用に作ったモンスターだしィ? 壊すだけしか能のないやつだけど、それで十分だろうしなァ」

「マッチポンプ? よく分からないが、間に合うか……?」


 ここから魔帝都って、どれくらい離れているんだ?

 くそ、地理に詳しくないのが辛いっ!


「やめとけ、やめとけ、行っても無駄無駄ァ……オレ様謹製、とっておきのモンスターなんだけどなァ……多分今頃オッサンのマッチポンプに使われてるはずだァ、予定通りになァ」

「マッチポンプだと?」

「おう、魔帝都は古い町だ、だからモンスターは入って来ねぇ……だが、人造モンスターなら?」


 結界で普通のモンスターは入って来れない……

 けど改造されたり、人造のモンスターなら!


「入ってこれる……! まさかストラテゴ=サテュロスは!」

「そう、入れるしわけだァ、そして姫さんの予想通り、湧いてきた来たモンスターを軍が片付けたら英雄視されるってわけェ」

「軍の評価は……今は低いんだよな、その評価を復活させるためにか」


 軍は今、なにもしてない。

 いや、正確には高ランクのモンスターを人大陸に送りつけている。

 だから動けないわけだが……

 評価が低いままでは動けない。

 だから上げるためのマッチポンプってわけか。


「本来なら、もう少しあとでやる予定だったんだがなァ……オレ様が捕まったから、計画を早めてるだろうよォ」

「まさか、お前がベラベラ色々と喋り続けたのは」

「おう、この時間を稼ぐためさァ、オッサンには色々と助けられたからなァ……ま、これで義理は返したろ」


 素直に喋ると思っていたけど、それは契約書のせいじゃなくて、時間稼ぎのためか。

 そう言えば昨日も時間稼ぎと言っていたが、今から思えばこれも含んでいたんだろうな。


「でも、あなたを突き出せば……!」

「ローゼ?」

「あなたを証人として連れて行けば、全部……!」

「あ、オレ様を? やめとけ、やめとけ……オッサンのことだ、知らぬ存ぜぬを突き通すだろうし、証拠は全部消してるよォ」

「それでもっ! あなたは連れて行くから! 魔帝都に!」


 ローゼ……

 そうだな、こいつが全ての鍵だ。

 

【その場合、この男を守る必要がありますね】

【口封じに消してくる可能性がありますし】


 それも……そうか。

 もしこいつの仲間が襲って来たとしても、それは仲間を助けるためじゃなくて。

 口封じ、そのためだろう。

 死人に口なし、ってな。

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