出会い
これは、必然が重なって起こった物語である。
私は、ここに書き記そう。
1日目
私、木花咲耶は八重桜高校の入学式を終え、私の幼馴染みの忍野八海と一緒に帰る。
その帰り道にある公園で昼食がてら花見をしようとコンビニで飲み物、ご飯、お菓子を買って公園に向かった。
着くなり私は、公園の桜を見て、
「やっぱりここの桜はいつ見ても綺麗ね。」
と、笑顔で言うと、
「またそれか、毎年言ってないか、咲耶。」
と八海が苦笑いで言う。
「だって綺麗なんだもん。」
と私がお茶目に言うと、
「それは認めるが・・・・・・。」
八海は、困った顔で左手で左目を隠す。
といったようなやり取りは、いわば『お約束』のようなもの。
まあ、それは置いといてーー。
私は、テーブルのあるベンチを指さしながら、
「いつもの場所でお花見しょっか。」
「そうだな。」
そう言いながら、かばんやコンビニ袋をテーブルの上に置く。
すると、どこからか声が聞こえた。
「おい、何イチャイチャしてんだ、イチャイチャするならお家でやりな。」
声の主に目を向けると、見るからに悪そうな男たちが、私たちを睨んでいた。
「イチャイチャなんてしてたか、咲耶。」
と八海がキョトンとした顔で私の顔を見たと同時に、私は気付いた。
悪そうな男たちは五人いて、そのうちの二人がタバコを吸っていた。
「今すぐその手に持っているタバコを携帯用灰皿に捨てなさい。」
私は目を閉じ、タバコを捨てるよう促した。
「あぁ、煙たかったかぁ、ごめんね。」
とタバコを吸っている二人のうちの一人が私の顔に吸ったタバコの煙を吹きかけてきた。
そのせいで私を咳き込み、両手で口を塞ぐ。
「咲耶、大丈夫か。」
八海は私の背中を摩ってくれた。
私は、大丈夫、と頷いて見せる。
もう、頭来た。
「いい加減にしろよ。」
「いい加減にしなさい。」
私と八海が共鳴したかのように二人の声が重なった。
「桜は煙に弱いんだから。」
「え・・・・・・あっそっか、咲耶はそういう人だった。」
八海は、思い出したかのように言って、左手で左目を隠す。
八海が、咲耶はそういう人、と言ったのは、さっき置いといた『お約束』も関係する。
何を隠そう、私は桜が大好きで、桜に詳しいからか、日本神話の木花咲耶姫に因んでからか、八海に、私をこう呼ぶことがある。
「さっさとタバコを捨てたほうがいい。桜の姫がご立腹だ。」
「はぁ、くっ・・・・・・はっはっはっ、お前ら、姫だってよ。」
と男たちは笑う。
「分からないなら別の言葉で言ってやるよ。
早くそのタバコを捨てないと、痛い目に遭うってな。」
八海言い終わったのを合図に私は男たちをぼこぼこにしていた。
言い忘れていたが、私は桜に関わる侮辱や桜を粗末に扱われると頭に血が上り、つい手が出てしまうほど喧嘩っ早くなる。
だから実はどのように男たちにぼこぼこにしたか覚えていない。
あれっ、八海も参加してたような・・・・・・、、まいっか。
気付けば男たちは、お腹やら腕やら抑えて
「強えぇ、行こうぜ。」
など口々に言って立ち去った。
「だから言ったんだがな、素直に聞かないからこうなるんだ。」
八海が言ったと同時に私は、はっと我に返った。
えっと・・・・・・、。
「気を取り直して、お花見しょっか。」
「ああ、そうだな。」
私が手をぱんっと叩いて気分を切り替える。
ベンチに座って、コンビニ袋を漁り、ご飯や飲み物などをテーブルに並べる。
花見の準備が出来て、手を合わせ、
「いただきます。」
と二人で声を合わせて元気よく言い、食べ始める。
「そういえば怪我はないか。」
八海が、フッと顔を上げ、私に聞く。
「あ、あった。」
ふと見ると、右足の膝に擦り傷が出来ていた。
