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「不安な夜」

「強くなれるかどうかは例え運しだいでも……スミレたちに危険が及ばないのなら、それが一番だ」


 アオ由来ではない新たな力。

 それが手に入るかもしれない。

 だが……それは二の次。

 あくまで主目的はスミレたちの安全の確保だ。


「俺が守るんだ、キミたちを……スミレを、レモンを、ローゼを……だから……助けはなくても大丈夫さ」


 俺が救いたいと思い、願い、繋がった命。

 大事な大事な女の子。

 その子の安全が第一だ。

 俺のパワーアップは二の次でいい。


「……分かったよ、レン」

【では、ルクス硬貨を使ってスミレさんたちの体内に染み込んだ九枚分のエネルギーを取り出すとしましょう!】

「私たちはどうすればいい?」


 そう言えば、どうすればいいんだろうな。

 ルクス硬貨を使うのは確定らしいけど……


【私とルクス硬貨をを握ってください】


 アオの話によると、いまここにある一枚のルクス金貨を触媒にし、スミレたちの体内に染み込んでいる九枚分のエネルギーを引っ張り出して、一枚の大ルクス金貨に変化させるのだという。


【ルクス硬貨のエネルギーは硬貨として存在している状態が最も安定しています】

【人体に染み込んだ状態だなんて……不安定の極みですよ】

【そして、ルクス硬貨は最も安定した状態である硬貨の姿であること望みます】

【ここに触媒のルクス硬貨があれば……それに引き寄せられて、元の硬貨の姿に戻るはずです】


 ……だ、そうだ。

 ルクス硬貨のことはアオに任せよう。


「なるほどな、アオ、握ったぞ? これでいいか?」

【はい! これでOKです、行きますよ……そいやっ!】


 青い光がアオから漏れ始めスミレたちを覆っていく。

 スミレたちの姿を確認することが出来ないほどの凄い光だ。

 しばらくすると次第に光が収まっていき……


【はい、摘出手術完了です】

【私にかかればこんな物ですよ!】


 スミレの手には――アオと大きいルクス金貨が握られていた。

 これでもう大丈夫なのか?


「む? なんだかいつもと違うな……ルクス硬貨なのに、サーベラス家の紋章が刻まれている……」

「どれどれ……? あ、本当だ……」


 いつもなら女性の横顔が刻まれているルクス硬貨だが、スミレの手の中にあるルクス硬貨は三頭犬――サーベラス家の紋章が刻まれていた。

 これは……いったい。


【……どうやら影響を受けたようですね】

【恐らく、そのルクス硬貨の中には例のスミレさんたちの父親の意思がまだあるんでしょう……】

【対話しようと念じれば……また喋れるんじゃないですかね?】

【まぁ初めての事態ですので、なんとも言えませんが】


 スミレたちの父親、か。

 そんな意思が入ったルクス硬貨か。

 使っていいのかなぁ……少し抵抗がある。


「レン……なんだか、少し眠い……二人共、すまない……」

「ちょ、スミレ? あーあ、本当に寝ちゃったよ」


 スミレが急に眠ってしまった。

 今は目の色が黄色だ……どうやらレモンに交代したようだな。


「どうしたんだろ、スミレ」

「……ルクス硬貨が体内から無くなったから、疲れが戻ってきた、とか……?」


 一つの口で会話をする二人。

 見慣れたが、いつ見ても不思議な光景だ。

 腹話術……とはまた違うけど。


「そう言えば魔導列車に乗っているときとか、凄い寝てたよね」

「その眠気が戻ってきたのかも……あのお父様の姿をしたルクス硬貨は『「助ける」という願いに従い、今まではキミたちの体を最善の状態を維持する』とか言ってたし……今は軽く寝てるだけ、って感じだけど」


 最善の状態を維持出来なくなったのか?

