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54 容疑者絞り。




 翌日、ルアンとクアロはガリアンの館の廊下を歩き、監獄に向かっていた。

 メンバーが休憩に使う部屋の一つに通りかかると、話し声を耳にする。


「胸糞わりぃ!! お嬢様だけさっさと逃げやがって! 住人の罵声を受けたのはオレ達だけだ!」

「役立たずだとさっ! 自分の子ぐらい守れっつーの!!」

「見つけたお礼もなしだぜ!? ムカつくぜ!!」

「そうだ! 確かにオレらがいる間に二人もさらわれたが、見つけてやったのに!!」


 ドミニクの部下であり、子ども達を見付けたメンバーだ。

 ルアンの悪口まで怒鳴り散らしているため、クアロはこの場から離れようとした。しかし、ルアンの背中を押そうとした手は、空気を切るだけ。触れなかった。

 ルアンは躊躇することなく、その部屋の扉を蹴り開ける。

 その音に驚き、メンバー達は震え上がった。


「不満なら聞いてやるよ。出来るならあたし自身で対処したかったが、子どもであるあたしがいても余計感情的になるだけだから、ゼアスさん達とあなた達に任せた。言っておくが、暴れたいがためにガリアンに入ったとしても、ガリアンは正義だ。あなた達は子どもを救うために動いていたはずだろ。その気持ちが微塵もなかったとでも言うのか? それでもあなた達のそばで、子どもが拐われたのは事実。反省しろよ」


 子どもであるルアンが、大人に向かって、畳み掛けるように言い放つ。

 彼らが街にいながら、子どもが拐われた事実は、ルアンにとって初耳だ。

 それでも父親のレアンを連想させる威圧的な眼差しで責める。


「ほら、言ってみろよ」


 ルアンは不満を聞くと促すが、彼らは罰が悪そうな顔で俯き、押し黙った。


「子を奪われた親を、傷付けるようなことを言うな。あなた達だって、親がいるだろ」


 そう言うと、ルアンはバタンと扉を閉じる。そして何事もなかったかのように歩き出す。

 だが、すぐにその足はまた止まる。

 廊下の先には、スペンサーがいたのだ。


「おはようございます、ルアーさん。クアロさんも! 今朝までに集まった情報ッス!」


 陽が昇ってから、スペンサーは馬で戻ってきた。かき集められた情報は、厚さ五センチほどの紙の束。

 クアロがそれを受け取る。


「ご苦労さん。遺体の方は返せてる?」

「あ、はい! ピアースさんがめっちゃ頑張ってて、やっと半分、ご両親に引き渡せましたよ」

「そう。順調ならいい。明日までにはなんとか容疑者を絞るから、よろしく伝えておいて」

「了解しました! オレ、戻る前に2本目の薔薇の花束を買いに行きますね!」

「あとにしろバカ未来男。さっさと戻れ」

「畏まりました!!」


 ルアンに冷たく一蹴され、敬礼したあと、スペンサーは直ちに隣街へと戻った。


「なに、薔薇の花束って」


 クアロは意味がわからず、問う。


「あたしに恋に落ちる度に、薔薇を贈るんだって。1本ずつ増やす、恋を重ねた花束」

「なにそれ、ロマンチック! いいじゃない! 未来男もやるわね」

「じゃあクアロが貰えば?」

「ボス以外からは、いらないわよ」


 ルアンは教えながら、資料をクアロから受け取り、読み始めた。


「ルアン、やっぱり門番は代わってもらって、それに集中したら?」

「門番もこなして、明日まで出来るって」

「いや、そんな……びっしり書かれた分厚い資料を明日までって……徹夜する気なの? ピアースさんいないし、無理するのは止めなさいよ」


 几帳面であるゼアスチャンが書き記した情報は、一枚の紙の隅から隅まで文字を詰め込んでいる。

 クアロならば、一日では読みきれないと思った。


「こんなのすぐ読める」


 言いながら、ルアンは一枚目を捲る。

 すると顎に手を当てて、ルアンは他所を向いた。


「……それにしても、ガリアンメンバーがいる間に、二人も狙われたのはどういうことなんだ?」

「ああ……慎重な犯人がガリアンメンバーがいるのに狙うのはおかしいってこと?」

「いや、その時点では子どもの人身売買を疑っているから、安心していたのかもしれない。問題は二人だ。二人」


 ルアンは左手を上げて、2本の指を立てた。


「犯行の間隔が急に早くなった。飾って眺めるゲス野郎だから、間も開けずに次を狙うなんて……」

「……毒の花の殺人鬼は、一日も空けなかったじゃない」

「奴とは違う。毒花の方は、恐怖を与えるためと我慢……ああ……なるほど」


 クアロに話す途中で、ルアンはなにかに気付き、歩調を速めた。

 館を出て、ルアンの特等席である監獄前の植木に座り、資料を広げる。

 夢中になってなにかを探すルアンの思考を邪魔しないように、クアロは肩を竦めて門番の任についた。


「やっぱり! 間隔が短くなっている!」

「どういうこと?」


 30分後にルアンは声を上げる。

 クアロは監獄の扉から離れないまま問う。


「最初は半年、次には四ヶ月、三ヶ月、二ヶ月、どんどん犯行の間隔が短くなっている。例えるなら、コレクターが収集したい欲望を暴走させているのかも。元々この手のゲスは、沸き上がる汚い欲望には勝てない。だからゲスなんだ。子どもや親のすぐ隣で人のいい笑みを浮かべていても、皮の下では醜すぎる欲望まみれ。これなら囮作戦もあっさり上手くいったかも、しくったな」