「あの時こけたからだな。」
「え、こけたっていつ。」
「さっきの男たちをボッコボコにしてる時。」
「ボッコボコって・・・・・・。」
「ったく、昨日ガーゼとか絆創膏とか買い足しておいておかったな。
傷、見せてくれ、手当てしてやる。」
「うぅ・・・・・・、いつもごめんね。」
「ふっ、そう思うなら喧嘩するなよな。」
「だって、気付いたら頭に血が上ってて、一応喧嘩しないように冷静でいなきゃって思っていつも我慢してるんだよ、でも上手くいかなくて。」
「そうか、一応心がけてはいるんだな。」
「うん。」
こんな会話をしているうちに丁寧にけがの手当てをしていく八海。
「よし、手当て完了っと。」
「ありがとう、八海。」
と私がお礼を言うと、八海は少年のような笑顔でうなづくと忽ちその笑顔は弱いものとなった。
「咲耶ってさ、時々俺のこと忘れるよな。」
「え、忘れてなんか・・・・・・。」
「だったらなんで俺を頼ってくれないんだ、いっつも一人で抱えてさ。」
八海の顔にさっきの笑顔は消え、だけど真っ直ぐな目で、私の目を見る。
すると突然、
「五十歩百歩だぞ。」
「そうそう、お互い様よ。」
とどこからかさわやかな青年のような声と色っぽい少女の声が聞こえた。
私たちは声の主を探すため、周りを見回す。
「こっちよこっち。」
「後ろの桜の木だ。」
「後ろの・・・・・・。」
「桜の木・・・・・・。」
聞こえてくる言葉の通りに目を向ける二人。
「あ、あそこ。」
私が桜の木の枝に座る夜桜のような着物を着た青年と桜柄の着物を着た少女の二人を見つけて言うと、八海も見つけたようで、
「本当だ。」
とびっくりした顔で桜の木の枝に座っている二人を見る。
「ふふ、私たちが見えるようね、良かった。」
と少女が微笑み私たちを見つめている。
「待っていてくれ、今そっちに行くから。」
そういって青年と少女は、ゆっくりと地へ降りた。
すると、不思議な事に、二人は猫の姿に変わった。
そして、器用に私たちがお花見していたテーブルにちょこんと座る。
もう、なにがなんだか。
「びっくりさせてしまったな、僕は染井吉野だ。」
青年から少し桜色がかった白猫に変わった吉野が言った。
「仕方ないわ兄、人間にとって私たちは異常だもの。
あ、私は山桜よ、よろしく。」
少女から桜色のねこに変わった山桜が言った。
「えっと、私木花咲耶です、こっちは忍野八海。」
と私は会釈をする。
「お、おい咲耶。」
「あ、ごめんつい。」
何故か自己紹介をしてしまった。
っていうか猫が喋ってる。
「うふふ、私たちが先に名乗ったのだもの、当然よ。」
「僕たちが見えるってことは、相当桜が大好きのようだね。」
「大好きですけど・・・・・・。」
と言いながら、私はベンチに座る。
「二人は何者なんだ」
八海もベンチに座る。
「私たちは桜の精霊よ。」
「そして、桜を守る者、守桜者でもある。」
「つまり二人は、桜の精霊であり、守桜者・・・・・・、だから猫に変身できると。」
「そうよ八海、まあ、猫の姿のほうがいろいろと好き勝手に動けるんだけどね。」
「好き勝手ってどういうことなのですか。」
と山桜の言葉に判らないと首を捻る私を見て、愛らしいと微笑む吉野は、
「人間にはどうやら猫の姿のほうが見えやすいみたいでよく食べ物を貰ったり、撫でられたりするんだ。」
と私に解説をする。
あぁ、成程。
「そういうことなのですね。」
「じゃあなんで俺たちと同じ言葉で会話できてるんだ。」
それは私も気になってた。
「それは、脳波で直接脳に語り掛けるって感じだ。」
いまいちよく分からないんだけど。
「んとぉ、つまりどういうことなの。」
「要は心の中の声で会話してるってことだ。」
八海は相変わらず頭の回転が速いな、羨ましい。
