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86/94

85 賞品。




 本屋を見付けて、かれこれ二時間。


「ルアン。いつまで入り浸っているつもり?」


 クアロは退屈していたが、ルアンは真逆で楽しんでいた。

 いつまでも本の背表紙を眺めて居られる。

 山積みにされた新刊を見て居られるのだ。


「もう少し」

「それ何度目。お金は少ししか持ってきてないわよ。全部は買えないわ」

「わかってる」


 ルアンが本を目を輝かせて見ている。

 クアロはため息を吐きつつも、付き合った。

 やがて一冊の本を選び、購入。

 ルアンはウキウキしながら、その本を抱えて城に戻った。

 そして、まだ居たピアースを見て、不機嫌な顔に早変わり。

 ピアースは、びくりと肩を震え上がらせた。それでも言う。


「お願いします。ルアンさん達の元に居させてください」


 チェアから立ち上がって、深々と頭を下げて頼み込んだ。


「ルアンさんの元で働きたいんです。これからもずっと! 十年後だって居させてほしいんです!」

「……」


 腕を組んでルアンは、ピアースを見つめた。


「医者の資格は自分で貯めて必ず取ります。必ず医者になって、それからもガリアンで働いていたいのです。お願いします」

「わかりました」

「えっ?」

「あなたの意思はわかりましたと言ったのです」


 素っ頓狂な声を出したピアースは顔を上げる。

 ルアンはただそれだけを告げた。


「それから、さっきは怒鳴ってすみませんでした」

「い、いえっ! 謝らないでください……」


 ブンブン、とピアースは顔を左右に振る。


「ルアン様。稽古の時間だそうです」


 先に帰っていたゼアスチャンが、ルアンに耳打ちして知らせた。


「騎士達の稽古です。ピアースさんも行きましょう」

「え、あ、はいっ!」

「今日は手合わせをお願いするから。クアロ、シヤンに言っておいて」

「ついに手合わせね!」


 クアロは喜んで飛び出して、別の部屋を借りているシヤンの元に向かう。


「あ、あの、僕も行くとなると……僕も手合わせするのですか?」

「いいえ。ただ見ているだけでいいです」

「はい、わかりました」


 コクン、とピアースは頷いて見せた。

 そんなピアースの手を引いて、騎士達の稽古場に向かう。


「る、ルアンさん? なんで、手を……?」


 ピアースは赤面する。


「繋いでいてください」

「は、はい」


 ルアンに断ることが出来ず、ピアースはそのまま手を引かれた。

 もう片方の手は、クアロの手を掴んでいる。

 黒いコートを着ている二人の手を引く少女は、稽古場で注目を浴びた。

 王子を守り抜いた少女として、知り渡っているのだ。

 そのまま、用意されていたチェアに座る。


「こんにちは、ルアンお嬢様」

「こんにちは、フレデリック様。今日は手合わせをお願いしたいのですが、ご都合はよろしいでしょうか?」

「! ええ、もちろんです。用意いたします」


 近衛騎士隊長のフレデリックが話しかけてきた。

 ルアンは猫を被って、にこやかに対応をする。


「フレデリック様。私、あの方が欲しいです」

「えっ?」


 ルアンが扇子で指すのは、先日に目を付けた藍色の髪の兵士の少年。


「欲しい、とは……?」


 フレデリックは、口元を引きつらせつつ問う。

 その場は、静まり返った。

 扇子で指される少年は、ポカンと立ち尽くす。


「剣術に長ける人材をガリアンに引き抜きたいのです。だめですか?」

「剣術に長ける者……ですか」


 フレデリックが、少年を横目で見る。

 ルアンの言う剣術に長ける者だとは思えないという反応だ。


「代わりに、そちらが勝ったらこちらのギア使いをどうでしょうか。ピアースさん」

「は、はい!」


 そこでルアンが、ピアースを呼んだ。

 反射的に返事をするピアース。


「彼は医者を志しています。しかし、器用なギアを使いますよ」

「!?」


 ピアースは動揺する。

 丁重に差し出されたのだ。


「もちろん、本人の意思を尊重しましょう。勝ったら、試しに一ヶ月過ごすのはどうでしょう。それから残るか戻るかは本人次第。どうですか?」


 ルアンは愛らしい笑顔で小首を傾げた。


「どう……と問われましても……」

「だめ、ですか?」

「……」


 上目遣いをするルアン。

 ルアンを異質と感じているフレデリックの顔色は悪くなる。


「本人に確認して参ります」


 一礼をして、藍色の髪の少年の元に行く。


「る、ルアンさんっ」

「あら、私達を信じられませんか?」


 パッと扇子を開いたルアンは口元を隠して、泣きつくような声を出すピアースを横目で見上げた。

 ルアンは勝利を確信している目をしている。

 ピアースにとって、負けたとしてもギアを教えながら医者の資格を取れるだろう。しかし負けるつもりは、さらさらないのだ。


「し、信じます」

「よろしい。シヤンさん、行けますか?」

「うっ、うっし! 任せろ!」


 ルアンにさん付けされて身震いするが、シヤンはやる気十分。

 ニッと勝気な笑みをピアースに向けた。


「ルアン、短剣持って来ていいよな」

「当然です」

「じゃあ、ぜってぇ負けねえ」

「なくても勝ちなさい」


 また無理難題を言うルアン。クアロ達は苦笑を溢す。

 そこで、フレデリックが藍色の少年を連れて戻ってきた。

 ルアンは、パンと扇子を閉じる。


「こんにちは、サム・ネッガさん」


 名前はゼアスチャンが、すでに調べていた。

 サムは目を見開いたが、頭を下げて一礼する。


「こんにちは、ダーレオク家のお嬢様」

「ルアンでいいですよ。申し訳ないのですが、勝負の賞品になってください。あなたが欲しいのです」

  

