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49 一目惚れの一輪。




 自称未来から来た男、スペンサーは、ルアンの命令で強盗犯の連行した。

 仮入隊を認められたことをゼアスチャンに伝え、そして住まいを探せとも言われた。今日の予定だ。

 住まい探しの前にルアンの帰りを待ち、他のガリアンメンバーに見張られながら、馬小屋の前で座り込んだ。

 クアロと馬で戻ってきたルアンを見付けるなり、立ち上がって笑顔になる。


「ちょっと未来男ーっ! ! よくも私が未来にいないって嘘ついたわね!」

「えっ!? なんでバレたんスか!?」


 馬から降りるなり、クアロは鬼の形相で詰め寄った。


「あ、ルアーさんが見抜いたんですね! クアロさんにドン引きしたフリまでしたのに……ルアーさん、流石っ!」

「この子、入れておいて」


 ルアンも馬から降りて、スペンサーに押し付ける。褒め言葉は流された。


「アンタ!! なんで私だけいないなんて嘘ついたのよ!?」

「ひぃっ! ごめんなさいっ! クアロさん、ごめんなさいっ!!」


 15歳のクアロに本気で怯えて、22歳のスペンサーは馬小屋の壁に逃げ込む。


「つい嫉妬心から! 本当にすみませんっ!」

「はぁ!? 嫉妬心!? なに言ってんのアンタ!!」


 クアロが壁を蹴り飛ばせば、スペンサーは震え上がる。

 ルアンは腕の中の猫を撫でるだけで、口を挟まなかった。


「だっ、だって! ムカつくんですもん!! こんなにも早くからルアンさんのそばにいるし、さらりと自分がルアーさんの大事な部下だと認めたし、クアロさんはずるいですよ!! オレも10年ルアーさんのそばにいたいんですよ!!」