「成程分かったわ。」
「あ、いけない、兄、お礼を言い忘れていたわ。」
「そういえば、僕たちとしたことが。
二人とも、桜を守ってくれて感謝する。」
「ありがとう咲耶、八海。」
と、礼をする吉野と山桜。
男たちをぼこぼこにした時かな。
「私は当然のことをしただけよ。」
私は笑顔で答える。
「俺もあいつらを殴ってすっきりしたし、いい一時だった。」
八海の笑顔は妙にキラキラしていた。
殴って・・・・・・、って気のせいじゃなかった。
「八海、あなた参加してたの。」
「なんかイラッとしてな。」
八海がイラッとして・・・・・・。
まさか男が私の顔にタバコの煙を吹きかけた時かな・・・・・・、んー、ないわね、うん。
「二人とも素敵だったわ、舞うような戦い方で。」
「あぁ、少しも隙が無かったな。」
「へぇ、そう見えていたのか。」
「なんか照れるわ。」
吉野は、山桜と顔を合わせ、頷き合うと、
「実力を見込んでお願いがあるんだが、いいか。」
と、真っ直ぐ私たちの目を見る。
「何かしら。」
「守桜者になってほしいの。」
「守桜者って、二人じゃないのか。」
八海は、吉野と山桜を見る。
「僕たちだけじゃ守り切れなくなったんだ。」
「守るってどういうことなのですか。」
「桜を壊す者がいるのよ。」
山桜の目は鋭いものになった。
「桜を壊す者は、理由は解らないが、桜を壊しまわるんだ。」
吉野も同じ目をしていた。
「それは許せないわ。」
私は、興奮気味に言う。
桜を壊すなんて人を殺していることと同じだわ。
絶対許さない。
「落ち着け咲耶、気持ちは分かるが敵のことを知らなければ俺たちは何もできないぞ。」
「それもそうね。」
私は、胸に手を当て、深呼吸をする。
「落ち着いたかしら。」
山桜が可愛らしい笑顔で尋ねる。
「うん、取り乱してごめんなさい。」
「構わないわ。」
「で、つまり手伝ってくれと。」
「そうだ、嫌なら断ればいい。」
「そんなの決まってるわ、ね、八海。」
「おう、俺たち、守桜者になるぜ。」
私たちは目を合わせて頷き、二人の申し出に応える。
「いいのかい、二人とも。」
吉野は、申し訳なさそうに言う。
「聞いといてそれはなしだ。」
八海は、さわやかな笑顔で答える。
「そうそう、これは私たちの意思なのだから。」
私も笑顔で同意する。
「なら、私たちはその意志に応えるわ、兄。」
「あぁ、ならば早速あれをやるか、山桜。」
吉野と山桜は、頷き合う。
「ちょっ、あれって何だ。」
私たちは戸惑いながら二人を見つめる。
「私たちは猫以外にもう一つ姿を変えることが出来るの。」
「猫以外って、ほんとに不思議だな、桜の精霊って。」
「ははは、僕たちからすればお互い様だと思うんだ。」
まぁ、確かにそうかもしれない、意味が違うと思うけど。
「二人とも、利き手はどっちかしら。」
「私は左利きよ。」
「俺は右利きだが。」
利き手なんて聞いて何の関係があるのかな。
「それと、刀と薙刀は持ったことがあるかい。」
「私はどっちもないわ。」
「俺は中学の時に文化祭の出し物で刀を振る立ち回りを、段ボールで作った刀だったが・・・・・・、って、まさか。」
「そう、そのまさかよ。」
と言いながら、二人はテーブルから降り、山桜は私の前へ、吉野は八海の前へ歩み寄ると、アイコンタクトをするとせーのと合わせたように吉野は刀に、山桜は薙刀に変わった。
私たちは、戸惑いつつも八海は刀を、私を薙刀を手にする。
「これからは僕たちを振って戦うことになるな。」
「その言い方やめてくれ。」
「あれ咲耶、敬語やめたんだ。」
「あ、そういえば。」
私は口に手を当てて驚く。
いつの間にかため口になっていたのね、八海に言われるまで気付かなかった。