 柔和な笑みでルアンは、はっきりと告げた。

 直球すぎる告白に、聞こえていた周囲はどよめく。

 欲しがられているサムは、困惑で一杯の表情になる。


「僭越ながら、自分などをどうして欲しがるのでしょうか?」

「あなたの剣術が欲しいのです、ぜひガリアンに」

「はぁ……自分ごときの剣術ですか……」


 サムは納得いかない顔をした。


「承諾してくださいませんか?」

「……」


 ルアンの問いかけにサムは一度、近衛騎士隊長のフレデリックに目をやる。

 フレデリックは軽く頷いて見せた。


「わかりました。承諾いたします」

「嬉しいです、ありがとうございます」


 パッと花が咲くような笑みになるルアン。

 扇子をまた開いて、ほくそ笑みを隠した。

 ようやく武器を持って戻ってきたシヤンと、フレデリックが選んだ騎士が対峙する。


「そちらの武器は……短剣で構わないのですか?」

「ええ、あの短剣で戦わせていただきます。問題ありますか?」


 フレデリックの問いに、ルアンは無邪気に首を傾げて見せた。

 剣とリーチがある。そのことを言おうとしたが、フレデリックは口を閉じた。

 シヤンが負けた時の理由にとっておいてやろうと思ったのだ。

 もちろん紋様を描く暇を与えることもない。

 手慣れたシヤンは、クルリと短剣を回した。

 闘争心に燃えたブラウンの瞳で、相手の騎士を睨む。

 シヤンより一つか二つ歳上の若者。名をホージ。こちらも静かではあるが、闘志を燃やしていた。

 ペロリ、とシヤンは自分の唇を舐める。


「始め!!」


 フレデリックが、開始を告げた。

 先に動いたのは、シヤン。ホージの間合いに詰めようとした。

 そんなことを許すつもりはない。ホージは切ろうとした。

 光が放たれる。短剣の紋様に光を注ぎ、ギアを発動させた。


「!?」


 ホージは放たれた光を咄嗟の判断で切る。

 しかし、光の斬撃と相殺。ホージは反動で倒れた。


「おいおい、これくらいで倒れるなよ。シラける。かかってこいよ、エリートさん」


 周囲の動揺と驚きなど気に留めず、シヤンは短剣をクイクイッと上げて見せ付ける。挑発だ。


「っ!」


 ホージは立ち上がり、すぐに向かった。


「い、今のは!?」

「光封じの手錠と同じです。武器に紋様を刻み、光を注いで発動させているだけですよ。えっと……そう、応用です」


 なんでもない風にルアンは、驚愕しているフレデリックに答える。

 そんなことが出来るなんて、聞いていない。

 フレデリックが睨むようにルアンを見たが、ルアンは気付いていないふりをして、傍観を続けた。


「おりゃあ!!」


 光の斬撃が、再び放たれる。

 ホージはギリギリで躱した。

 そんなホージに、シヤンは短剣を振り落とす。

 ホージの剣は、床に落ちた。

 丸腰になった彼の身に、短剣の柄を叩き付けて、シヤンは沈めた。

 ホージは戦闘不能となる。シヤンの勝ちだ。


「お見事」


 そこに響き渡る拍手。ルアンでもフレデリックのものでもない。

 ロニエルとアメティスタを引き連れたアルジェンルド殿下だ。

