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87 体調不良。




前回間違えて同じ話を更新してしまいました!

申し訳ありません!!!

教えてくださった方々ありがとうございます!

以後気をつけます!







 翌日、ジャンヌ達と別れを告げて、ギデオン子爵の屋敷を出発した。

 馬車に揺られながら、ルアンはぼんやりと窓を見つめる。

 それはもうぐったりとした様子。


「ルアンさん、大丈夫ですか?」


 同乗しているピアースが、心配そうに問う。


「今日は平熱よりちょっと高かったです……」

「ちょっとなら大丈夫じゃないですか?」


 クアロはルアンの前髪を退かして額に触れる。


「ちょっと熱っぽいけど……」

「大丈夫。寝てれば平気」


 そうルアンがクアロの手を退かした。

 男の子の姿のルアンは、凭れたまま眠る。

 そんな姿をピアースは、やはり心配なまなこで見つめた。


 その夜は馬車を停めて、野宿をする。

 馬車の中でルアンが眠っているそのそばで、口論が行われていた。


「図に乗るなよ! もう風のギアで浮けるぐらいで!」

「歳下のくせに、態度が悪いなてめぇら!」

「歳上だからって何よ! 城勤めの兵士さんだからって特別扱いはしない! あんたらは新人で私達は先輩! 先輩を敬いなさい!」


 シヤンとアレンとクアロの声。

 ルアンは目を覚まして、起き上がる。


「先輩の前に歳下だろうがてめぇら! 歳上を敬え! ついでに城勤めも敬え!」


 アレンの声。

 ルアンは重たそうに腰を上げて、ドアを開いた。


「煩い。何?」


 ルアンを見るなり、ピタリと口論が止んだ。


「る、ルアン様……こいつらが生意気なんですよ」


 男装状態のルアンにまだ戸惑ってしまうアレンは、一応言い付けた。


「言ってやってよルアン! 私達を先輩として敬えって!」

「そうだ言ってやれ! ルアン!!」


 クアロとシヤンが、怒り心頭な様子で言い付ける。

 スペンサーとピアースはどうしたらいいかわからず、双方を困ったように見ていた。サムとデクは一応アレン側についている。

 クアロ達は、王都育ちで元城勤めのエリートであるアレン達に対抗意識を持っているのだ。

 逆にアレンも、先輩面をするクアロ達に対抗意識を燃やしている。

 その衝突だ。


「どーぉ……っでもいいんだけど」


 ルアンは、はっきりと言い放つ。

 双方の対抗意識など、微塵も興味ない。

 その物言いように、ショックを受けるクアロとシヤンとアレン。


「力で決めたら? 実力重視のガリアンなんだから、上下関係なんて力で物を言わせればいいじゃん」


 足を組んでルアンは、冷めた眼差しを向ける。

 つまり、強者になってしまえばいい。

 バチバチと、クアロ達は睨み合った。

 戦いの火蓋が切って落とされる。

 と思いきや。


「レアン様がお眠りになられる。戦いはまた明日にでもやってくれ」


 ゼアスチャンが来て、止めた。

 ガリアンのボスを怒らせてはいけないことくらい、アレンもわかって引き下がる。


「いや、エンプレオスの街に到着してからにして」


 ルアンは額を押さえて俯いた。


「ルアンさん! 頭痛がするのですかっ?」


 いち早く気遣ってピアースは駆け寄る。


「いえ、寝すぎたせいか頭が重くて……だるい」

「熱を計りましょう」


 すぐさま水銀の体温計を用意して、ルアンに渡す。

 ゼアスチャンもメイドウも近寄って、ルアンの様子を伺った。


「大丈夫ですか? ルアン様」

「だぁるい」

「城を発って、気が緩んだのでしょう。ずっと張り詰めていた緊張もほどけて、蓄積された疲れがきたのかもしれません。ルアン様」

「とにかくだぁるい」


 足を組んだままルアンは、重たい息をつく。


「まぁ、国王陛下への献上も城への滞在も、とんでもない緊張を伴ったでしょうね。それに殿下を守りましたし……そのうち、殿下を守った功績が讃えられるでしょう」


 アレンの言葉に、クアロとシヤンは首を傾げた。

 ルアンは、一体いつ緊張とやらをしたのだろう。

 猫被りをしていた疲れならわかる。猫を被り続けた城の滞在中、読書を貪っていただけのように思えた。


「ルアーさん、繊細ッスから」

「まぁそうねー……繊細なのよねぇ」


 スペンサーの呟きに、クアロは頷く。

 限界まで強がって、脆く崩れていってしまう。

 強くとも、とても繊細なルアン。

 クアロは、気を張っていたに違いないと思い直す。

 例え図書室に目を輝かせて入り浸り本にかじりついていても、気を張っていたに違いない。例え高級なバスタブで泡風呂に浸かりキングサイズのベッドでぐっすり眠っていても、気を張っていたに違いない。例え王子のことを意図的にたぶらかしていても、気を張っていたに違いない。


