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69 光の測定。




 出発から3日目。9月6日。

 馬車に揺られながら、ルアンは無の紋様を書いた。その紋様を掌に張り付かせて、ずっと光を灯している。


「何をしているのですか? ルアン様」


 少々目が疲れたメイドウが、訊ねた。


「光を量っているんです」


 隣のメイドウを見向きもせずに、窓を眺めているルアンの代わりに、向かいに座るピアースが答えた。

 木のバインダーと懐中時計を持つピアースが、計測中。


「前々から光の量の測定を試みているのですが……光の回復は著しく早くて使い切ることが出来ないので」


 ピアースは言葉を濁して、懐中時計に目を戻す。

「それならさぁ!」と外で聞いていたシヤンがドアを開けて入る。ルアンの持つ光を見て、すぐに眩しそうにしかめた顔を背けた。


「タイプAのギアじゃなくて、もっと強力なギアを使いまくればいいんじゃね!?」

「ばーか。光を使い切りたいわけじゃない。目的は光の量を知ること。光をどれくらい消費するかも計算できる」


 ルアンはシヤンを軽く足で小突いて落とす。

 光の消費が少ないと思われるタイプAから、量っていた。


「でも、ルアンさんは光が膨大ですから……タイプAだと一日中使えるのかもしれませんね」


 ピアースが控えめに意見を言う。

 父親譲りで、ルアンは光が多い質だ。計測は二回目。前回は他に仕事があり、中断した。今回は馬車の中で暇だったから、やり始めた。

 ピアースの言う通り、タイプAでは一日では終わらない。ルアンは握り潰して、ギアを消した。


「あ……す、すみません」

「謝ることありません。私がやるよりも、ピアースさんがやった方がいい。一点に放つタイプA、複数放つタイプB、大火力のタイプC、それぞれやって大まかに消費量を割り出してから、私がタイプCで測定した方が効率がいい」

「えっ!? ぼ、僕が!?」


 バインダーをルアンが取り上げると、ピアースは慌てふためいた。


「あなたが適任です。使い慣れているシヤンやクアロの方が、多いのは確か。少ないピアースさんかスペンサーなら早く済みますが、スペンサーはまだ下手です。ピアースさんの方が丁寧」


 任せられることにプレッシャーを感じて、ピアースの顔色も表情も悪くなる。


「それより、光切れになるくらい大技のコンボ決めようぜ! ルアン、一杯大技練習してたじゃん!」


 シヤンはまた馬車に身体半分乗り込んだ。


「バカ言わないの。いきなりの光切れは死ぬかもしれないのよ」


 下手をすれば死に至ると、クアロは止めた。


「長期の戦いに、自分がどれだけ連続で使えるかを知るべき。……一時間でどれだけギアを発動できるか、試す価値はあるわね」

「ルアンったら……まじでやる気?」

「一つずつやれば死ぬことはない。ゼアスさんに馬車を止めてと伝えて」


 一時間でタイプCのギアを使い続けられるかを試すことに決めた。

 しかし、それをメイドウは止める。


「いけません、ルアン様。宿泊予定の街に着いてからになさってください。予定ではギリギリなのですよ」

「……わかった。じゃあピアースさん、無の紋様のタイプAを」

「はっ、はいぃ!」


 日が暮れる前に宿泊するためにも、馬車を止められない。ルアンは素直に聞き入れると、ピアースに指示をした。

 拒めないとわかっているピアースはガチガチに緊張したまま、無の紋様を書き始める。


「王都に行けば、そういうことを調べている学者がいるのでは?」

「かもね。でも学者が調べているのは、光の量よりも、光そのものだと思う」


 メイドウの質問に答えながら、ルアンは懐中時計を見つめる。


「光を増やすために、必要な成分を調べているはず。光の解明をして、立派なギア使いの騎士達を作り上げたいと考えていると思う。ガリアンは王に牙を向ける気はないけど、王側からすれば危険な存在。身を守るために武装したがっているだろうから」


