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【ヒールライト】

「ふわぁ……」


 目が覚めた。

 ……暖かくていい寝袋だったけど、なんだか緊張しているのか、疲れ過ぎているのか、グッスリ安眠! って感じではないな。

 まあ超常現象が目の前で起こりまくれば仕方ない……のか?


 そして夢ではないと。

 これは……やっぱ現実だよね……はぁ。

 そうそう都合よく夢オチにはならないか。


「……腹減った」


 昨日の夕食はカレーだった。

 そう、カレーである。

 カレーである以上、それを盛る皿と食べるために使うスプーンが必要だ。

 あと水。


 それイメージして小ルクス銅貨一枚使ってカレーを出してみたわけだが……

 しっかり皿に盛られたカレーとスプーン、そしてコップ一杯分の水が出現した。

 肝心の味は……悪くはなかったよ。

 ただ前に食べたことのあるレトルトカレーの味だったけど……

 母親の味にはならなかったな……量を優先すると質が落ちるようだった。


 で食べ終わってごちそうさまと言い手を合わせた瞬間、食器類が消えたのだ。

 そう、消えた。

 ぱっと、一瞬で。

 物や道具である皿やスプーンがなんでルクス銅貨一枚で出てきたのかと思ったが……食べるために一時的に貸してくれたにすぎないようだ。


【おはようございます。】

「ん、おはよう」


 地面に突き刺しておいた剣に近づく。

 まさかYシャツで寝ることになるとはねぇ……


「元の世界に戻って就活を再開……する必要あるのかな」


 どうせ戻ってもお祈りメールをもらうだけだし……

 いや駄目だ。


 父さんを一人には出来ない。

 母さんがいないあの人の生きがいは子供である俺だからな……

 早く戻って安心させてあげなければ。


「どうせ戻るなら美人さんを嫁さんに貰ってからだな!」


 それくらいはまぁ融通して貰いたいものだ。

 三次元の女なんてクソだが……この異世界の女の子なら、あるいは。

 いや、そもそもかわいい女の子に会える保証なんてないけどね。

 

「なぁ、一人から二人に増えると日本に帰るためのルクス硬貨の数って増えるのか?」

【変わりません。】

【世界移動に必要なエネルギーは莫大ですが、そのエネルギーの大半は世界の壁を壊しそこから移動するために使用します。】

【そのため変動しません。】


 なるほど……って世界の壁を壊す!?

 なんだかスケールが大きいな。

 もう少し穏便に出来ないものかね。




「いただきます」


 小ルクス銅貨を使い朝食を呼び出す。

 ちなみに和食だ。

 本来朝はパン派だが、今回は実験を兼ねているからな。


「この鮭は……! 冷凍だな」

「こっちの納豆は……近所の激安スーパーで売ってる安い納豆か」

「味噌汁はインスタント!」

「お米は……これ古米だろ、しかも炊いてからだいぶ時間が立ってるな……冷たくはないけどこれ、レンジでチンしたやつだろ」



 結果。

 やっぱり種類を増やしても質が落ちる。

 食器があったり、料理の種類が増えたり、量を増やそうとすると料理の質が落ちるみたいだ。



「ごちそうさまでしたっと」


 すっと消える食器たち。

 どこへ消えているんだろうな、これ……


「今の小ルクス銅貨は……九枚か」


 九枚……しばらくは飯に困ることは無さそうだが。


「でも戻るためにはもっと稼がないとな」


 目指せ金貨百枚! ……そんなに稼げるかなぁ?

