プロローグ
俗に言う剣と魔法のファンタジーの世界、ルーナリア。
この世界では、ダンジョンと呼ばれる不可思議な領域と、冒険者と呼ばれる者達がいた。
この物語は、冒険者病ではない冒険者、ルイの物語である。
この世界はなんだかおかしい。
戦争の無い平和な世界のはずなのに、おかしいのだ。
300年前くらいは戦争も平和も混雑する世界だったけど、今は違う。
そうなったのはある日突然現れたダンジョンのせいだった。
ダンジョンとは魔物と呼ばれる生き物が居て、何故か財宝もある場所だ。
何階層あるか解らないが、常人であれば恐ろしい程に強い魔物達に挑む冒険者がいる。
冒険者達は、殆どが望んでなったのではない。
ある日突然、どうしてかダンジョンに潜らなくてはならないという脅迫観念に駆られるのだ。
優しいお母さんも、可愛い坊やも、老いた人もある日突然冒険者になる。
人はそれを冒険者病と読んだ。
冒険者達はみんな普通の人だったのに何かを境にダンジョンに潜らなくては死んでしまう程の思いに駆られる。
どこかの国の偉い人が冒険者病になったとき、ダンジョンに行かせない為に監禁されたら発狂して死んでしまった程だ。
それ以来、冒険者病ではない人たちは身近な人に冒険者病にかかった人が居たら、必ず防具や武器を手渡してあげる風習が生まれた。
頭がおかしくなったようでも冒険者達はそれでも必要なのだ。
ダンジョンに冒険者を入れないようにしていた国は、ある日ダンジョンから沸いてくる魔物に滅ぼされてしまったからだ。
冒険者達は必要な存在、そう浸透した今冒険者達はダンジョンに足を踏み入れ、生きて帰ってくるとつかの間の休息を取りまたダンジョンに潜るのだ。
僕の母さんも冒険者病だった。
華奢で井戸水を汲みに行く姿すら不安に思われるほどの人だったのに、冒険者だった。
素晴らしい魔法の使い手らしく、いつも生きて帰ってきてくれたけど僕は冒険者病の母さんが嫌いだった。
母さんがダイブ(ダンジョンに潜る)する時、必ずお父さんを連れて行く。
お父さんは冒険者病ではなかったけど、お母さんのことが心配でついて行っていた。
二人がダンジョンに行っている間、僕はいつも一人で時によっては何日も一人だった。
二人が帰ってこないなんてことになったらどうしようと震えながら暮らすのは辛かった。
近所のラス兄ちゃんも冒険者病になってから、気がついたら姿を見かけなくなったのは忘れない。
父さんと母さんは今のところ帰ってきてくれるけど、これからどうかなんて解らない。
僕は怖くて仕方なかった。
「どうして冒険者病なんかあるんだろう」
「そんなの知らないわよ、ルイ。私に聞かないで」
ラス兄ちゃんの妹のルーリィはぶっきらぼうに言った。
二年前までは明るくていい子だったのに、ラス兄ちゃんが帰ってこなくなってから冷たくて意地悪な子になってしまった。
冒険者遺族のルーリィの家はは国からお金を貰って生活をしているけど、そのせいで意地悪な人に嫌みを言われているのを知っている。
でもお金なんかじゃラス兄ちゃんの代わりにならないのをどうしてみんな解らないのか。
「私に力が合れば、こんなダンジョン木っ端みじんにしちゃうのに」
「木っ端みじんにしてくれたら僕もうれしいよ」
「あーあ、サイテーな気分」
そんなことを言っていたルーリィが、次の日冒険者病にかかるなんて思っても居なかった。
この世界はおかしい。
ダンジョンというおかしなものによっておかしくなっている。
僕はダンジョンもこのおかしか世界も大嫌いだった。
目の前で泣きながら武器を手にするルーリィを見て、強く思った。
ダンジョンなんて無ければ良いのに、と。




