74 山賊の頭と転生少女。
ハローハローハロー
お久しぶりです!
ギリギリセーフで更新です!
お城に行きましょう!!
20171231
この先の道に、西から来た山賊が住み着いている。これから山賊の討伐に向かうことになったルアン一行。
クアロ達は、準備をしながらルアンの話に耳を傾けた。これはルアンが待ち望んだ実践。気を引き締める。
「先頭はスペンサー、シヤン、クアロ。先にギアで仕掛けられたらクアロが防げ」
「りょーかい」
「次にゼアスチャン。私。ピアース。でおまけ二人の順だ」
デイモンの部下もついてくる。同じく引き締めた顔をする彼らの名前は、スチュとアーロ。二十代後半の男だ。
「クアロ達より場数は踏んでいるだろうけれど、命を落とす危険もある。戦えるのか?」
ルアンは鋭い眼差しで問い詰める。
「当然です」と元気のいい返事を返した。
「ピアースさんの方は私とおまけ二人でカバーをします。自分の身を守り、怪我人が出た時はすぐ対応が出来るようにしてください」
「は、はいっ!」
ピアースは震えながらも、息を飲み込んだ。頼もしい背中に守られるのだと言い聞かせながら、自分も頑張るのだと拳を固めた。
「戦闘不能にして拘束しろ。山賊狩り始めるぞ!」
「おう!!!」
ニヤリと好戦的な笑みになるルアンに、賛同の返事をするクアロ達。
クアロもまた血の気が多いのだと自覚する。鍛え上げた力を発揮して、ルアンに認めてもらう絶好の機会だ。それはシヤンも同じ。目を合わせて、頷き合った。
ルアンを見てみれば、靴紐をゼアスチャンにきつく結ばせている。ルアン曰く結びたいとゼアスチャンが望んでいるからだ。
クアロにはわからなかった。ルアンの言うゼアスチャンと、クアロが目にするゼアスチャンは一致しない。クアロにとっては冷静冷徹の出来る男。ルアンにとってはこき使われたいマゾ男。
そう思う言動を、クアロは目にしたことがない。ルアンの鋭い洞察力を疑っているわけではないが、信じられないままでいる。
「ゼアスチャンさん。私の指示が聞き逃さないようにしてくださいね」
ルアンがゼアスチャンの顎を人差し指で上げさせた。
子どもらしかぬ仕草。今ではすっかりルアンらしいとクアロは思う。
「……一語一句、聞き逃しません。ルアン様」
ゼアスチャンは甲斐甲斐しく頭を垂れる。その姿はどう見ても従順で誠実だとしか、クアロは思えなかった。しかし、ルアンのまなこには別のものに映っているのだろう。
見えてるものはきっと違うのだと、クアロはしみじみとルアンの横顔を眺めた。
不意にルアンの目がクアロに向けられる。
「マゾなんだって」
「何も言ってないわよ」
ギクリとしながら、言葉を返す。ルアンには考えが見抜かれている。話題の本人は、ただ沈黙をするだけだった。
ブーツの紐が結ばれると、ルアンは指先から光を出す。宙に風の紋様を描くと、それを掌に貼り付けた。風のギアのスタンプ。これでいつでも風を生み出せる。準備は万端。
封鎖されていた道を進む。
森は鬱蒼としていたが、道は開けていた。
「撃ってくださいって言っているようなものよね」
鬱蒼とした森の中から、こちらは丸見え。集中砲火の的であると、クアロは独り言のように漏らす。
「撃ってもらうか?」
ルアンがニヤリと意地悪を言う。集中砲火をしてください、と誰が頼むものか。それを防げと無茶振りを言いたいのだろうが、クアロは聞かないとそっぽを向く。
「人の気配しねーけど。ほんとにいんのか? 山賊だか盗賊だか」
シヤンは周囲を睨みながら、誰かに問う。
それに答えるのはスペンサー。
「あ! 人影!」
人影を見つけたスペンサーの声に、一同が反応した。
途端に放たれる矢。十を超える矢が降り注ごうとした。防いだのは、ルアン。貼り付けて用意していた風のギアで風を起こして、払い除けた。
鬼畜なことを強いるルアンだが、こうして助けてくれる。クアロはちょっぴり笑った。
