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82 刺客者。



二話連続更新!







 ルアンとアルジェンルドは、風のギアで風のクッションを作り、無事着地していた。

 目が慣れれば、黒い海岸だ。


「すごいね。ルアン嬢。ギアをこんな風に使うなんて」

「……ルアンでいいですよ。この前もルアンと呼んでくれたではありませんか」

「ああそうだったね、忘れていたよ」


 アルジェンルドが軽く笑った。

 そんなアルジェンルドを見つめて、ルアンは問う。


「……驚かないのですね」

「いや十分驚いているよ。君がギアを使えるとは聞いていたけれど、掌に貼り付けていたね」

「そうではなく、襲撃です。あなたを狙って発砲されたことに、それほど驚いてはいない様子ですね」

「ああ、そっちか」


 ルアンの掌には、風の紋様が光として宿っていた。

 アルジェンルドは、首を摩る。


「知っていたのですか? 刺客が迫っていること」

「……すごいね。ルアン」


 言い当てられたことに、アルジェンルドは目を見開く。しかし、笑みは絶やさなかった。


「だから浮かない顔をしていたのですね。だめじゃないですか。それならそうと、護衛から少しでも離れてはいけません」


 ルアンが、人差し指を立てて言う。


「厳しいなぁ……」


 あはは、と笑い退けてから、アルジェンルドは「でも」と付け加えた。


「ルアンがついているなら、心配はないだろう?」

「……お守りいたします、殿下」


 微笑んだルアンが、胸に手を当てて頭を下げる。


「ありがとう、ルアン。それじゃこれからどうしようか? 上から君の仲間が降ってくるんじゃないのかい?」

「それはないと思います。風のギアで飛ぶ術を持っていますが、それで下りてきては私達に怪我を負わせてしまいかねませんので。別ルートから迎えに来てくれるでしょう。他にも刺客者がいる可能性も踏まえて、合流を急ぎましょう」

「そうか、わかったよ。行こうか」


 アルジェンルドは手を差し出すが、ルアンはその手を取る前に手袋を外した。その手袋を、腰に挟んだ。


「手を繋ぎたいのは山々ですが、ギアを使うために手は空けておきたいのです」

「それは失礼。ではレディーファースト。足元には気を付けて」

「はい、殿下」


 ルアンが先を進んで、あとをアルジェンルドがついていく。

 城の後ろに位置する場所は、ただの黒い海岸だった。ゴツゴツとした黒い岩礁には他に何もなかったが、やがてアルジェンルドは「お腹が空いたな」と漏らす。


「そうですね。夕食時ですから」


 ルアンも同意する。夕食の時間だが、まだ食べていない。


「じゃあおいで」

「?」


 ルアンをアルジェンルドは呼ぶ。

 何かと首を傾げながら、ルアンが近付けばアルジェンルドは口に何かを押し込んだ。


「ん!」

「これ。オレの好物」

「……甘酸っぱいです」

「それがいいんだよ」


 アルジェンルドが、笑って見せた。

 口を押さえるルアンは、ラズベリーのようなチェリーのような木の実を咀嚼をして飲み込んだ。


「ルベリっていう木の実だ」

「美味しいです」

「もう一ついるかい?」

「あーん」


 果物好きのルアンは気に入った。だから口を開いて、受け入れる。

 アルジェンルドは微笑ましく見て、口の中にルベリを入れてやった。

 子どもらしくて、可愛い。年相応だと、そう思ったのだった。


「さて先に進もう」

「ええ、殿下」


 またゴツゴツした海岸を進んでいけば、坂道を見付ける。

 そこを登って、城の周囲の木々の中に入った。

 すると、物音が聞こえる。そして光も見えた。

 アルジェンルドとルアンは、顔を合わせる。

 すぐに駆け付けた。

 そこは戦場だ。

 二人の若い兵士と複数の黒い衣服で顔を隠していた刺客者が戦っていた。

 しかし、一人の兵士が水の中に閉じ込められている。

 ルアンはすぐに叩くように風のギアで水を取り除いた。

 アルジェンルドが倒れた兵士に駆け寄るが。


「だめだ、息をしていないっ……」


 呼吸を確認してしかめて、ルアンを見た。

 だが、ルアンは。

 ダン!

