大量出血には気をつけよう
自分の悲鳴ではない、苦痛に歪んだ呻き声に閉じていた目を開き周囲を見渡す。
「グっ・・・ガッ・・・!」
「・・・うっわぁ」
私を襲おうとしたであろう魔物は何処からか飛んできた矢に貫かれ、のたうち回っていた。
「怪我はないか! 動けるなら、早く逃げなさい!」
「っ!?」
突然、投げかけられた声に驚きつつ声の方へ顔を向ける。
そこには物語に出てくるような鎧を身に纏い、弓を構えた青年の姿があった。
確かに魔物はまだ、生きている。
死に際に追い込まれた生き物は何をするか分からないし、早く逃げよう。
「大丈夫です! 動けます!」
少しよろけはするが、走れないわけじゃない。
青年のいる方へと走り出す。
「グルガァァァ!!!」
「なっ!?」
矢に貫かれた魔物が吠える。
そんな傷を負ってもまだ、そんな力があるのか!?
苦痛を帯びた叫びが丘全体に響き、ザワザワと嫌な風が私の頬を撫でる。
「これはヤバイ?」
残る体力をフルに使い、青年の近くまで駆ける。
ヤバイ、なんか分からないけどめちゃくちゃヤバイ気がする!
「グルル・・・」
手負いの魔物は大量の血を流しながらも強い殺気を帯びた目で此方を睨めつけている。
そして、鋭い爪が大地を蹴る音が聞こえてきた。
もちろん、目の前の魔物はまだ動いていないわけで。
「増えた・・・」
「これは・・・、流石に数が多いですね」
いつの間にか真横に立っていた青年が呟く。
そう、増えたのだ。魔物が。
しかも、その数は一つや二つではない。
「多すぎるだろ!?」
「おそらく、あの魔物が呼んだというよりも貴方の血の匂いにつられて集まってきたのでしょう」
・・・そうだ、早い段階で腕の怪我してたんだった。
そうだよねー、あんだけの出血で(今も止まってないけど)長距離走ってれば血の匂いは広範囲に広がるもんね。
「すいません、なんか巻き込んじゃって」
「いえ、命の危険に晒された人を助けるのは重要な仕事ですし」
仕事ということはやはりこの人は騎士なのだろうか?
騎士は矢筒に手をかけ、いつでも矢を放てる体制をとる。
「それにこれくらいの数なら、問題ありません」
「えっ、いや、この数ですよ!?」
魔物の数は増え続け、今では20程に膨れ上がっている。
矢を外さなかったとしても、間合いを詰められれば危ない。
「大丈夫ですよ、そろそろ来るはずですから」
「えっ?」
誰か来るのだろうか、この状況を打破できるようなそんな人が?
確かに町までの距離はそう遠くない。
この人が騎士ならば援軍を呼んでいる可能性もある。
「来ますよ! 貴方は街までお逃げなさい!」
呑気に考え事をしている間に魔物たちが痺れを切らしたみたいだ。
手負いの魔物が先行し、群れとなって私たちに襲いかかる。
「ハッ!」
弓から複数の矢が放たれ、魔物を射抜いていく。
この人はなかなかの手練れのようだ。
私は騎士に言われたように街に向かって走る。
「はっ、はっ・・・」
流れ続ける出血に貧血を起こしているのか思うように走れない。
でも、あの騎士の邪魔にならないためにも騎士が私に気を取られ、傷を負わないためにもなるべく遠くへ逃げなければ!
「グルァァァ!」
「危ない!」
騎士の放つ矢の合間を掻い潜り、魔物が私に襲いかかる。
「っ!!」
何とか避けたが、足がふらつく。
目の前も霞んできた、本格的に貧血のようだ。
「やばっ!?」
「グルガァァァ!」
魔物が追撃に移る。
今度こそ、逃げられない!
そう感じたその瞬間に私と魔物の間に滑り込む影があった。
「グギャン!!」
騎士と同じ鎧をいやもう少し豪華?な鎧を身に纏い、私の目の前まで迫っていた魔物を一刀両断する青年がいた。
「リーベルタール騎士団団長、リヒト・セーバン見参!」
街まで行く予定が辿り着かなかった・・・