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はじまり-04

「****」


目を開けるのが辛かった。目の奥から脳みそまで強引に引っ張られて、それを阻まれているような気がした。


(弁当入れて、今日は仕事帰りに買い出しにいかないと夜ごはんない)


どんよりと重い意識を覚醒させるために、たくさんのやるべきことを思い出してゆく。両目をいっぺんに開けるのは諦めて、片目に少し力を入れた。


(……あれ)


暗い。カーテンを閉めているから当然かもしれないけれど、それでもそこに夜明けの光が見えない。そのかわり、すぐわきに明るくて熱いなにかがある。

じっくりとそれを眺めて、ようやくそれがなにかを理解してリナははっと目を見開いた。


「か、火事!」


赤々と焚き火が燃えている。信じられないものを見て、眠気も疲れも消し飛んだ。慌てて飛び起きると、鈍い痛みが体中を走り抜けた。


「痛っ、い」

「***っ!**、******」


と、同時にぼすんとなにか固いものにぶち当たって、弾き飛ばされ地に伏せた。むき出しの岩肌に皮膚が擦れてかすり傷が無数に出来る。


「え、なにこれ」


よく見れば、ひよこの柄の寝巻がボロボロになっていた。着古してはいたけれど、洗濯もして大事に扱っていたからショックが大きい。それに――


(なにこれ、なんで布団じゃないの)


指先がざらざらと冷たい岩肌を撫でる。よく見れば寝巻のすそが破れて泥に汚れている。気がつくと、あちこちがひりひり痛みだした。痛む部分を探ってみれば、体中どこもかしこも擦り傷、切り傷、打ち身でまだら色に染まっている。中には出血しているのもあって、寝間着に赤茶けた汚れがこびりついていた。


「ひっど」


にじむ痛みに顔をしかめてため息をついた。まるで寝たままかどわかされて、その辺に捨てられたような惨めさだ。恐慌状態に陥らないのはひとえに隣で赤々と燃える炎のおかげだった。

真っ赤に燃える火は、安全の印だと無意識で理解していたのだ。この炎が届く場所には悪いことは起こらない。なにもかもを燃やし尽くすこの力だけが、リナが信じられるすべてだった。


「ひっ……」


なにもかもが理解の範疇を越えている。袖口のひよこがむざんに引き裂かれているのを見つけて、どうしようもない感情が胸にこみ上げてきた。

おかしなことに涙腺が叩き壊されたみたいに動かなくて、嗚咽だけがこだましていく。


「******、************」


薄汚れた足を引き寄せて、三角座りで体を縮めた。どう考えても悲壮な結論にたどり着いてしまうのだ。それならばいっそ、現実から目を背けて内に籠もってもいいではないか。


「******!」


寒さのせいか、体がぐらぐら揺れる。頭を打ったのかもしれない。肩が重くて気分が悪い。たき火に当たっている部分は痛いくらい熱いのだが、それ以外は凍り付くほどの寒さだ。

何度目か数えることも忘れてしまったため息をついて、膝の上に額を押しつけた。もういやだ、消えてしまいたい。


「****!」

「あああっ!」


ばしん、背中がぐらぐらするくらい強くたたかれて、思わず声が漏れた。


「痛!」

「******、************」


顔を上げると、岩を刻み込んだみたいな険しい顔がのぞき込んでいた。息を飲むのも、逃げるのも忘れてじっと見入ってしまう。性別も分からないほどに表情の失せたその顔には、おかしなことに危害を加えてやろうといった意志は感じられなかった。


「******」


ため息よりもこもった音がその口から洩れていたが、リナにはそれがなにを意味するのかさっぱり分からない。言葉なのか、それともなにかの合図なのか。

平和だった日常が片端からこぼれ落ちていくような、恐ろしい予感を覚えながら、リナは再び気を失った。



いったんリナ視点は終了。ううう、なんかいろいろ漏れてる気がします。

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