「勇者サマ」
「一週間あれば、十分な情報を持って来れるはずです」
「……ヘマをして死ぬんじゃないぞ、お前を罰するのは私たちだ」
「そんなヘマはしませんよ、私は領主様に裁いてもらわないといけませんし、その硬貨を手に入れるまでは死ぬに死ねませんから」
メイド長を一時開放することになった。
彼女曰く、一旦古巣のアジトに戻ったあとは魔帝都での暮らしが保証されているのだという。
本来ならもう二度とサーベラス領に戻る気は無かったのだろう。
「私がサーベラス領に行くと怪しまれますので……魔帝都で再会しましょう」
「わかった、一週間後に会いに行けばいいな? 魔帝都のどこに行けばいい?」
「その際はデンポーで連絡します、もし連絡が無かったら……私のことは忘れてください、いいですね?」
連絡が取れないということは、誰か消されたってことか。
……本当に危ない橋なんだな。
「っ! わかった、絶対に再会するぞ」
「……お嬢様、本当によろしいんですか?」
「ああ、スローズ、彼女を開放してやれ」
スローズがメイド長を自由にした……
「大丈夫か? スミレ」
「レン……」
憔悴しきった顔だ……
辛かった、んだろうな。
「これで次に会えるのは一週間後かぁ……無事だといいな」
「レモンか、スミレは大丈夫か」
「うん、大丈夫だよ、辛そうだから交代しただけ」
なら、いいんだけど。
でも辛いのはレモンだって同じだろう。
……俺が支えなければ。
「辛かったら……」
「大丈夫、私たちは大丈夫だから!」
「本当か?」
「本当!」
から元気な感じが否めない。
支えると言っても俺はどうすればいいんだろうか。
とりあえずはやるべきことをしなければ。
「あの蛇男を呼ぼう、エクスプロージョンベアのことを知っているはずだ」
スパイでしかなかった彼女は知らなかったが、モンスターを改造したりしていたあいつなら……!
間違いなくなにか知っているはずだ。
「知っているか?」
「知っているか、知っていないかで言えば、知ってるぜェ?」
取調室に蛇男を座らせた。
もちろん、逃げ出さないようガチガチに拘束してある。
「完全に封印を解いたとき、モンスターが吹き出してきやがったァ、まぁそんときはあのメスネコがいたからなんの問題もなかったんだけどよォ」
メスネコ?
「誰だ? そのメスネコって」
「ルシャーティのヤツだよォ! あのメスネコ、個人が持つ強さだけなら魔大陸最強だからなァ」
そのことは身にしみて分かっている。
彼女は強い。
圧倒的なまでに。
「で、だァ! いきなり襲い掛かってきたヤツらをあらかた殺した後……襲ってこないでそこに佇んでいるだけのモンスターがいたのよォ」
「それがエクスプロージョンベアだった?」
「おう、そうだぜ姫さん……なんで襲ってこないんだ? って思って調べてみたら、あらまびっくり! 太古の昔に作られた人造モンスターだったのよォ」
アオのデータがあったから、昔に作られたモンスターだというのは分かっていたが……
封印される前に作られていたモンスターだったか。
「どうやら、ご先祖様たちが初代魔帝王サマと一緒に頑張って作った封印はモンスターを集めて封じる性質だったようでなァ、この世界にいた全てのモンスターを一箇所に全て封印する……そういう物だったようだぜェ?」
「そんなこと出来るの!?」
「普通は出来ねェ、出来るわけがねェ! だが初代魔帝王サマはやりやがったァ……だから伝説になっているんだろォ?」
全てのモンスターを封印する……
だからヒトが操る人造モンスターもまとめて封印されてあったのか。
「で、オッサン……ストラテゴ=サテュロスが全部回収したのさァ、戦争に使えるってよ」
「戦争……? この状態で戦争!? 正気なの!?」
「ああ、正気だぜ、オッサンは超正気だァ……一周回って狂ってるぐらいに正気だァ」
それは狂人だ!
しかし……どこと戦争を?
日本、か? 侵略戦争をしている最中のようだしな。
「どうしても純人をぶち殺したいらしいぜェ? ま、あの大陸とは長ーい戦争の歴史があるからなァ」
「それは、そうだけど……だからって! そんなことしてる場合じゃ……!」
人大陸か!
確か、純粋なヒト……純人だけが済む大陸だったはずだ。
そこと喧嘩してる場合じゃないだろ!
「安心しろよォ、こっちにいるモンスターは精々がAランク……Sランク以上のモンスターは人造でもなきゃこの魔大陸にはいねェからよォ」
「安心出来るわけないでしょ! みんな戦えるわけじゃないんだよ! 子供や老人は……!」
「子供は作って、ジジイやババアや病人は見殺しにすりゃいだろ、面倒くせェ」
コイツ……!
「弱いヤツは死ぬ、シンプルでいいだろ? オッサン曰く、本来の魔大陸の姿……古き良き時代だそうだが、オレ様にはよく分からねェわ、それにィ? あっちも勇者サマを召喚したそうだしなァ」
勇者さま?
なんだ、それは。