 騎士も兵士も、すぐさま身を低くし頭を下げる。


「殿下」


 フレデリックも例外ではない。

 ガリアンのメンバーもそれに習うように、頭を下げた。

 用意されたチェアに座っていたルアンも、立ち上がると会釈をする。


「アルジェンルド殿下……」


 動揺をしているように視線を泳がす。

 こんな風に再会するとは思っていなかった。と装った。


「顔を上げていい」


 にこっとアルジェンルドは、ルアンに笑いかける。


「拝見してもいいだろうか?」

「おっ、えっと、はい。殿下」


 次にシヤンへ歩み寄った。

 戸惑うシヤンは、ルアンに視線を送る。ルアンの頷きを見て、両手で短剣を差し出した。

 アメティスタがそれを手に取ってから、アルジェンルドに見せる。


「まだ、試作段階です。殿下」

「試作、か。これからも革命的なことを起こしてくれるのだろうか? ルアン」

「なんの話でしょうか? 子どもなのでわかりません」


 ルアンはにっこりとはぐらかした。

 アルジェンルドはおかしそうに「ふふふ」と笑う。

 くるり、アメティスタがもう十分と判断し、短剣の刃を持ってシヤンに差し出す。深く帽子を被っていて顔が見えないアメティスタから、シヤンは短剣を受け取る。


「急に邪魔してすまなかったね。これで失礼するよ。またね、ルアン」

「お会いできて嬉しかったです、殿下」


 ルアンは猫を被って見せて、お辞儀をした。

 猫被りに触れることなく、アルジェンルドは側近の二人を連れて去る。


「……では約束通り、サム・ネッガさんはガリアンがいただきますね」


 予想外の人物が割って入ってきたが、ルアンが気を取り直したように微笑んだ。

 フレデリックは笑みを引きつらせながら、後退りした。


「これからよろしくお願いします、サム・ネッガさん」

「……はい。お世話になります、ルアン様」


 呆気に取られていたサムも、ルアンに笑いかけられて、おずっと頭を下げる。

 

「始めに言ったように、本人の意思を尊重しましょう。試しに一ヶ月、私達ガリアンの元で働いてもらい、その後は好きなようにしてください。戻るもよし、残るもよし。それでいいですよね? フレデリック様」

「……え、ええ。もちろんですよ。ルアン様」


 フレデリックは引きつりを抑えて、笑みで答えた。

 そして釘をさすような視線を、サムに向ける。

 ガリアンでギアを学んだあと、こちらに戻ることを望んでいるのだ。

 ガリアンでギアを鍛えられた者を欲している。その意図を理解して、サムは俯く。

 なんとも面倒な立場になってしまった、と。

 ルアンは無表情を保つサムの心情を嘲笑うような笑みを、扇子で隠しながら心の中で告げる。


 ーー逃がさない。



 




お久しぶりです!

寒くなると書きたくなる作品……不思議です!

100話まで長いっ……!

次回から帰宅編となります(`^´ゝラジャー

あとタイトル微妙に変えました!

20181214

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