 とりあえず進みますか。

 剣を地面から引き抜き出発だ。


 だが出発前にちょっと試したいことがある。

 舗装されていない道を長時間革靴で歩くのはキツイ……が俺には妙案があった。


「確か……光力、装着っと」

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】


 ……うんやっぱりそうだ。、

 この「スノーホワイト」戦闘時じゃなくても展開されるし、靴を履いてなくても問題なく足まで包んでいる。

 今は靴下の上に直接鎧が展開されている状態だ。

 これ、十分靴の代わりになる。


「「スノーホワイト」の設定を変更出来るか? こいつを靴の代わりにしたいんだけど」

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」の一部分を常時展開するよう設定しますか?】

「頼む」

【了解しました。】

【「スノーホワイト」の脚部以外を当剣に収納するよう設定します。】

【収納しました。】


 足首周りの鎧のパーツ以外が青白い光の粒子になって剣に吸い込まれて行く。

 おお、靴の代わりなったぞ!

 革靴を剣に収納してもらって……さあ、今度こそ出発だ。




「なんだ? またオルトロスの群れか?」


 歩き続けているとまたオルトロスの群れと出くわしたわけだが……

 様子がおかしい。

 なにかを……襲っている?


「もしかして人か!?」


 魔大陸は人外魔境だそうだが、もしかしたら……!

 俺以外にも人がいるかもしれない!

 走って近づく、頼む……間に合ってくれよ!



「グルッ!」「ワン!」


 いじめられているなにかに近づくと……!


「キャン……」「ガウ!」「……ワン」


 さ、三頭犬?


 こいつらオルトロスは頭が二つの二頭犬だが、いじめられていたのは頭が三つの三頭犬だった。

 ひ、人じゃないのか……

 って落胆している場合じゃない。


「グルル……」「バウ! バウ!」


 こっちに気づいたようだな……!

 今回の群れは昨日のと違い五匹しかいない比較的小規模な群れのようだ。

 まあ頭は十あるんだが。


「さて……」


 ペンダント化している剣を強く握る。

 俺の戦うという意思に反応して剣が元の姿に戻る!


【スリーブモードを終了し、バトルモードに移行します。】

【アプリケーション「オートパイロット」を起動。】

【戦闘を開始します。】


 よし、HPバーが見える。

 ちゃんと俺の意思で戦える。

 この戦いは……俺がやるからやるッ!

 さぁ……戦闘開始だッ!




「光力、装着ッ!」

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」を展開しました。】


 一応、鎧を纏っておく。

 炎で丸焼きは勘弁だからな。


 ……おお!

 凄いなこの鎧。

 フルフェイスタイプの兜なのに視界が全く遮らない!

 分かっていたことだが……軽い!

 まるで何も身につけていないようだ。


「バウ!」「ギャン!」


 五匹の内の一匹が跳びかかってくる。

 可愛らしい普通の飼い犬だったら受け止めてやるんだが、こいつらはモンスター。

 受け止めてやる義理はない。


「パワースラッシュ!」


 【パワースラッシュ】を発動させ迎撃。

 勝手に動く腕が……光り輝く剣で、魔犬を一刀両断するッ!


「ギャン!」「ギャゥウウ……」

「一つの体に二つの頭じゃなにかと不便だろうからな、仲良く半分こにしてやったぞ……っと」


 一撃でオルトロスのHPバーが空っぽになった。

 やっぱスゲェなこの剣……

 剣も鎧も相当強い。

 やっぱり強さだけならこいつら、チートだわ。


「まだやるか? 犬っころども……っとぉ!」


 人が話す途中で残りのオルトロスが突っ込んで来た!

 ったくこっちが話してる途中だろうが……これだからモンスターは。

 とはいえこの迎撃で残り3!


「今度はこっちからいくぜ? オラァ!」


 勝手に動く体に身を任せオルトロスたちに斬りかかる!

 炎が吐き出されるが気にせず突撃ッ!


「……せぃッ!」


 一気に近づき一匹を思いっきり蹴り上げる!

 蹴られ空を舞うオルトロスが落ちてくる前に残りの近くにいた二匹を横薙ぎでまとめて斬り裂く!


「終わりだッ!」


 オルトロスがちょうど前に落ちてきたところで縦に斬るッ!