 年齢と名前を知ってから、拉致する慎重な犯人だが、欲望には勝てない。

 餌を目の前に出せば、簡単に釣れる。ルアンはそう推測し、少し後悔した。


「今から囮作戦なんて、許さないわよ。ルーだって街の住人が批難するって言ったし、さっきもルアンがいるだけで感情的になるって言ったばかりじゃない」

「わかってるよ。やらないって」


 クアロが少し強めに釘をさす。ルアンも撤回しない。


「犯人がミスする可能性が高い。あたしがなにもしなくとも、きっとゼアスさん達が捕まえるかも」

「でも容疑者は絞っておくんでしょ?」

「念のためにね」


 ルアンは木に寄りかかり、容疑者絞りを始めた。

 子どもの年齢がわかるほどの職業や、近所に住む独身男性を一先ずチェックした。


「ピアースが手口を解明してくれた。子どもを溺死させてから凍らせたらしい。水のギアに要注意だ。まぁ、あたしが言わなくともゼアスさん達はわかっているはずだけどね」

「相手が一人なら、ガリアンメンバーは楽勝」

「見つかったら、降参するパターンだと思うね。いざ追い込めば、兎のようにガクガクと震えるさ」

「いや、兎のようにって、わからないってばそれ」


 ルアンの例えに、クアロが肩を竦めるが、ルアンは気に留めない。


「対処もゼアスさんが上手くやるから、あたしは容疑者絞りに専念しよう。……スペンサーなら、口上手いし、容疑者のボロを出させてみようか」

「どうやって?」

「容疑者の立場を利用して誘惑してやるんだよ。捕まえたら精神的に追い詰める台詞も言ってもらう。監獄に入るまで、精神をズタボロにしてやろう」

「そしてルーがトドメを刺すつもりなのね……」


 ノリノリであるルアンを見て、クアロは青ざめる。いたぶることが好きなルアンらしい。

 不意に、ルアンが手を止める。

 館から、ドミニクが歩いてきたのだ。片手にチューリップの花束を持っていた。


「よぉ、ルアンちゃん。なーんかウチの部下と、もめちまったらしいな。ごめんな?」

「……その花束、なに」


 笑いかけてドミニクは謝罪したが、ルアンはそれよりも花束について問う。


「ん? あーなんか、玄関に置いてあったらしいぜ。小さなガリアンメンバーって書いてあるから、ルアンちゃん宛だろ?」

「……あなたからではないんですか?」

「いやいや、こんな幼稚な花束より、もっと豪華な花束を選ぶさ」

「……」


 色とりどりのチューリップの花束。昨日届いたものと、メッセージカードまで同じだ。

 ルアンはそれを見て、停止した。嫌な予感が、一つの不安を浮かび上がらせる。


「……ちょっと、ラアンのところに行ってくる」

「は? ちょ、離れるのやめなさい!」

「おい、この花束は?」

「あげる」

「いやいらねーよっ」


 植木から飛び下りて、ルアンは館に一直線。クアロは一人で門番をやらなくてはいけなくなり、ドミニクはチューリップを押し付けられた。

 ルアンは迷わずに二階にあるラアンの部屋に行き、、扉をノック。


「どうぞ」


 ラアンの許可を聞き、扉を押し開けた。

 中には、ボスの代わりに書類整理をしているラアンと、その前のソファーに座るロアンがいた。

 鏡に映したルアンそのもの。瓜二つの顔と背格好のロアンは、半袖のシャツと、七分丈の紺のチェック柄のズボン姿。

 去年の誕生日にルアンから貰った金貨50枚になる豪華な宝石の爪や目をつけたクマのおもちゃを、大事そうに持っていた。


「ルアン! どうしたんだ?」


 珍しい訪問者に、ラアンは慌ててガタリと立ち上がる。

 ロアンは、きょとんと見つめた。


「ピアースさんとスペンサーが暫くいないから、ロアンにギアの紋様を教えてあげようと思ったけど、いい?」


 猫撫で声を出して、ルアンは問う。


「えっ……ぼく……ひかり、まだ……だせないよ」


 しょぼん、とロアンは弱々しく呟いて俯く。

 ルアンと違い、ロアンは光が出すことができず、ギアが使えない。


「光が出せるようになった時のためにも、紋様を覚えておけばいいでしょ。そうすれば、すぐにギアが使いこなせるかもしれないよ」


 先ずは紋様を覚えてしまえばいいとルアンは提案した。


「えっ、でも、ルアンも仕事があるだろ?」

「大丈夫。いつもと変わらないから」

「なら……まぁ、任せる」


 普段から仕事をしつつ、ピアース達に紋様を覚えさせていたのだ。問題ないと聞き、ラアンは了承した。


「ほら、行こう」

「う、うんっ!」


 手を掴まれたロアンは、クマのおもちゃをテーブルに置くと、ルアンについていく。

 ルアンといられるだけで喜び、笑顔になり姉の小さな手をギュッと握った。

 ルアンは微笑みを向けたあと、監獄に戻るために歩いていく。

 前を見据えるルアンに笑みはもうなく、ただ弟の手を握り返した。




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