すぐに切り替えて前を見据える。次に仕掛けられたのは、ギアの攻撃。一点に放つタイプAの炎のギアが襲いかかる。シヤンとスペンサーは左右に飛んで避けた。
真っ直ぐに向かう渦巻く炎を、クアロは銃のギアで防いだ。
「自警組織ガリアンだ! 賊ども! お前達を捕まえに来た! 投降するなら今だぞ、力尽くで捕まえてやる!」
ルアンが声を張り上げて告げた。
しかし投降など望んでいないだろう。ギアの武器を実戦で使う絶好の機会。逃しはしない。例え投降しても挑発して勝負にもっていきかねないだろう。そんな予想も出来るが、なんだかんだで降参を認めそうだ。
「ガリアン? 確か、この国の最強の自警組織の名だな……」
茂みに身を潜めていた賊達が姿を現わす。人数はルアン一行の三倍。
クアロ達は緊張で強張った。
口を開いたのは、左分けの短い金髪をツンツンはねさせた男。露出した二の腕は、逞しすぎるほど太い。厚い胸板に割れた腹筋、見事な筋肉の大柄な男。八重歯を見せてニヤリと笑って見せた。
敵を前にしていなければ、その筋肉についたルアンを話していたところだった。ルアンなら「いい身体」と言っていたところだろう。そしてクアロは同感を頷いたはず。クアロはあまり隅々まで観察しないように、八重歯にだけ注目した。
「平和な国の森に盗賊がいるだけで、過剰反応すんじゃねーよ」
賊の頭らしき男は、右腕を振って仲間に指示をする。賊がもう一度炎のギアを放つ。シヤンとスペンサーは、クアロの後ろに素早く移動した。
クアロは再び、銃のギアで防いだ。
「妙な獲物を持っていやがるな……」
見たことなのない銃とギアの使い方に賊の頭は、顔を歪めた。
クアロは当然でしょ、と心の中で誇らしげに笑う。
ーールアンのとっておきの新しい武器なのだから。
シヤンはナイフを構えて、スペンサーが先に飛び込んだ。得意の接近戦を始めた。一人二人と確実に潰していく。
シヤンはナイフで敵の武器をいなし、蹴りや肘打って伸していった。
スペンサーも向けられる短剣を避けて、捩じ伏せていく。
後方のスチュとアーロも、敵と交戦を始めた。囲まれたが、こっちが優勢である。弓矢がまた放たれようとも、ルアンが払う。クアロの目には余裕だと思った。
しかし、賊の頭が黙ってみていなかった。ギアの紋様を地面に描くなり、地面が唸りを上げて抉り上がる。それは十メートルにも及んだ。驚きながらも各々避けて離れては、交戦する。
「へぇ! 面白いギア使うじゃん」
器用に抉れた地面の頂点に立つルアンが、ニヤリと笑う。そして、腰のナイフを取り出した。構える。賊の頭を見据えた。
頭と頭の戦いになる。クアロ達は何を優先すべきかを理解していた。決して、ルアンの戦いを邪魔させてはいけない。
捩じ伏せて倒して、道を作る。
ルアンは、真っ直ぐ賊の頭に向かった。
だがしかし、賊の頭は飛びかかったルアンを容赦なく殴る。
小さな身体は、飛ばされた。
クアロ達に、動揺が走る。
「ルアーさん!!」
けれども、ルアンは二本の足で減速して立ち上がった。左頬が赤く腫れ上がっている。
いくら強いルアンでも、大男の拳を食らっては大ダメージだろう。
「何してやがる! 集中しろ!!」
動揺を読み取ったルアンの怒号が、クアロ達に飛んだ。それに突き動かされるように、目の前の敵と向き合った。
「子どもに容赦ないじゃん」
「あ? ギアを使う子どもに油断出来るか」
ルアンがニヒルな笑みを向ける。
賊の頭も同じような笑みを返す。
「そうこなくっちゃな」
ルアンは楽しんでいた。
ヒリヒリする左頬の痛みなど無視をして、舌舐めずりをする。
そして、もう一度賊の頭に挑戦する。
振り上げられて蹴りをいなし、ナイフを振り上げた。
賊の頭は身体をずらして避ける。もう一度蹴りを喰らわそうとした頭の足を受け止めて、ルアンは宙に浮いた。そのまま横から蹴りを繰り出して、顔に当てる。
