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「傍にいられるだけで良かったのに」

「喋らないなら……とりあえずお前をスミレたちのところへ連れて行く」

「…………」


 メイド長は……何もいわずに俺を睨んだ。

 本当に喋るつもりはないらしい。


【光力で作られた鎖に縛られているんです、逃げられるはずがありません】

【ああ、あとコントローラーを手に入れたので……モンスターに近付けば完全に無力化出来るはずです】

【今はまだ、強制的にシャットダウンさせたようなものなので、ちゃんと終了させる必要があるかと】


 なるほどね、だったらさっさと行きますか。




「レン! 帰ってきたか……なんだそれは」

「いや、女のヒトだから引きずるのはどうかと思って……」

【だからってお姫様だっこはどうかと思いますよ?】


 いやだって……足の方まで鎖でグルグル巻にしてるから自分で歩かせることも出来ないし……

 こうするしかなかったんだよ。

 とりあえず、地面に下ろす。

 とはいえ、立てないので寝転がる状態だけど。


「メ、メイド長! どうしたんっスか! その格好……」


 黒猫のようなメイドが驚いた顔でメイド長に近づく。

 鎖に巻かれたメイド長はきつい顔で……けれどもどこか親しみを込めた声で言い返した。


「そのっスって言うのを止めなさいと、何度言えばわかるんですか貴女は……! それさえ無ければ私がいなくなった後のメイド長は貴女になってもらおうと思ってい……ッ!」


 いるのに、とでも言いかけたのだろうか?

 言葉を切り、そっぽを向いてしまった。


「サテュ」

「わたしはもうサーベラス家のメイド長じゃねぇよ、勘違いするな」


 再度、乱暴な……ヤンキーのような言葉使いで言い放つメイド長。


「そうだね、もうサテュは……サーベラス家のメイドじゃないよね、でも! 私たちの……お姉ちゃんでしょ?」

「なに言っているんです、か……私は、わたしは! もう……」


 レモン色の瞳がメイド長を見つめる。

 まっすぐに見つめる。


「お姉ちゃん、お願い……教えて、なんでお父さんを殺したの? せめてそれだけでも……教えて」

「レモン、お嬢、様……」


 迷っている。

 このメイド長は明らかに……迷っているんだ。


 さっきまでの乱暴な口調の自分と……今のメイド長としての自分。

 どちらであるべきなのか……迷っている。

 少なくとも俺はそう感じた。


「なにか、理由があるのなら……教えて、それとも……嘘なの? お父さんを殺したっていうのは……」

「それは違うッ! わたしが、私がッ! 殺したんだ! ……誰かに命令されたわけじゃない……自分の意思で……ご主人様を……あのヒトを……殺したんです」

「自分の意思で……? どうして……!? お父さんのことが殺したいほど憎かったの……!?」


 俺はレモンたちの父親と話したことがないからわからないが……そんなに恨みを買うような人物だったのだろうか。

 ただ、スミレを見る限りではそんな悪逆非道の外道オオカミとは思えないけど。


「違いますよ……私は、あのヒトを好きだったんです、ええ、お慕いしてました」

「じゃあ、どうして!? なんで……なんで! お父さんのことが好きだったのなら、なんでッ!」

「なんで? それはこっちが言いたいですよ……なんで、なんで! 私は、わたしは、ただ……傍にいられるだけで良かったのに……それすらも奪われたら、もう……殺すしかないじゃ、ないですか……!」


 ……泣いている。

 ただ、憎いから殺した。

 命令だから、殺した。

 快楽殺人犯のように、殺したいから、殺した。


 そういうものではないようだった。


「サテュ……教えて、なにがあったの……?」

「ローゼお嬢様……分かり、ました」


 桃色の瞳がメイド長を優しく見つめる。

 ローゼに交代したか。


「サーベラス家の領主、トレーブル=サーベラスを、私の主人を、わたしが、一番愛したヒトを……私は殺しました」


 観念したように、メイド長は語りだした。

 自分の半生を、なぜ、殺したのかを。




「私は、魔帝都の西にあったスラム街……そこで生まれました」


 語りだしたメイド長。

 俺はそれを横目に見つつ……


【今のうちにモンスターを無力化しておきましょう】


 熊を無力化することにした。

 さて、こんなデッカイモンスター爆発させずに処理出来るのかね。


【コントローラーはこちらにありますし、簡単ですよ】

【では私とそのコントローラーをそのあたりに置いてください】


 なるほどね。

 で、言われた通りに熊の近くにコントローラーとアオを置いたが……これでいいのか?


【はい、細かいことはこっちでやっておきますので……所有者(ユーザー)はスミレさんたちの近くにいてあげてください】

【今まで家族のように思っていたヒトが裏切ったんです……きっと心細いはずですから、一緒にいて、支えてあげてください】

【私が言いたいことはそれだけですよ】


 ……わかった。

 そうだ。


「『赤角』さん、ありがとうございました」

「いやいや、私は大したことはしていないよ……しかし、なかなか大変な半生を送ったようだな」


 『赤角』さんがメイド長を見る。


「母親は……物心がついたころにはいませんでしたね、気づいた時にはもう私は一人でした」

「……その母親は……どこへ行ったの?」

「さぁ? さっぱり分かりませんね……あのヒトは自分の体を売り物にしていましたから……恐らく、私が商売の邪魔だったんじゃないでしょうか?」


 ……結構壮絶だ。


「でもこんなことを言われたことは覚えているんですよ……『お前は女の子だけど、女であるとバレないように生きなさい』って、そう言われていたから……あのころは自分のことをオレって呼んでました」

「……前に男の子のフリをしてたころがあるって言ってたけど、そのこと……?」

「はい、そうですよ……お陰で変態の金持ちに拐われずにすみました。 当時の私の周りにいた女の子はよくどこかへ消えたものです」


 この世界にもロリコンっているのかよ。

 その子たちの末路は……ああ、クソ、胸くそ悪い。


「何も出来ない子供がスラム街で生きるにためには食べ物やお金を盗むしかありません……あのころの私は色々な物を盗む、それはもう手癖の悪い子供でした」

「……それは初耳かも」

「このことを話すのは初めてですし、初耳のはずです」

「黙ってたの? お姉ちゃん」

「ええ、お嬢様たちの前では素敵で完璧なメイド長兼、お姉ちゃんでしたから……幻滅してほしくなかったんですよ」

「サテュ……お姉ちゃん、私は、私たちは……まだ、貴女のことを」

「まだ信じてくれているんですか? 駄目ですよ、私は領主を殺した大罪人なんですから……それに犯罪者に同情は、メッ! ですよ?」


 コロコロと人格を交代させながら、話すスミレたち。

 そんなスミレたちと親しそうに、でも、どこか悲しそうに……彼女は話していた。

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