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はじまり-07

「だって、私は……」


感極まってか、ヘンドリックは声を詰まらせた。そして、ぐっとこぶしを握ると、いままでたまりにたまった鬱憤や不満を示すように肩をそびえさせた。


「ずっとずっと、私の憧れだった。――誰の下へもつかず、己の信念に基づいて行動をし、それに反するときは王にでも意見する。あの頃、私と同年代の見習いはみんなあなたを見ていました。これがほんとうの騎士だって。誰に教わっていなくても、皆がそれを知っていた。だから、――だからこそ私は……あなたの弟子になりたかったんだ!」

「わしだとて、お前くらいの頃にはもう少し柔らかく女と遊ぶくらいはしておったわ。ひきこもりの朴念仁と一緒にしてくれるな!」

「ジュール!」

「そんな悲痛な声を出しても、もうお前はわしのかばいようのない所におるだろう。小僧。わしの後ろをついても、どうあっても逃れようのない責任がお前には生まれている」

「分かってます……」


唇をわななかせてヘンドリックが顔を伏せた。しかし、すぐに思いなおしたように顔をあげ、ジュールに強い視線を投げかけた。


「王への忠誠を曲げたことはありません。しかし、王都は、いえ、王宮は私には生き辛かった。――私の憧れの騎士はあなただけだった。どんな権力にもこびへつらわず、王へも敢然と意見をし、ひとり立つあなたの姿が、私にどれだけ夢を見せたでしょうか。ひきこもりとののしられても良い。朴念仁と言われても、私にとってあなただけが、たった一人、夢にまで見た憧れの騎士です」

「……」


ヘンドリックの熱烈な告白を受けて、ジュールは深いため息をついた。


「馬鹿が……お前がそんなだから、こんな所に飛ばされるんだ。――お前ほどの男であれば、王の御元ですべての騎士を束ねていてもおかしくないはずなのにな」

「でも、それでは私は幸せにはなれませんでした……それに、こう言っては不敬にあたるかもしれませんが、私の能力を本当に見抜く人にしか私を使わせることはありません。それくらいには自負してますよ」

「……」

「子供たちは、私の子であるなら自ら頭角をあらわすでしょう。それができないなら、与えられたもので満足するしかありません。血を分けたわが子ですが、それだけで任されぬのが国、という大きな責任であるのですから」

「――ふん、大概ふてぶてしくなったな」


言いたいことを言い終えて、すがすがしい顔をしたヘンドリックはジュールと目を見交わした。


「あなたのあとを追いかけ続けるくらいに偏屈ではありますからね」

「黙れ小童!」


おかしくてたまらぬ、と言ったようすのジュールがこぶしを握ってヘンドリックの肩口に当てた。それを大げさに痛がりながら、ヘンドリックも笑っている。

先ほどまでの突き詰めた空気は消えはて、穏やかな雰囲気が部屋を満たした。このいさかいは、およそ他人には理解できないふたりだけの乱暴かつ分かりにくい親愛の表現であるらしかった。


すっかり態度を軟化させたヘンドリックが酒瓶を持ち上げると、当然のようにジュールは杯を差し出した。お互いの器を満たすのを確かめたあと、無言で打ち合わせた。

それは、長い年月が築き上げた不思議な関係でもあった。


「しかし、あなたは本当にずるい。……三年も私に黙って――」

「まあそう言うな。こちらにも事情はあったんだ」


恨みごとを口にするヘンドリックをなだめて、ジュールは機嫌を取るように微笑みかけた。


「では、三年分のうらみごと、しっかり聞いていただきますので、覚悟なされよ」

「おいおい」

「長年つき従った従卒の繰り言を聞いて下さるとおっしゃったでしょう。観念なさい。こちらは報告したいこともありますから」


今度はジュールが深いため息をついた。にやっと意地の悪い笑みを浮かべてヘンドリックはそんなジュールのようすを嬉しそうに眺めている。それをとがめる余裕もなく、ジュールは頭をかきむしった。


「まったく、ふてぶてしくなったものだ」


ジュールのひとりごとは、外から聞こえてきた女たちのけたたましい騒ぎ声でかき消された。



次の次で主人公のターンが戻ってきたい。日本語よ、来い!

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