子どものものとは思えない蹴りに、賊の頭はよろけた。
「ちっ!」
舌打ちをして、ルアンから距離を取る。すぐさま、また地面にギアの紋様を描き、地面を震わせた。盛り上がる地面の頂点に立つルアンが、指示を飛ばす。
「ゼアス!! チャージ!!」
「! はい!」
クアロ達にはその指示がわからなかったが、ゼアスチャンは理解していた。
すぐに相手をしていた賊を捩じ伏せたゼアスチャンは、炎の紋様を描く。鳥の足のような形の紋様。タイプCの大火力。名をエールプティオーと言う。
爆発したような炎が放たれた先はーールアン。
しかし、その炎はルアンのナイフに吸い込まれて消えた。
「地面を抉るなんて面白いギアだけれど、こっちも負けてない。見せてやるよ。ーーデフェスペクル」
防のギア・デフェスペクル。
ルアンは盛り上がった地面を駆けて、再び向かう。
「ここはライオンの縄張り。勝手なことをするなよ、ハイエナ風情が!」
飛び込むルアンを返り討ちにしようとした賊の頭だったが、ルアンの振り下ろすナイフから炎を目撃した。振り下ろされた刃は、大爆発。
◇◆◆◆◇
ルアンのナイフには、防のギア・デフェスペクルが彫られていた。
それはべアルスが得意とする十字形の紋様のギア。
一時的に吸収して返すギアだ。
ゼアスチャンのギアを糧にして攻撃をする武器。
ーーそう。
ーー文字通りルアン様の糧となる!
ゼアスチャンはその響きに内心、嬉しさで悶えた。
ゼアスチャンのギアを、ルアンが使う。
ーールアン様の手となり、足となり、ギアとなる。
素晴らしい技に、歓喜する。
そして悪足掻きにナイフを突き付けてきた賊の腕を掴み、捩じ伏せた。
厄介なギアを使う賊の頭は、その一撃をまともに喰らって倒れた。
「な……何者だ……?」
「ルアン・ダーレオク。転生少女」
「はっ……?」
「敗北したアンタの名前は?」
ルアンが見下ろして問い返す。
「アッシュだ……はっ。平和なこの国にこんな強ぇ子どもがいるとはな。それに遭遇しちまったオレの運も悪いな」
「ライオンの縄張りに入ったのが運の尽きだ」
自嘲する賊の頭アッシュを、ルアンは鼻で笑い退けてやった。
違いねぇ、とアッシュは力尽きたように笑う。
賊達は全員倒し、拘束した。住処を聞き出して、金品を捜索する。
グリームの街に向かおうとした人々を襲った金品があった。それを回収。
そして、グリームの街に引き返す。
「まさか……本当に倒したのかよ、おい」
アーガスは信じられないと言った様子で、縄で拘束された山賊達と金品を見た。
「ルアン様ぁあああ! そのお顔はどうしたのですかぁあああ!? どいつにやられたのですか!?」
「メイドウ、煩い」
ルアンの赤く腫れ上がった頬を見て、涙を浮かべて騒ぐメイドウは一蹴。
「約束した通り、賊の貯えを半分もらいます。我々はこれから王都に向かいますので、あとは好きにしてください」
「好きにしろと言われてもな……」
アーガスが困った笑みを漏らす。
「街の住人として受け入れるのも一つの手でしょう。男手は多い方がいいでしょ?」
「!」
それを聞いて、アッシュは目を見開く。
「そこはアーガスさん達、街の住人が話し合って決めてください。それでは我々ガリアンは、失礼します」
「あ、ありがとう。心から礼を言わせてもらう。ルアンお嬢様」
「これからは道を通せんぼうしなくてもいいですよ。アーガスさん」
子どもらしかぬ不敵な笑みを浮かべるルアンと、アーガスはまた握手をした。
もう通せんぼうをする街になる必要はなくなったのだ。
「帰る時も様子を見に寄ります。じゃあまたね、アッシュ」
「……」
馬車に乗り込むルアンが、アッシュに手を振って見せる。アッシュは何も返さなかった。ただ過ぎていく馬車を見送る。
「いててっ」
馬車の中でルアンは水のギアで作った氷で、頬を冷やした。