「てゆうか八海、あなた最初からため口だったわよね。」
「俺はこのやり取りがめんどくさくなると思ったから。」
「私たちはため口で構わないわよ、ね兄。」
「ああ、それにさっきから僕たちの名前を呼んでいないのだが。」
「あ、そういえば、でも何て呼べばいいの。」
「なら、二人は僕を吉野って呼べばいい、僕は二人を呼び捨てで呼ぶ。」
「私も、山桜って呼んで構わないわよ。」
二人がいいなら・・・・・・。
「分かった、じゃ改めて、よろしくね、山桜。」
「うん、よろしく、咲耶。」
と、私は山桜と笑い合う。
「俺も。よろしくな、吉野。」
「あぁ、よろしく頼む、八海。」
八海たちは、手を取り合い握手をする。
「じゃ、早速練習を・・・・・・。」
と私は立ち、分からないなりに構える。
「いや待て、俺たちはまだ食べ終えていない。」
「あっそっか、食べないと力が出ないわよね。」
私たちは、席につきテーブルに上を見て、まだ食べていないことに気づく。
「おう、そういうことだ。」
私と八海は、食べ始める。
「そういえば吉野と山桜って兄妹なのか。」
八海は、多分なんとなく頭に浮かんだ疑問を口にする。
「あぁ、そうだ。」
「山桜が吉野のこと兄って呼んでるのはそういうことなのね。」
「うん、まぁ私が勝手にそう呼んでるだけよ。」
「兄弟かぁ、私一人っ子だからそういうの憧れるなぁ。」
「そういうもんなのか、上に姉貴がいるからな、むしろ俺は一人っ子のお前が羨ましい。」
「あっそっか、仲悪いもんね、八海と八海のお姉さん。
八海のお家に遊びに行く時、いっつも喧嘩してるし。」
「そうなのか八海。」
「やめろ咲耶、その話は。」
今のは意地悪だったかな。
そう思ったのは、まあそれほど仲が悪いから。
八海のお姉さんは、気が強いうえに頑固というか、融通が利かないというか。
ま、そういうところは八海もなのだけど・・・・・・、ね。
「そうね、ごめんなさい。」
「別にいい。」
八海は、左手で左目を隠し、そっぽ向いてしまった。
少し空気が重たくなった。
私のせいでこの空気になったとはいえ、こうなると思わなかった。
私はこの空気がどうしょうもなく嫌で、なんとか空気を明るくしようとする。
「そ、そういえば桜の精霊って食事するの。」
「私たち桜の精霊は、普段食事する必要はないの。」
「必要ないってどういうことなんだ。」
八海もう復活したの。
早っ・・・・・・。
「桜の精霊は、桜と同じ存在なんだ。」
「だから食事しなくても平気だと。」
「まあ、そういうことだ。」
「守桜者になる条件ってあるの。」
「一番の条件は桜が好きという純粋な心だ。」
「つまり、純潔なな心ってことよ。」
「純潔、花言葉ね。」
他にも、心の美しさ、精神の美、優美な女性などがある。
桜の種類によって花言葉が変わってくる。
「つまり、守桜者の条件は花言葉てことね。」
「そういうことだ。」
「へぇ、じゃあこれからも純潔でいなきゃ。」
純潔とは心にけがれなく、清らな事を言う。
「咲耶は桜のことになるとすぐ血が上るのをなんとかしないとな。」
「さっきの喧嘩を止めなかった人が良く言うわ。」
「そりゃそうだな、ははは。」
とお互い皮肉を言いつつ笑い合う。
吉野と山桜もつられて笑い合う。
最後の一口をごくりと喉を鳴らし、手を合わせ、
「ごちそうさまでした。」
と声を上げ、昼食に出たゴミをコンビニ袋に入れ、その袋をかばんに入れる。
「よし、稽古を始めるか。」
「うん、吉野と山桜、もう一回武器化をお願い。」
無意識に、吉野と山桜が刀と薙刀に変身することを武器化と言っていた。
「いいなそれ、これからも刀と薙刀に変身する時は、武器化って言って構わないか。」
