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「俺と一緒に来るか?」

「よしよし……大体治ったかな」


 光で傷を照らすこと数分。

 三頭犬の傷はだいぶ塞がった。

 で結局消費したLPは……?


【現在のLPは1966。】

【約50分後にフルチャージされます。】


 結構消費したな……重傷のようだったし、仕方ないか。

 回復にかかるLPはバカにならないし。

 あんまりLPを消費しない戦闘を心がけたほうがいいかもしれない。

 さっきのオルトロス戦は【パワースラッシュ】しか使ってないしな。


 でもこれ凄いな……これがあるだけで新興宗教を立ち上げることが出来るんじゃないの?

 これが傷を治す神の光! それと、私は現世に降臨した救世主だ! とか言ってさ。

 


 ……馬鹿なこと考えてないで真面目に考えるか。

 この三頭犬は首輪があるところを見るに、飼い犬だろう。

 飼い主になんで頭が三つもある犬を飼うんだ、と小一時間問い詰めたいが。


「お前たち……俺の言っていることは分かる……わけないか」


 しゃがんで犬に話しかけたが犬に人間の言葉が分かるはずもなく。

 三つの頭の内の右側の頭がのんきそうにあくびをしている。

 真ん中の頭は俺を相変わらず見つめてるし、左側に頭はなんだか冷めた目でこちらを見ている。


「お前たちの主人は……どこにいるんだ?」


 っていうか、万が一人間の言葉が分かっても日本語が分かるわけないよなぁ……

 確か、この世界の言葉は汎用ルクース語だっけ?

 じゃあ分かるわけないか。


 ……とりあえず今は倒したオルトロスのルクス硬貨をいただくとしよう。

 やっぱり小ルクス銅貨が五枚か……まぁあんまり大きいやついなかったしなぁ。


「……ワン!」


 三つの頭が顔を見合わせた後、吠えた。

 その後テコテコと歩き出す。


 な、なんだ?

 どこに行くつもりなんだ?


 時折振り返るのでどうやらついてきて欲しいようだが……行って見るか。

 なにか分かるかもしれない。

 川辺から離れることになるが……まぁ、別にいいだろう。


「スリーブモードにしておいてくれ」

【了解しました。】

【縮小機能を起動しスリーブモードに移行します。】




「これは……廃墟、か」


 三頭犬に案内されて先にあったのは、廃墟だった。

 だいぶ大きな屋敷のようだが相当ボロボロになってしまっている。

 人外魔境だという魔大陸に建物があるのには驚きだが、既に廃墟になっているのがどうにも。


 情報は……期待出来そうにないな。

 いろんなものが風化してしまっている。

 原型すら分からん。


「お前たちの主人は……死んでいるのか?」

「…………」


 三頭犬はなにも語らない。

 ただ、廃墟を見つめるだけだ。


 この三頭犬は……忠犬ハチ公なんだろうか。

 モンスターあたりに襲われ、廃墟となったこの屋敷で一人……いや三匹? になって帰るはずのない主人を待つ……

 で、喉が乾いたから水を飲みに行こうと川辺に行って……オルトロスたちに襲われた。

 そして、もし俺がいなかったらそのまま死んでいた……もしそうならば……なんだか、悲しい話だ。


「……な、なでなでしてもいいか?」


 恐る恐る三頭犬に手を伸ばす。

 俺は犬を飼ったことがないから、これで正しいのかは分からないが。

 この忠犬をほめてやりたかったのだ。


 偉いぞと、よくがんばったな、と。


「よしよし」

「…………クゥン」


 真ん中の頭を撫でる。

 まんざらでもない表情をしている。

 逃げたり、噛み付いたりしないようなのでどうやら間違っているわけではないようだ。


「……ウー」


 右側の頭が恨めしそうに俺をみる。

 ああ、そうだった。


「悪い、悪い。 お前にも、だな」


 両手を使い頭を撫でてやる。

 こっちはわかりやすい。

 明らかに喜んでいる。


 よく見ると尻尾も三つあり、右側と真ん中が元気よく横に振っていた。

 尻尾が蛇ってわけではないようだ。

 いや、尻尾が蛇だったらそれじゃあキメラになってしまうか?


「…………」

「そういやお前もか……お前たちの主人はどうやっていたんだろうな……」


 どうしたものか、そう思っていると……


「クゥン」


 真ん中の頭が俺の手から離れた。

 自分はもう良いから左の子を撫でて。

 そう言っているかのような目で俺を見つめる。

 きっと三つの頭ごとに人格……いや、犬格か?があって、この真ん中の頭は真面目なリーダー格の性格なんだろう。

 その瞳は――高貴な濃い紫色だった。


「わかった、じゃあ……」

「……ワン」


 空いた手で左側の頭を撫でる。

 優しく撫でてやると左の頭はとても喜んだようだった。

 この頭の性格は……大人しい性格なのだろう。

 あまり自分からは主張しないタイプ。

 その瞳は――儚げな桃色だ。


「ワン! ワン!」


 こっちは相変わらず元気だ。

 この左の頭は三つの頭の中で一番元気がいい性格なんだろう。

 やんちゃな性格とみた。

 その瞳は――レモンみたいな黄色。


「どうする? 俺と一緒に来るか?」


 犬なんて飼ったことはないが……この犬たちを放置することは出来なかった。

 一人旅は寂しいし、異世界での一人っきりの夜はちょっと寂しかった。

 一人ぼっちはなかなか辛い。

 でももう、人間は、家族以外の人間は……信用出来ない俺がいる。

 だが犬なら、きっと、こちらが裏切らない限り裏切ったりしないんじゃないだろうか。 


 一人と三匹なら、きっと耐えられる。


 こいつらを守りきれる自信もある。

 今のところ負けなしだし。

 連れてくからには、守ってやりたい。

 俺の行動も制限されることになるかもしれないし、愛着持ってから死なれるとキツいだろう。

 でも……もしこいつらがそれを望むのなら……連れていこう。

 頭が三つあるのにはちょいと違和感があるが……慣れればかわいい犬たちだ。


「ワン!」


 俺の言った言葉を理解しているのかしていないのか、俺には分からないが右側の頭が元気よく返事をした。




 旅は道連れ、なんて言葉があるが。

 まさか犬と一緒の旅になるとは。


 あの廃墟から俺が移動すると、三頭犬はちゃんとついてきた。

 俺を新しい主人と認識したらしい。

 となれば。


「名前をつけてやらないとな」

「クゥン?」


 一旦立ち止まり、しゃがんで三頭犬を見る。

 どんな名前にしようか……?

 まぁこういうのはわかりやすいのでいいよな。


「お前は今日から……ケルだ! 伝説の魔獣ケルベロスから取ったんだ強く、大きくなるんだぞ」


 再度頭を撫でてやる。

 今回は真ん中の紫色の瞳をした頭だ。

 さっきは左の頭に遠慮してちょっとしか出来なかったからな。

 ちゃんと撫でてあげよう。


 あ、頭一つ、一つに固有の名前をつけたほうがいいのか……?

 うーん、いますぐには思いつかないし……今は保留で。


「よーしケル。 これからよろしくな」

「ワン!」「ワフ?」「……?」


 右の頭以外分かって無さそうだ……

 いや、これ右の頭も多分理解してない。

 とりあえず元気よく返事しただけだろこれ……

 右の頭は多分、アホの子なのかも。


 そう言えば……


「この三頭犬に関するデータはないのか?」

【検索中……データが破損しています。】


 またかよ。


 現在のルクス硬貨は小ルクス銅貨十四枚。

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