「……繊細なのよね」


 クアロは自分に言い聞かせるように、もう一度頷く。


「熱が今朝より少し上がりましたね……」

「とりあえず安静にしていてください。ルアン様。一日の辛抱をすれば、グリームの街に到着いたしますのでそこで治療いたしましょう」

「ただの微熱。治療というほどのことでじゃない」


 熱を確認したピアースが、顔を曇らせる。

 ゼアスチャンもルアンに優しく言うも、本人は大したことないと返す。


「そう言わずにルアン」


 クアロが言いかけると、ルアンの前でしゃがんでいたピアースが立ち上がった。


「だめです! ルアンさんは身体が弱いとのことですから! 絶対に安静です! 次の街で、熱が下がるまで安静にしていただきます!」

「ピアースさん、言うようになりましたね」

「はっ! すみません!」


 反論は許さないと言わんばかりのピアースに、ルアンはニヤリと笑って見上げる。我に返って、ピアースは赤面してしまう。小心なピアースだが、譲れないところを示す。

 成長したものだと、クアロもルアンも感心した。


「……ん」


 ルアンはサムと目を合わせると、指で招く。

 サムは自分を招いていると確認するように自分を指差す。

 ルアンが頷きを見せたため、サムは近くまで寄って傅いた。


「なんでしょうか、ルアン様」

「サム・ネッガさん」

「サムでいいです」

「サムさん。アレンさんやデクさんと違って、私が引き抜いた人。正直に答えてくさい。今の心情は?」


 可愛らしく首を傾げて、ルアンは問う。


「自分の心情、ですか」

「ええ。城勤めの兵士人生をまったり送ろうとしていたんですよね?」

「!」


 サムは目を見開く。

 まったりと送ろうとしていたことを何故知っているのか。

 始まった、とクアロ達は苦笑を浮かべる。


「……確かに自分は、兵士人生をまったり送ろうと思っていました……」

「特に野望を持つこともなく、上を目指すこともなく、現状に満足して維持を保とうとしていた。そうですよね?」

「……は、い……」


 サムは、少し顔色を悪くした。

 ルアンの翡翠の瞳に、何もかも見透かされている。そう感じた。

 楽しげな笑みを浮かべたルアンの異質を、感じてしょうがない。


「そんなサムさんが、ガリアンに一ヶ月いなくちゃいけなくなった現状の心情をどうぞ教えてください?」

「……」

「当てましょうか? まず、“面倒くさい”」


 ルアンは人差し指を立てて笑った。

 サムは注目されている感じていたが、それどころではなかった。

 ルアンの瞳だけが、気になってしょうがない。


「いえ、正しくは“この上なく面倒くさい”ですかね。そしてあたなはこれから一ヶ月、目立たず息を潜めるように過ごすつもりですよね? サムさん」

「っ」

「でも、そう穏便に過ごせるでしょうか? サムさん。城勤めよりも、ガリアンは案外楽しめるかもしれませんよ? サ・ム・さん」

「……」


 サムは顔が引きつらないように、しかめっ面になった。

 穏便に過ごすことをルアンが許しそうにもない。

 もうすでにルアンの玩具ものなのだ。

 目を付けられたサムを、心から同情するクアロとシヤン。


「ガリアン、気に入ってくれたら嬉しいです」


 そう無邪気ぶって、ルアンは笑った。


「おーい、未来男。10年後……じゃなくて9年後はいるのか? このエリートさんトリオはよぉ」


 シヤンが振り返って、自称未来から来たというスペンサーに問う。

 スペンサーは頭の後ろに腕を組んで、素知らぬ顔をした。


「シヤンさんは未来信じてないんでしょー? 教えませーん」

「は? 教えないんじゃなくって、教えられないだけじゃねーの?」

「違います! オレちゃんと未来知ってますから!」

「はい、未来男の戯れ言はおしまい」


 パンと手を叩いて、ルアンは黙らせる。


「……雨、降りそうね」


 空を見上げてルアンが、独り言のように呟く。

 どんよりとした曇天の空。


「降らないといいわね」


 クアロも見上げて、眉間にシワを寄せた。

 ルアンはスンと匂いを嗅いだ。


「雨の匂い。これはまた土砂降りがきそう」


 そんなルアンの言葉は、翌日的中した。

 前方もまともに見えない土砂降り。

 御者をしていたゼアスチャンは、前を走っていたレアン達の馬車を見失ってしまうほどだ。

 そこでガッタン! と大きく馬車が揺れたかと思えば、傾いた。

 馬車の中にいたルアン、メイドウ、クアロ、ピアースは座席から落ちそうになる。無防備だったルアンを支えて、クアロは何事かと外を見た。しかし土砂降りで確認出来ない。

 そこで、ルアンが風のギアを発動させた。

 上空に風を巻き起こして、雨を避ける。


「申し訳ありません。ルアン様。馬車の車輪が壊れてしまいました」


 周辺に雨が降らなくなったところで、レインコートを着たゼアスチャンが顔を出した。

 馬に乗ってついてきていたアレン達はあんぐりと口を開けて、雨を弾く風を見上げる。膨大な光を所有している故に、維持が可能なのだ。

 幼いルアンの力を目の当たりにして、畏怖の念を抱いた。

 

「しょうがない。今日はここで野宿をしましょう」


 ルアンの言葉を聞いて、馬から降りた一同はレインコートを脱いだ。


「サムさんはボスの馬車を追って、知らせてきてくれませんか? あと馬車の車輪を調達してください」

「はい。了解しました」


 目を合わせたサムに、ルアンは頼んだ。

 レインコートを着直して馬に乗ったサムは、雨の中に戻って進んだ。

 他の者は、野宿の準備を始める。雨よけを作り、その下に一同が集まったところで、ルアンは風の紋様を振り払って風を消した。

 ザァァアッ。

 雨音が強く聞こえてくる。

 ルアンはそれに耳を傾けながら、熱っぽい息を吐き出した。



 

20190113

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