恐怖のギルドマスター登場
「なっ!?」
「えっ!?」
「おや」
誰にも抜けないと言われた刀を絶対に抜いてやると力を込めた瞬間、驚く程簡単に抜けたのだ。
「……抜けないんじゃなかったのか!?」
「抜けないって聞いたもん!」
昴と顔を見合わせ、信じられない物を見るように刀に目を移す。
「だったら、一度鞘に戻した状態で昴に抜いてもらえばいいじゃないですか」
それで抜けたら、昴が聞いた事はデマで抜けなかったら本当の事だとわかるじゃありませんかと言い放つグラキシアにそれもそうかと刀を鞘に戻し、昴に渡す。
「んじゃ、抜くよー?」
「はいよー」
「せーの、んー! あれ? んー!!」
昴が力いっぱい鞘から刀身を抜こうとするが、一向に抜けない。軽く手の甲に血管が浮き出ているので嘘ではないらしい。
「おーい、大丈夫か?」
「む、無理かも……」
「どうやら、抜けない日本刀は本当の話だったようですね」
「そうだな」
クタクタになった昴から日本刀を受け取り、鞘から刀身を抜く。
刀身は美しい刃文が広がり、反りが深く鍔元は太く切先は細い形状をしており、太刀に分類されるものらしい。
「ふーん」
「彩君、扱えそう?」
「うん。いけそう」
見た所、強度に問題はなさそうだし、あまり重みも感じない。あとは切れ味を試さないとダメだけど、個人的には気に入ったかな。
『リリンッ♫』
なんか鈴の音が嬉しそうなんだが気のせいだろうか? 意思のある刀とか妖刀じゃないか…、早まったかな?
「さてと、無事に武器が決まった所で手袋探そう!」
「………忘れてた」
そうだそうだ、今回のクエストは薬草採取でしかも毒草なんだっけ。
「手袋とは革手袋でいいのですか?」
「うん。ヤート草はそこまで毒性が強くないから特殊な手袋じゃなくても平気なんだ」
「まあ、初心者用のクエストだもんな」
「うんうん」
んー、探すにしても刀片手にじゃやりにくいな。着物だと帯に差し込めばいいだけなんだけど、今は洋服だからなぁー。
「彩。これをお使いなさい」
「えっ? ベルト?」
「剣やナイフなどを収めるベルト式のホルダーですよ。さっき、刀を探してるときに見つけたので」
「おおー!マジか、サンキュー」
グラキシアの機転により、刀の問題は解決。ホルダーを落ちないように固定し、刀をさす。
「どう? かっこいい?」
「まあまあですね」
「えー、曖昧な」
「さあ、革手袋を探しますよ!」
「イエッサー」
またしても、ガラガラと山を掘り返すことになったのだが。
「おーい、左手あったぞー」
「こっちも左手だけ〜」
何でこんなに左手多いの!?右手はどこにあるんだよ!
「右手だけ無いって何か使い道あるのかね?」
「さあー?」
二人して疑問符を浮かべつつ、捜索すること10分。
「あったぁぁぁ!」
「こっちも!」
ようやく右手も左手も見つけ出すことができたのだが問題発生。
「おおう、こっちの二つはちょいと大きいな」
「こっちは小さいよー」
手袋の大きさが手に合いませんでした←よくある話。
「それなら、二人で交換しなさい」
「「はい、お母さま(笑」」
「まだ、そんな歳じゃありません!」
グラキシアをからかいながら、見つけた手袋を交換し合う。
「お、ピッタリ!」
「僕も〜♫」
交換した手袋のサイズはピッタリ。
これでこの危険地帯から抜け出すことができる。
「んじゃ、さっさと外に出よう」
「そうですね、流石に抜き身のナイフや剣を見るのはうんざりです」
「危ないもんね〜」
「「特に昴が!」」
「えー、僕なのー?」
自覚のない奴程、厄介なものはないよね。武器庫から外に出た時、こちらに飛んでくるモノに気がついた。
「何あれ?」
「あ、あれはキゼロさんのメッセージバード」
「こっちに来ますね」
メッセージバードと呼ばれた白い鳥は昴の差し出した手に止まり、紙に姿を変えた。
「……………魔法って凄いな」
「これくらいは初歩的な魔法らしいけどね。えっと、内容は…」
二人して紙を覗き込むとそこに書かれていた内容は武器と手袋が見つかったら一度カウンターへ戻れ、師匠が待ってるとのこと。
「キゼロさんの師匠って確か…」
「ギルドマスターだね!」
「えー、何その重役と会談しろ的なの」
そもそも、何で新人冒険者にギルドマスターなんて人が会いたがるんだ?キゼロさんからの報告だけで十分な気がするんだが。
「んー、もしかするとその刀を抜いた人を見たいのかも?」
「原因これ!?」
「だって、その刀を初めて手にしたのはギルドマスターだもん」
自分が抜けなかった刀を抜いた人物がどんな人か普通なら気になるんじゃないかな?とニコニコ笑う昴にげんなりとする私。
「まあ、僕が見つけた本人なら気になるかな」
「でしょ? 覚悟決めて会いに行こうよー」
「へーい」
怖い人だったらやだなぁーと思いつつ、昴に手を引かれてカウンターへ。
「キゼロさーん、来ましたよー!」
「……………orz」
初めて見たときよりも瀕死になっているキゼロさんを発見。
「(何があったよ…)」
「へぇ、君が刀を抜いた召喚師か」
「っ!?」
キゼロさんの安否の心配をしていると真後ろから投げかけられた声に振り返る。
「ようこそ、ギルドへ異世界の幼子よ」