 ルアンの物騒な発言に、クアロ達が怪訝な表情をする。


「なによ。レアンだって王はガリアンを警戒してるって言ったわ。今は敵に回したくないでいるけど、準備できたらあっちは仕掛けてくるかもしれない」


 にやり、とルアンは口元をつり上げて脅かす。

 ピアースが一番怯えたが、シヤンだけが目を輝かせた。


「冗談よ。ガリアンは最果ての治安を守っている。今じゃあ必要な存在。牙さえ向けなければ、王側は警戒だけしておく」


 血の気の多いシヤンの額を押し退けて、また馬車から落とす。外を見ると、馬車は街の中を進んでいた。通過点に過ぎない街だ。


「ルアーさん。依頼が……」


 ドアを閉じようとすれば、スペンサーが声をかける。

 ガリアンへの依頼。

 メイドウがまた止まるなと言ったが、今度は無視して馬車を止めさせた。

 今回の依頼人は、この街の自警団。目撃者のいない殺人事件について、助言を求めてきた。


「ルアン様が、誰も見ていない殺人鬼を追い詰めたとお噂で……。だから、助言をいただけたらと」


 男数人が馬車からルアンを見上げて、資料らしきものを差し出す。

 ガリアンが街を通ると知り、慌てて駆け込んだらしく、息を切らしていた。

 ギア絡みの事件ではないが、凶悪の殺人事件をルアンが担当したと噂が広がっている。

 ルアンはバインダーをクアロに渡し、ピアースには続けるように指示をして、資料を受け取り目を通す。


「被害に遭っているのは、悪者ばかりなのです」


 自警団の団長と名乗った男は身体が大きく、時には犯罪者相手と戦うだろうと印象を抱く。

 ルアンが資料に目を通せば、被害者の悪事が書かれていた。

 一人目は、恐喝や暴力で警戒していた若者。自宅の入り口で、頭を撃たれて死亡。

 二人目は、強盗の疑いで警戒していた男。こちらも自宅の入り口で、頭を撃たれて死亡。

 三人目は、強盗の前科者。暴力を振るったと情報が入った矢先に、自宅の入り口で頭を撃たれて死亡。

 住所も年齢もバラバラ。共通点は、罪を犯した男。


「まぁ、報いを受けたのでしょうね。犯人には称賛を送りたいほどです」


 団長の横にいる男もまた体格がいい。腕を広げて、笑った。

 ルアンは横目で見てから、資料にまた目を通す。


「おい、殺人だぞ」


 その後ろにいる男が、咎めるような声を出した。


「だが、善良な市民は被害に遭わずに済んだじゃないか」


 笑う男は、自分が正しいと胸を張る。


「……団長さん。この被害者達の悪事は、誰もが知っていたのですか?」


 横目で見てから、ルアンは団長に問う。


「いや、近所の者や被害に遭った者ぐらいです」

「その者達から、相談を受けたと?」

「はい。我々が行動する前に……こんなことに。殺人犯を野放しには出来ません」


 団長は深刻そうに顔をしかめ、ルアンの助言を待つ。そんなルアンに、あの笑う男が話し掛けた。


「ガリアンのご令嬢様も、この犯人は正義の処刑人だと思いませんか?」

「やめないかっ!」

「だって、善良な市民を守っているんだ、正義だろう」


 団長が止めるが、男は自分の意見を押し通す。


「いえ、正義の味方気取りの殺人犯に過ぎません」


 ルアンは淡々と答えて、団長に資料を返した。


「自分は正しいと鼻を高くした傲慢な犯人です。犯罪者を見下し、そのくせ犯罪者に成り下がった自分を棚に上げて、更には称賛されるべきと思っている勘違い男です」


 ルアンが真っ直ぐに視線を向けた男の顔が、怒りに歪んでいく。


「あなたですよね?」


 犯人は、その男。


「自警団が得た情報を元に動いていると考えれば、犯人は自警団の中にいることが高い。犯人の肯定と称賛や賛同を求める様子からして、あなたが第一容疑者です」

「はっ……ば、ばかな……なにっ、これだから子どもはっ」


 男は明らかにルアンの言葉に動揺し、顔を青ざめる。


「お前っ……!」


 団長と仲間が男を犯人だと疑い、厳しい視線を向ければ、男は途端に逃げ出そうとした。しかし、団長達が腕を掴んで捩じ伏せる。


「違うっ! おれじゃないぞっ!! 証拠なんてないだろ! そんな子どもの当てずっぽうなんて!」


 苦し紛れに男が叫び、言い逃れようとした。そこでルアンは言い放つ。


「お前は、ただの人殺しだ」


 正義気取りの傲慢な男に、それは有効だった。


「あいつらは犯罪者だ!! 殺されて当然なんだよ!!」

「自白だな、それ!」

「そうだ、おれが殺した!! みんなを守ったのさ!!」

「それは言い訳に過ぎません。あなたは家を急に訪ねて、不意に撃ち殺した。殺人です。三人を殺した罪を牢屋で償ってください」

「子どもになにがわかるっ!! おれがこの街を守ったんだ!!」


 吠える犯人を、ルアンはもう見ない。

 連れていくように指示をしてから、団長は頭を下げる。


「も、申し訳ありません。自警団の中から殺人犯がいたなんてっ……本当に申し訳ありません」

「あなたが謝る必要はありません。道を踏み外したのは彼です。彼の悪影響を受けて、犯罪者ならば殺していいという認識が広がないように注意してください。またなにかあれば、ガリアンにご連絡を。ご協力いたします」


 馬車から降りることはなかったが、ルアンは大人な対応をして団長と握手をした。

 そして、馬車を再出発させる。

 なにもなかったかのように、ルアンはクアロからバインダーを取り、光の測定に戻った。


「……馬車を降りずに、一瞬で解決した……」

「ルアン様、素敵……」


 クアロは唖然として、メイドウは恍惚の表情で見つめる。ピアースも口をあんぐり。


「団長さん、尊敬の眼差しで見送ってますよ」


 スペンサーが、外から声をかけた。


「まぁ……私がなにもせずとも、ルアン様のファンが出来ますわね」

「なに、メイドウ。その含みのある言い方」

「い、いえ、なんでも」


 ルアンが鋭い目を向ければ、メイドウは縮こまる。


「私は仕事をしたまで。ピアースさん、集中してます?」

「は、はいっ!」


 ピアースは、シャンと背を伸ばす。

 それから一時間以上、ピアースの光が持った。それをしっかりと記す。

 今日のところは光の回復を待ち、宿に着くとルアンはシャンとともにタイプCのギアをぶつけ合わせた。日が暮れても、ルアンの光が尽きることはなく、またもや測定不能に終わった。




20151008

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