「ええ、いいわよ。」
「僕も構わない。
では始めよう、二人とも、懐を失礼するぞ。」
すると、吉野は八海の、山桜は私の懐に向かって跳躍をした。
私と八海の手元には、二人はすでに武器化していた。
「まずは、素振りから慣らしていくわよ。」
「刀と薙刀は、持ち方と長さが違うだけで振って描く線は同じなんだ。」
「そうなのか。」
「確かに、アニメとかゲーム見てるとそうかも。」
私はたまに桜が綺麗に演出されているとつい見てしまう。
アニメやゲーム、時代劇やドラマなど桜が綺麗に演出されていればどんなジャンルでも見る、癖かな。
「僕たちの掛け声に合わせて振っていこう、いいな二人。」
「うん。」
「おう。」
私と八海は、声を揃えて返事をし、構える。
「振り方は降りやすい振り方で振る事、いいわね。」
「はい。」
「はい。」
「行くぞ、縦。」
「はい。」
「はい。」
「次は横。」
「はい。」
「はい。」
というように、吉野と山桜の分かりやすい指導のおかげで自分がだんだん成長していると感じていく。
私と八海が慣れてきたところで、吉野と山桜は、
「くるっと回って横。」
「えっと、こうかな。」
「ジャンプして縦。」
「よっと、なんか動きが複雑になってきたな。」
「うん、けど楽しくなってきたわ。」
「ウフフ、次は突き。」
「いきなりシンプルになった。」
「というか、今のダジャレか。」
「いや、今のは山桜の無意識だ。」
などやり取りをしつつ、私と八海は、いろいろな動きを熟す。
今思えば遊ばれていたような・・・・・・、気のせいかな。
「そこまで。」
と吉野と山桜は、声を揃えて言った後、人間の姿に戻る。
「今日はここまでにしよう、日が暮れてきたからな。」
集中してて気づかなかった。
「ありがとうございました。」
と私と八海は礼をする。
「あら、珍しい。」
「ああ、ここまで礼儀正しい人間はそういないだろう。」
私は八海と顔を合わせる。
キョトンとした顔をしていた。
「どうしたの、咲耶、八海。」
ここで褒められると思わなかった。
「だって、なあ。」
「うん。」
「当たり前な事だろ。」
「当たり前な事よ。」
また私と八海の声が共鳴したかのように揃った。
今度は、吉野と山桜がキョトンとしている。
「ぷっ、ふふふ、あははは。」
私は、このやり取りがなんだかおかしくなって笑いが零れた。
「くっ、ふふふ。」
すると、八海も笑いが零れる。
吉野達は、キョトンとしたまま顔を合わせると、次第に笑いが零れる。
「ふっ、ははは。」
「ふっ、ふふふ。」
私たちの笑い声が公園中に響く。
「そろそろ帰らないとな。」
と八海は、公園の時計を見て言う。
私も公園の時計を見ながら、
「そうね、また明日の放課後ね。」
と言って私と八海は、かばんを持つ。
「うふふ、また明日会いましょう、咲耶、八海。」
「ああ、また明日会おう、八海、咲耶。」
そう言って、山桜と吉野は微笑む。
「うん、また明日ね、山桜、吉野。」
「おう、また明日な、吉野、山桜。」
と私と八海は、手を振る。
それを受け、山桜と吉野も手を振り返す姿を見て、家の帰り道へ行く。
家の帰り道の途中に二つに分かれた道を前にして、私は、また明日と言おうとして息を吸うより先に八海が声を上げる。
「あのさ。」
「ん、なに。」
「空、暗くなってきたしさ、送ってくよ。」
「ん、ありがとう、でもなんでなのよ。」
「いや、ちょっとやな予感がしてな。」
「そっか。」
「おう。」
私の家の帰り道を少し歩くと、木が揺れた。
「ほう、この二人が守桜者かあ。」
と、どこからか声が聞こえた。
「誰だ、姿を見せろ。」
八海が、私をかばうように私より一歩前に出る。
その姿にきゅんとしてしまった、そんなことしてる場合じゃないのに。