 小さな拳を、その兵士の胸に叩き付けた。


「ゴホッ!! ゲホ!! っ!?」


 兵士は飛び起きて、混乱する。

 アルジェンルドは驚いたあと、兵士からルアンの背中を見た。

 ルアンは右手で雷のギアを描き、左手で木のギアを同時に描く。

 稲妻のような紋様と、逆さの三つ葉の紋様。


「死んでいるところ悪いですが、まだ命懸けで戦ってもらいますよ」


 ルアンはニヒルな笑みを浮かべる。

 好戦的な眼差しで、刺客者達を見据えた。

 雷のギアで水のギアを使っていた刺客を貫く。


「殿下はその兵士と後ろにいてください。私はこの兵士と前線で戦います」

「無茶はするな、ルアン!」

「はい、殿下。必ずお守りいたします」


 ルアンが同時に二つもギアを使っているため、アルジェンルドは光の消耗を気にしている。

 だがルアンには、父親譲りの膨大な光があるのだ。

 しかし、心配しているのはそれだけではない。前線で戦うことを危惧しているのだ。

 黒い衣服のせいで刺客の数はわからないが、多い。

 次から次へと光が灯る。その数だけ敵がいるのだ。

 ルアンはギアの紋様が完成する前に、木々の蔦を操って、掻き消した。

 長身の兵士は、剣を振って切り捨てる。


「その調子です」

「……はい」


 ルアンは長身の兵士を褒めた。


「私がギアを封じます。倒していってください」

「はい」

「お、オレも! 戦います!」


 後ろでアルジェンルドの肩を借りて立ち上がった兵士が言う。


「あなたはアルジェンルド殿下を守る仕事があります」

「っ」


 ルアンと長身の兵士に守ってもらっている状態だ。

 足手まといにはなれないと、若い兵士は自分の足で立つ。

 ルアンは、顔だけ振り返る。


「自分の足で立てたのなら、剣を握ってください。あなたがアルジェンルド殿下を守るのです」

「……」


 ニッと笑って見せた。

 若い兵士はポカンとするが、やがて。


「前!」


 と叫ぶ。

 長身の兵士の隙を突いて、ナイフを持った刺客が、ルアンに襲い掛かった。

 しかし、ルアンの操る蔦の方が早い。刺客の手に、絡み付けて動きを封じた。そして、雷のギアで貫く。


「こっちは任せてください」


 そのルアンの背中は、頼もしかった。

 薔薇の花束のような純白のドレスを着ていても、そう感じてしまう。

 それはアルジェンルドもだった。

 両手でギアを操るルアンが、美しく見える。

 勇ましくもあり、華麗でもあるのだ。


「殿下!! ルアンちゃん!」

「ルアン!!」


 そこに駆け付けたのは、ロニエルとクアロだ。

 ロニエルは二人の刺客を切りつけると、素早くアルジェンルドの目の前に滑り込んだ。

 クアロもその切り開いた道を進み、ルアンの前に辿り着く。


「無事!? そうね!」

「クアロお兄ちゃん。銃は?」

「知っての通り、持ってない!」


 クアロは武装の許可をもらっていない。


「けれども!」


 刺客から炎のギアが放たれたが、クアロは十字を円で囲った。

 一時的に吸収して、返す防のギア。デフェスペクル。


「負けないわ!」


 一点に放つタイプAの炎を返した。


「ルアン様!」

「ルアン!!」


 遅れて駆け付けたのは、ゼアスチャンとシヤン。


「挟み込んで誰一人として逃さないで!」

「了解しました」

「よっしゃ!!」


 ルアンの指示に、ゼアスチャンもシヤンも応えた。

 刺客は、ルアン達とゼアスチャン達に挟まれる。

 シヤンは、八の字に円を囲った紋様を光で描いた。退路を作ろうとした刺客を、光の矢で倒す。無のギアだ。

 ゼアスチャンは、三日月型に円を描いて、水を出す。鞭のよう操り、刺客達の足を崩した。水のギアだ。

 ゼアスチャン達に気を取られている隙だらけの刺客達を、ルアンは木のギアで蔦を操り、足を取って逆さ吊りにした。

 騎士達が駆け付ける前に、片はつく。


「……」


 ルアンが視線に気が付き、アルジェンルドを振り返った。

 騎士に安否を気遣われているアルジェンルドは、軽く手を振る。

 ルアンは、ただにっこりと笑って見せた。

 無邪気そうな笑みに、アルジェンルドは笑みを返す。

 どこか眩しそうな笑みだった。



 

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