「だからって死んでいるって、思い込ませるなんてサイテーよ!!」

「だからごめんなさいってばー!」


 クアロはスペンサーの胸ぐらを掴んだ。スペンサーの嫉妬のせいで、精神的に追い込まれたクアロは、怒鳴り付ける。

 馬が落ち着きなく足踏みを始めたところで、ルアンが割って入った。


「もしもの話なんだからもういいじゃん。未来男、馬の世話して、さっさとシヤンと住みかを見付けろ」

「はい、ルアーさん!」


 クアロのコートを引っ張って引き離す。クアロはしぶしぶ、ルアンについていくことにした。


「10年後まで子守りしてるって、どうなの」

「10年後まで子守りさせないでちょーだい」

「え、子守りと言うより……」


 クアロが10年後まで子守りをしていると思い込んでいる2人の会話を聞き、スペンサーは言いかける。

 ルアン達にそれは届かず、館に向かって並んで歩く。


「……まぁ、いいか」


 むっすりと唇を尖らせて、スペンサーは言わないことにした。

 ルアンの小さな後ろ姿を立ち尽くして見つめたあと、そっと微笑みを溢す。


「オレもがんばろっ」


 グッと拳を握った。




   ◇◆◆◆◇




 その日の夕方。ガリアンの館の一階にあるルアンの部屋には、夕陽のオレンジ色が射し込む。それが窓のそばに椅子を置いて、座っているルアンを照らしていた。

 銃の手入れをしていたルアンは、その銃口を、窓から覗き込むスペンサーに向ける。


「一人で入るなって言ったはずだけど?」

「シヤンさんと戻りました! アパートも見付けましたよ。未来でオレが借りていた部屋が丁度空いていたんで、そこに決めました! なんか、変な感じです」

「あっそ」


 スペンサーは笑いかけるが、未来の話を信じないルアンは素っ気ない反応。銃の手入れに戻った。


「それ、クアロさんの銃じゃないですか?」

「……これから、誕生日がきたらあげる」

「へー! クアロさんの銃、ルアーさんからの誕プレだったんスか! 知らなかったー。いいなぁ、クアロさんばっかぁ」


 スペンサーがまたむくれると、ルアンは呆れた眼差しを向ける。


「いつまでも戯れ言を言っていると、撃ち殺すよ」

「戯れ言じゃないっス!」

「さっさと用件言わないと撃つ」

「弾込めないでください!」


 弾丸を一つ、シリンダーに入れて回してセットしたルアンは、もう一度スペンサーに向けた。

 ただ顔を見に来たと言えば、発砲されると思ったスペンサーは、慌てて隠していた一輪の薔薇を差し出す。


「出逢った記念に!」


 鮮やかな紅い薔薇。

 頬を赤らめて、照れたように笑いかけるスペンサーを見てから、ルアンは黙ってその薔薇を受け取った。


「あれ、意外」

「……なにが?」


 ぱちくりと瞬いて驚くスペンサーに、ルアンは薔薇の匂いを嗅ぎながら問う。


「あ、いやー、未来で初めての給料をもらった時に、薔薇の花束を買って、未来のルアーさんにプレゼントしたんスけど……。ルアーさん、受け取ってくれなくって。42本欲しいって怒っちゃって。慌てて花屋に駆け込んで42本にしたら、やっと受け取ってくれたんス!」

「42本の花束?」

「42本ッス!」


 覚えのない数字にルアンが首を傾げるが、スペンサーは続けて話す。


「ルアーさんの好きな数字かと思ったのですが、次に任務完了のお祝いに42本の花束を渡そうとしたら、1本足りないって怒っちゃって。あげる度に1本ずつ増やしたら、怒らずに受け取ってくれるようになりました!」


 妙な話だと言わんばかりの呆れた眼差しを向けるルアンは、薔薇に目を戻す。また薔薇の匂いを嗅いだ。

 スペンサーは窓辺に頬杖をついて、微笑んでルアンを見つめた。


「ルアーさんは小さい頃から、花の匂いを嗅ぐの、好きだったんですね」

「……」


 もう一度、冷めた目をルアンはスペンサーに向ける。薔薇を見て、またスペンサーを見て、口を開いた。


「知ってる? 薔薇一輪を贈るのは、一目惚れを意味する」

「へー! 知らなかった! オレ、あなたを愛してますって意味を込めて薔薇の花束を贈ったので。……あ」


 感心したスペンサーは、つい口を滑らせたように、間の抜けた声を漏らす。

 途端に、顔を真っ赤にした。ルアンから目を逸らし、落ち着きなく頭を掻く。

 あなたを愛している。

 それをルアンの前で直接口にしてしまったことに、激しく照れた。


「アンタが好きなのは、未来のあたしでしょ」


 動揺したスペンサーに、ルアンは冷たく言い放つ。

 背けた顔を戻すと、スペンサーは真っ赤な顔のまま笑った。


「オレが恋しているのは、ルアン・ダーレオクさんです。時代が違っても、オレの世界の中心はあなたです」


 今のルアンにも、恋をしている。過去でも、気持ちは変わらない。

 出逢った瞬間から、スペンサーの世界の中心はルアンだ。


「……っぁ」


 スペンサーはまた照れて、顔を背ける。耳まで真っ赤になった。

 ルアンは、じゃあ言うなよと言わんばかりの眼差しで見る。


「あ、じゃあ、こうしましょう。ルアーさんに恋しているって強く感じたら、その度に薔薇をプレゼントしていいですか? ルアーさんに一目惚れをする度に、1本ずつ増やしていきます。恋を重ねた分だけの花束。受け取ってもらえますか?」


 今のルアンにも恋している証明の花のプレゼント。一輪の薔薇で示す。

 恋の寿命は長くて三年だという。幾度も恋をすることで、恋の寿命が伸びる。恋は、積み重なったものだ。

 そんな証明を必要としないが、花が好きなルアンは断らなかった。


「別にいいけど」

「はい、わかりました! じゃあ、帰りますね。ルアーさん、また明日!」

「あ、おい……」


 力強く頷いたあと、スペンサーは早口で言うと顔を赤くしたまま逃げるように去る。

 ルアンが呼び止めたが、聞こえなかったらしい。


「……42本……増える花束……」


 一人になったルアンは、怪訝な表情で呟き、一輪の薔薇を見つめる。


「あーわけわからん。理解できない未来の自分なんて、認めない」


 スペンサーの話す未来の自分も、未来も、ルアンは認めない。

 薔薇の深紅の花びらに優しく頬擦りすると、弟にもらった花瓶の中に差し入れた。


「恋を重ねた分だけの花束か……」


 呟いたルアンが、口元を緩ませる。ロマンチックな贈り物だ。

 しかし、すぐに「バカらしい」とそっぽを向いた。




20150517

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