「くっくっくっ、急くな、また会える、その時どのくらい強くなっているか、楽しみにしているよ。」
ねっとりとした嫌な声がした。
また、木が揺れた。
どうやら去ったらしい。
「ち、やな予感が当たっちまった。」
八海が左手で左目を隠す。
「ねぇ、もしかして今のが桜を壊す者かな。」
「ああ、たぶんな。」
八海は、ため息交じりに言った後、小さな声で何か言っていた。
「さく・・・・・・てだ・・・・・・。」
が、聞き取れなかった。
なんて言ったのかな、聞こうかな、でも聞いてはいけない気がして聞けない。
うん、やめておこう。
「行こうか。」
「うん。」
それから私たちは黙って歩く。
なんかいつもより帰り道が長く感じる。
いつもなら一人で歩いている道、なのにどうしてか私には難しい。
その難しい問題を解けないうちに家に着く。
「ありがとう、八海。」
「おう。」
「また明日、八海。」
「また明日な、咲耶。」
お互い手を振って、私は家へ入る。
「ただいま。」
と言いながら靴を脱ぐ。
「おかえり。」
バタバタと足音を立てながら私の母親である木花咲が家中を駆け周る。
「ご飯出来てるから、着替えたらリビングにいらっしゃい。
あ、手洗いうがいも忘れずになさいよ。」
早口で捲し立てる母の声を聞きながら、
「分かってるわ。」
と返し、洗面所で手洗いうがいを済ませる。
ははは、膝が笑ってる、明日筋肉痛ね、絶対。
階段を上がり、自室へ向かう。
私は、自室に入るなりベットに体を預ける。
今日は不思議な一日にだった。
どのくらい強くなっているか。
それもすぐに会えるって、こんな早くに戦う相手が来るとは思わなかった。
どうしよう、今日初めて薙刀を握った初心者なのに、間に合うかな。
まぁ、頑張るしかないか。
とベットから下り、部屋着に着替える。
そして、リビングに向かう。
「遅かったわね、どうしたの。」
咲は、洗濯物を畳みながらさっきの早口ではなく、ゆっくりと優しい声で言った。
どうしたの、か。
本当のことを話しても信じないだろうし、もし話してもどう説明すればいいか困る。
私はとりあえず、
「八海とお花見をしてただけよ。」
と言ってみた。
嘘は言ってない。
「それで夕方までお花見してたの。」
疑いの目をしている咲を横目に見ながら、
「いただきます。」
と手を合わせて元気に言い、夕飯を食べ始める。
「ちょっと聞いてるの。」
「聞いてるわ。
お花見してたら人が来てつい話に夢中になっていつの間にかこんな時間になっちゃっただけよ。」
今度は本当と嘘を混ぜてみた。
「どんな話したの。」
そう来たか、なら。
「桜について色々と。」
と返してみた。
次はどう来る。
「色々って具体的にはどんな話をしたの。」
やっぱりそこ突っ込むか、なら。
「桜のいいところとか、紅葉しても綺麗だよねって話よ。」
と嘘を作ってみた。
これでどうかな。
「そう。」
と、咲は畳み終わった洗濯物を入れたかごを持ち上げ立ち上がる。
「ストレス解消の相手してくれてありがとう。」
にっといたずらっ子のように笑うとリビングを去っていった。
「いつの間にか利用されてた・・・・・・。」
これはまぁ、ストレス溜め込みすぎて暴れられてもこっちが困るだけだし、うん、許す。
言い合いの勝敗はどうでもいい。
夕食の食器を洗いながら私は思った。
「もうシャワーを浴びて寝ることにするわ。」
そう、私は必然の歯車が動き出していることは知らずに明日を迎えるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
この物語はまだ続きます、私の自己満足ですが、楽しんで付き合ってもらえれば幸いです。