刀の名は導鈴
お待たせしましたー
「ナトリスさん!」
「(この人がギルドマスター…)」
気配を感じさせることなく、私達の背後に現れた人物はボサボサな黒と銀のメッシュ、興味深そうに細められた瞳は焦茶色。白いクロークに身を包み、少し根暗っぽい雰囲気を醸し出している。
「俺はナトリス・イオニー。このギルドを取り仕切っているギルドマスターだ」
「辻鞍 彩です。こっちはパートナーのグラキシア」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
緊張のせいで手短な挨拶になってしまったが、ナトリスさんは気にしないとばかりに私の頭を撫でた。
「そう固くなる必要はないぞ? 俺はただ、導鈴を抜いた者を一目見たかっただけだからな」
「導鈴?」
「その刀のことさ」
チリンッと返事をするように鈴が鳴る。
「その刀の名は導鈴。魔吸扱刀というとても珍しい種類でな。その上、使い手を自ら選ぶたちの悪い刀だ」
ナトリスさん曰く。魔吸扱刀とは使い手の魔力を吸収し、己の力とする特集な刀なのだという。主に対象物を斬りつける時に魔力を必要とするため与えなければ、なまくら並みの切れ味らしい。
「つまり、いつもは何も切れない刀なんですか?」
「ああ、おそらくな」
「………扱えるか心配になってきました」
まさか、切れない刀だなんて思ってもみなかった。しかも、魔力を欲する刀か…、血を吸いたがる刀じゃなかっただけでもよしとしよう。
「だが、その刀が吸収するのは使い手の魔力だけではない。斬りつけられた者の魔力をも吸収する性質があるんだ」
「……敵さんのも吸収しちゃうんですか?」
「相手の魔力が強ければ強いほど、喜んで吸収するだろうな」
「マジですか…(汗」
なんとまあ、食いしん坊な刀だな。
「しかし、このギルド全ての冒険者が抜けなかった刀をまさかこんな少年が抜くとはな」
世の中、まだまだ分からんことばかりだとナトリスさんが面白そうに言う。
「物凄く簡単に抜けましたけどね、こいつ」
「ええ、驚く程の難度の低さでしたね」
「あれはびっくりしたよ〜」
「ははっ、それは見たかったな」
チリンッと私も仲間に入れろとばかりに鳴る鈴の音に喋れないんだから無理だろうと柄を撫でて宥める。
「ふむ、随分と気に入られているみたいだな」
「ナトリスさんには鈴の音が聞こえるんですか?」
「いや、全く聞こえん」
間髪入れずに否定され、ずっこけそうになったが何とか耐える。
「んー、キゼロの話では武器は貸し出すということだったな?」
「はい」
確か、使い古しのを貸し出す的な感じだったと思う。
「しかし、その刀はお前にしか抜けない」
「そうですね」
「なので、条件付きでお前に譲ろうと思う」
ニヤリと笑ったナトリスさんはちょっと怖い。
「条件とは?」
「うむ。魔吸扱刀は謎の多い代物でな、まだ実態解明されてないんだ」
「ふむふむ」
「なので、使い手であるお前が何か気になることや気づいたことを報告して欲しい」
「つまり、研究対象ってわけですか」
「まあ、そう考えてくれていい」
刀をやる代わりに研究対象になれとはなかなかハードな条件だな。
「報告はクエストを受ける時にそこで死んでるキゼロに言いつけてくれれば俺に届くようにしておく」
「それってもう、拒否権ありませんよね?」
「おお、なかなか察しがいいじゃないか。賢い奴は好きだぞ?」
「はぁ、分かりました。この導鈴を譲り受ける代わりに研究対象として報告をしますよ」
何事も等価交換なのだ。何かを得ようとすれば何かを差し出さなければならない。
この刀を譲り受ける代価にしては安い方だろう。
「ああ、頼んだ。報告時に時間があれば魔法の一つや二つ、教えてやろう」
「随分と特典つけてきますね」
何か企んでそうで怖いんだよね、この人。
「なーに、個人的にお前を気に入っただけさ」
見ていると面白そうだと笑うナトリスさんに心外だと肩を落とす。
「さて、お前達はクエストを受けているんだったな?」
「はい。薬草採取を」
「それならば、日が落ちる前に終わらせた方が安全だ」
魔物のレベルの低い草原とはいえ、日が落ちれば魔物の活動が活発になるらしい。夜行性の魔物の方が強いのだろうか?
「長々と引き止めて悪かったな」
「色々、ありがとうございました」
「なに、新たな仲間を大切にするのは当然のことさ」
私と昴の頭を撫でるナトリスさんの手はとても暖かくて優しい。
「それじゃ、行ってきます〜」
「うむ。みんな、気をつけて行ってくるといい」
「あの、最後に一ついいですか?」
「ああ、いいとも」
「どうして、私が刀を抜いたことに気付いたんですか?」
「簡単なことさ。このギルドで俺が知らないことはないんだよ」




