あー、もう面倒い・・・
主人公ちゃん、絶体絶命!?
「ああ、良い風の吹く丘だな~(遠い目」
軽い現実逃避だ。気にするな、むしろ放っておいてくれ。だってさ、今から物凄く全力疾走しなきゃいけなくなりそうなんだもん。
「(あー、振り返りたくない」
「グルル…」
「はぁ…」
どうやら、後ろのお方はのんきに現実逃避する私を見逃してはくれないらしい。チラリと後ろを振り返ってみる。
「うっわぁ…」
そこにいた生物は私が今まで住んでいた世界のどこにも存在していない狼でもなく、ライオンでもない容姿の動物。例えるならばRPGゲームとかに出てくる魔物のようだ。
「うーん。なんというか合成獣みたいな?」
豹と狼を混ぜた感じだろうか? サイズはとても大きいけど。
「グルガァァア!!」
魔物の咆哮が丘全体に響き渡る。
なんだかヤバイ感じになってきた気がする。このままだとこいつの仲間も寄ってきそうだ。
魔物は魔物で体制を低くし、襲いかかってくる。
「おっと!!」
飛びかかってきた魔物をするりと避け、街に向かって走り出す。
これでも運動神経はいい方なんだ、
逃げ切ってやる!
「チッ、掠っただけでこれかよ!?」
魔物の爪が掠ったのだろう。服の裾が綺麗に切り裂かれていた。
ヤバイ、ヤバイ! まともに喰らったら、今度こそ命が危ない!
「ガルルァァァ!」
「っ…はっ…」
あーあ、流石に獣型の魔物だけあってめちゃくちゃ足が早い。そんなのんきな思考とは裏腹に体は走ることをやめない。
「(だって、死にたくないもん!)」
丘を越えると人の手で舗装された道のような場所に出た。舗装といってもアスファルトが敷かれているわけでもなく、ただ草が生えていない土が剥き出しになっただけのモノなのだが、草がないだけありがたい。
今までは足首ほどの高さまで草が生えていてとてつもなく走りにくかったんだよね。
「っ……あと少し!」
運動不足なのだろうか? 息が切れる。とりあえず、ここで生き残ったらもう少し運動を心がけようと誓った。
「シャァァア!」
「っ! しまった!?」
いつの間にか、すぐ後ろまで近づいていた魔物の爪が左腕を掠った。
「(流石、切れ味抜群だ…)」
傷口はそんなに深くないのだが、出血がひどい。けれど、ここで速度を弱めるわけにはいかない。弱めれば後ろで虎視眈眈と狙う魔物に喰われるからだ。
「くっそ、追いつかれる!!」
魔物がさらに速度を上げる。
追いつかれる。そんな焦りが反射神経にまで影響するのか、足元にあった岩に気づくのが遅れ……
「うっわぁぁあ!?」
ズッシャァァっと派手に転んだ。まあ、怪我した方の腕を庇うことは忘れなかったのだが。それにしても、この状況で転ぶとかよくある展開だけど、有難くも何ともない。
ベタな展開ならもう少し有り難みのあるものにして欲しいものだ。
とまたしても現実逃避する私にトドメを刺そうと魔物が襲いかかる。
「あー、もう面倒い……」
事故では死ななかったけど、まさか魔物に喰い殺されるなんて思いもしなかった。
「(むしろ、事故の方が痛くない気がするんだよね)」
襲いくるだろう痛みにギュッと目を閉じる。
「ギャンッ!?」
あれ、今の悲鳴。私じゃないよな?
主人公ちゃんは運動神経いいですよー、逃げ足も早いです(笑