「キャ、キャウン……」「ギャアン!?」




「装着解除……ふぅ」

【戦闘終了。】

【犬型モンスター「オルトロス」の群れの全滅を確認しました。】

【アプリケーション「オートパイロット」を終了。】

【戦闘用アーマー「スノーホワイト」の脚部以外を収納します。】

【バトルモードを終了し、メインモードに移行します。】

【お疲れ様でした。】


 青い光の粒子になって剣に収納されていく「スノーホワイト」。

 さてさっきの三頭犬は……?


「…………」


 三つの頭のうち二つは目を閉じぐったりしているが、真ん中の頭はこちらを強く睨んでいる。

 生きてはいるようだ。


 黒い体毛、シュッとした体型……頭は三つだがなんだかドーベルマンっぽい。

 それがチワワに似てるあのオルトロスたちにいじめられていたのか……なんだか複雑。

 まあ小さいし子犬なのかもしれない。

 あいつら成犬ぽいし、数はあっちが上だったしな。


「うっ……出血が酷いな……」


 腹の辺りには噛まれたあと。

 それ以外にも細かな傷があちこちに……痛々しい姿だ。

 助けてやりたい。


「なにか、なにかないのか? スキルツリー、展開!」


 スキルツリーを開く。

 確か【光力戦闘術】のところに……あったぞ。


【ヒールライト】

【最低消費LP5000】

【傷を癒やす聖なる明かり。】

【光力を使った回復術。】

【重傷であった場合消費LPは増加する。】

【「癒しの光よ我らの傷を癒せ、ヒールライト」のボイスキーで発動可能。】


 また消費が重いな……しかも重傷だと消費LPが増えるのか。

 いくらLPが自動回復するとはいえどうも重いスキル多くない?


【急速にLPを回復したい場合はルクス硬貨を投入して下さい。】


 あーはいはい、わかったよ。

 ソシャゲのスタミナ回復と同じね。


「まずは回復だ……! えーと癒しの光よ、我らの傷を癒せ……ヒールライト!」


 またもや体が勝手に動き左手を三頭犬にかざす。

 すると手のひらから明かりが……!


「おお……傷が塞がっていく」


 やはりこの【ヒールライト】、ゲームでよく見た回復呪文と一緒のものらしい。

 それにしては消費が重すぎると思うのだが。


 ……いやターンバトルで確実にダメージを食らうであろうRPGと基本一撃で倒してるこっちではいろいろと違いが出るか。

 鎧もあるし、基本怪我をしないだろうからそんなに使わないかな、と思っていた【ヒールライト】だが早速出番になるとはな。


「傷から血が出てるってことは……モンスターとは違う生き物なのか?」


 傷を治しつつ三頭犬を観察する。

 モンスターは流血しない。

 青熊や今さっき倒したオルトロスも傷跡こそ出来たが、血は流さなかった。

 そう、モンスターは文字通り血も涙もない化け物なのだ――

 いや、涙くらいは生理現象で流すかもしれないが。


 血を流す三頭犬。

 血が流れていないモンスター。


 どうやらこの世界の生き物事情は結構複雑そうだ。

 少なくともモンスターに痛覚はあるようだ、青熊が痛みに怯んでいたし。

 モンスターって……一体何なんだ?

 この三頭犬は血を流す生き物だ。

 なぜ頭が三つあるのかは全く分からないがモンスターよりは真っ当な生き物らしい。

 すなわち、モンスターより人間である俺に近い生き物。

 そしてなにより――この首輪。

 この三頭犬が首輪をしてるということは誰かが飼っていた……ということだ。

 そう、犬を飼う……この辺りに人間がいる証拠だ。


 この犬を助けたくなったのは……生き物を殺している罪悪感からの逃げだったが……

 ルクス硬貨から得られた情報を信じるのなら、街や村はないそうだが……なにかのヒントのようなものが見つかるかもしれない。

 この異世界についての情報が得られるチャンスだろう。

 この剣以外の情報源が得られるチャンスだ。

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