 確かに有り得そうだ。


「まぁ寝てるだけみたいだし……そのうち起きるでしょ、多分」




「今日はもう遅いし……寝たほうが良さそうだな……」


 スミレは寝ている。

 ならば俺もそろそろ、寝たほうがいいだろうか。

 窓の外は……真っ暗だ。


「その前に腹ごしらえしたいなー」

「む……確かにレモンの言う通りかもな」


 そう言われるとお腹が空いてきた。

 なにか食べたいなぁ……


【だったらそろそろ呼んでみたらどうです?】

【そこのボタンを押せばお夕飯を持ってきてくる……そんなことを言っていましたよね】


 そう言えば、倒れたスミレたちをこの『温泉旅館三毛猫』に連れてきた時、お腹が空いたら……と言われた覚えがある。

 よし、じゃあ押してみるか。

 お腹が空いたしな。




「お食事をお持ちしましたニャ」


 ボタンを押してしばらくすると料理が運ばれてきた。 

 これは……山菜の天ぷらだ! 他にも山の幸がいっぱい! どうやらこの蕎麦と一緒に食べるようだ。

 本当にいろいろあるな、っとこれは? 渦巻状に丸まった山菜だ……なんだろう、これ。

 なんとなくゼンマイに似ているが。

 いや渦巻状に丸まってるけどなんか違うな……


「それはネハコゴミといってネハコの山でこの時期に取れる山菜ですニャ」


 ネハコゴミ?

 コゴミ……ああ! コゴミだ!

 山菜の一種で、日本にいた時に食べたことがある。

 独特のシャキシャキとした食感が美味しいし、ちょっとぬめりもあるんだよな。

 こっちにもコゴミがあるのか。


「軽く塩を振ってから、いただきます……美味い!」

「本当だ! 美味しい! 美味しいよ、女将さん!」


 癖のない味とシャキシャキとした食感!

 こんな美味い山菜の天ぷら……初めて食べた!

 他のも食べてみよう……これも美味い! こっちはちょっと癖があるけど気になるレベルじゃない。

 むしろどんどん食べたくなる。


 レモンも美味しそうに食べている。

 本当に美味しいや、これ。

 蕎麦つゆにつけて蕎麦と一緒に食べても……


「……美味しい! もっと食べよ……」

「ちょっと! ローゼ変わってよ!」

「おい、お前ら! 私が少し寝てる間になにを食べて……これ、美味しいな」


 あ、スミレが起きたみたいだな。

 美味しい物で目が覚めるとは……なかなか食い意地が張っている。


「喜んでいただいてなによりですにゃ」


 ◆


「ふぁ……眠いな……寝るかぁ!」

「……もう寝てる……レモンはすぐ寝るんだから……お休み、だねレン」

「ああ、お休み」


 夕飯を食べ終えた俺たちは早く寝ることにした。

 明日はいろいろ動く予定だ。


 で、寝る部屋は一緒になった。

 部屋の都合もあったが、それよりも。


「えへへ……レン、大好き……お休み」


 三人の要望もあった。

 なんとなく、一人で寝たくなかったのだという。

 一人で三人で、三人で一人だからな……寂しい時は、寂しいもの、なんだろう。


「お、おう……俺も、その、好きだぞ」


 旅館なので、ベッドではなく、布団だった。

 その布団を横に並べて、就寝。

 いいのか? と聞いたけど「レンは変なことしないでしょ?」とレモンに言われてしまった。

 いや、そりゃ、しないけどさ。

 なんか、男として、なぁ……


【いいじゃないですか、信用されている証拠ですよ】


 そうかもしれないけどさ。

 でも本当に横に並べて寝てるだけだぜ?

 生殺しじゃないか……


【じゃあ、襲います? オススメしませんけど】


 しないよ!

 はぁ。


 ふと、ちょんちょんと腕を誰かにつつかれた。

 どっちだ……? あ、スミレの方か。


「レン、その、頼みがあるんだが」

「スミレ?」

「手を、繋いでくれないか? こういう不安な夜は……サテュに手を繋いで貰っていたのを思いだしてな……子供っぽいかもしれないが、その……」


 そうか。

 そうだよな。

 不安な夜……か。


「いいよ、俺の手ならいくらでも貸すよ」

「……ありがとう、レン」


 お互いに布団から手を伸ばして、ギュッと繋ぎ合う。

 最初はドキドキしていたはずなのだけど……なんだか落ち着いて。

 次第に眠くなってきて、眠ってしまった。


現在のルクス硬貨はルクス金貨十ニ枚、小ルクス金貨五枚、ルクス銅貨五枚、小ルクス銅貨五枚。

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