思いを伝えるまで
ssです。
高校生。
青春。
それらの単語には、『恋』は欠かせず連想されるだろう。
高校生ともなれば、例外もあるが大体はみんな恋愛をしていることだろう。
もちろん、俺もその一人だ。
「ねえ、海斗ー。あれがいい。あれ欲しい。あれ取って」
「無理。よく見ろ、アームがゆるいだろ 。こうゆうのは大抵取れねーんだよ」
七月中旬。
俺の通っている高校は、明日から夏休みだ。
七月中旬ともなると、さすがに外は日差しが照りつけていて蒸し暑い。
軽い運動をするだけで汗をかいてしまうほどだ。
そんな中、俺と山田ちえりはゲームセンターに来ていた。
冒頭で話した通り、俺にも好きな奴ってのがいるわけで。
それがコイツだ。
クラスは違えど、中学が一緒だったのでまあ仲はいいほうだ。
明日から夏休みになる。
もちろん、学校では会えないので会う回数が減ってしまう。
なので、夏休み前最終日にこうして遊んでいるわけなのだ。
ちえりはUFOキャッチャーの機会の中に積まれているあまり可愛くもないウサギのぬいぐるみを指さした。
「大丈夫、海斗なら取れるって私信じてるよ」
俺の肩にトンと手を載せ少しドヤ顔を決めるそいつに少し腹が立つ。
なにが大丈夫だ。
俺が大丈夫じゃねえ。
取れなかったらかっこ悪いだろうが。
「こういうの、すって取れたらカッコイイよね」
目の前に積まれたあまり可愛くもないウサギのぬいぐるみをじっと見て言った。
男とあらば、好きな女にかっこいいところを見せたいというのは一般的な考えだろう。
自分の好きな女が、これを取れたらカッコイイと言っている。
俺は、ポケットに入っていた財布から100円を二枚ほど取り出しUFOキャッチャーの金額投入口にいれた。
取らない理由など、先程の言葉を聞いたらすっとなくなっていた。
「まかせろ」
「え?!取ってくれるの?!」
俺が機械に金を入れるのを見て、キラキラと目を輝かせるそいつはどうにもお菓子を目にしたガキにしか見えていなかったと言うことは、まあ内緒にしておこう。
失敗なんてしてたまるか、と言わんばかりに俺はシャツを捲し上げる。
それを見て、「やる気じゃん」なんてのんきに笑うそいつはウサギのぬいぐるみにしか目がいってないような気もした。
一回目は、失敗。
そして二回目。
取れなきゃ死ぬ
そんな思いを抱いて、ボタンを慎重に操作した。
すると
「あ!あ!すごい!取れちゃった!!」
「うるせー!黙ってろ!!」
見事にアームの先に、ウサギのぬいぐるみについていた紐が引っかかり俺が狙っていたウサギは宙に浮いた。
ガコンとぬいぐるみが落ちる音がする。
あー、取れてよかった
と安堵のため息が漏れた。
「すごい!海斗すごいよっ!取れたよ?!取れるとは思わなかった!!すごいすごいすごい!!」
ん、とウサギのぬいぐるみを手渡すとぴょんぴょんと飛び跳ねて俺をべた褒めするちえり。
てか、取れるとは思わなかったって、てめー海斗なら取れるって私信じてるよとか言ってたの何処のドイツだよコラ
「これもらっていーの?」
もらう気マンマンの癖に、そう首をかしげ聞いてくる。
なんだろうか。
ただでやるのが尺になってきた。
「いいけど、交換条件があります」
「うん、なに?いいよ!私このぬいぐるみのためならある程度のことなら受け入れられる!」
未だにキラキラと目を輝かせるちえりに、俺はひとつ提案を出した。
「夏休み、たくさん遊ぼうぜ」
俺がそう言うとキョトンとした表情で首を傾げる。
「そんなこと?」
「そんなこととはなんだ」
本当は俺と付き合えとか言いたいところだが、さすがにゲーセンともなるとムードもクソもない。
「私、これくれなくてもたくさん遊ぶつもりだったけど。海とか花火とかお祭りとか」
ニコリ、と笑いそう言うちえりはなんとも可愛く見えた。
ああ、駄目だ
コイツにはかなわねえ
(思いを伝えるのに)
(そう時間は掛からないだろう)
ご閲覧ありがとうございました。