鈴の音に導かれて
「………なぁ、昴」
「んー? どうしたの?」
「ここ、武器庫っていうよりもゴミ捨て場じゃ…?」
「これはまた、凄いですね」
そう。昴に案内された武器庫はあらゆるものが詰め込まれたゴミ捨て場のような状況だった。
「いやいや、ちゃんと武器も防具もあるって! 掘り出せば!」
「掘り出すこと前提なの!?」
うん!っと清々しい笑顔でゴミの山(正確には武器と防具、雑貨の山)を掘り起こす昴。よく見ると抜き身の剣やらナイフまで混じっている。
「ちょ、昴! 刃物には気をつけなきゃ!」
「えっ、あ、本当だ。気がつかなかった〜」
「はぁ…、先が思いやられますね」
昴だけに任せてたら胃に穴が空く。
それに私自身の武器も探さなきゃならないし、さっさと見つけてこの危険地帯から抜け出さなきゃ!
「昴の武器ってどんなの?」
「あ、僕の武器はアレだよ」
昴が指差す方へ目を向けると数多くの武器が壁に掛けられていた。
「どれですか」
「どれだよ(笑」
ぴょんぴょんとゴミの山から壁際に移動し、何かを手に取る昴。
「これこれ〜」
手に持っていたのは15センチほどの長細いケース。
「何が入ってるんだ?」
「針だよ」
「針!?」
針って縫い物する時に使うまち針とか縫い針だよね!
そんなのどうやって武器にするの!?
「あー、この針は縫い物する時の針じゃないんだよー」
「じゃあ、何の針?」
「針治療の針と特殊な針とか(笑」
針治療……。
若い私達にはあまり馴染みのない針灸って治療法に使われる針か。
確か、お灸も一緒にするのよね〜。
「それ、武器になるの?」
「まあ、使い方によるかな。きちんとツボに刺せば動きを封じたり、ダメージを負わせたり出来るから」
「そういうものなんだね」
昴の家は昔から針治療を営む針灸院だったらしく、幼い頃からその治療を間近で見て技を盗んでいたらしい。
針くらいなら銃刀法違反には引っかからないんじゃないか?と聞いてみると針の数が多いからと返された。
どんだけ、多いんだよ………。
「って、なんで武器の場所が分かってる昴が掘り起こしてんの!?」
「えー? 彩君の武器探さなきゃ〜」
「いや、分かるけど! そこ、抜き身のナイフ!」
「あー、ほんとだー」
はい、振り出しに戻るっと。
双六じゃないんだからさ、進展しようよ!? 探す手を緩めた私が悪いのか!?
内心ハラハラしている私を冷めた目で見てくるグラキシア。
「ほらほら、彩。早く武器を見つけないと昴が怪我をしてしまいます」
「探します、今すぐ探します!」
んー、探すって言ってもなぁ〜。
私が使える武器って、そもそも何だろ?
「あー……」
「あれ、どうしたの?」
「いや、僕が扱える武器が分からない(笑」
「あっ(察」
だって、このゴミの山!
ゲームとかで見る銅の剣とか鉄の剣とか無いんだよ!?
変な方向に曲がった剣とか真ん丸の輪っかとか何に使うんだよ!
「あー、もともとこの山は冒険者達が使いこなせないって理由で出来たから扱いにくい武器ばっかりなんだよね〜」
「何その裏設定!?」
通りでわけのわからない物ばっかりがあるわけだ。
「僕の針もこの山の中から掘り出したんだー」
「マジか……」
確かにあの針は本職の人が見ないと何に使うかさっぱり分からん代物だよね。
「はぁ…、これ見つかるのか?」
抜き身のナイフや剣を避けながら探し続けること20分。
探せど探せど、扱えそうな武器は出てこない。
『リリンッ…』
「んっ?」
「彩、どうしました?」
「いや、今。鈴の音が……」
「えっ? 僕には聞こえなかったけど…」
確かに聞こえた気がしたんだが気のせいか?
『リリンッ…』
「んー、やっぱり聞こえる」
「空耳ではないのですか?」
「多分、違う。シアにも聞こえないの?」
「はい、全く」
どうやら、鈴の音は私以外の誰にも聞こえないらしい。
首を傾げながら、山を掘り返していると昴が思い出したように手を上げた。
「今、思い出したんだけど」
「んっ? 何を?」
「 鈴といえばこの前、ギルドマスターが使えないからって持ってきた剣があったかも!」
「剣?」
「ちょっとしか見てなくて覚えてないんだけど、確か日本刀だったと思う。柄の所に銀色の鈴が結びつけられてた気がする」
じゃあ、この鈴の音はその日本刀から響いてるのか?
「けど、その日本刀。抜けないらしいんだ」
「はあ!?」
「マスターが色んな冒険者に鞘から引き抜かせようとしたんだけど、誰も抜けなかったって言ってた」
「おいおい、それって使えないどころの問題じゃないだろ」
「むしろ、武器というより工芸品ですね」
『リリンッ……』
抜けない日本刀。
鞘から抜けなければ刀として使い物にならない。
けど、私にしか聞こえない鈴の音は問いかけるように鳴り続ける。
「とりあえず、その日本刀を探そう!」
「えっ、彩君本気!? 抜けないんだよ!?」
「まあ、いつまでもこの山を掘り返すよりもマシでしょう」
「そうそう。日本刀なら爺ちゃんに仕込まれたから扱えるし」
祖父の家は剣道場で祖父はそこの師範だったのだ。それ故に幼い頃から祖父の家に行けば竹刀を手渡され、刀の扱い方を叩き込まれた。下手な武器を使うより、日本刀の方が使い方を知っているだけに安全かもしれない。
「そういうことなら探すしかないね!」
「おー、手伝わせてごめんな」
「いいよいいよー!」
探す物が特定された事で捜索は急激にスピードアップする。
「コレは鈴が付いてない」
「こっちも違う〜」
「コレは論外ですね」
各々が掘っては投げ掘っては投げを繰り返すこと15分程。
「あったー!! コレだろ、昴!」
「そう、それだよ!」
剣身の長さは75cm程、艶のある漆塗りの鞘に収められた刀。その柄頭には銀色の鈴が革紐で編まれた紐で結ばれていた。
「さてと、見つかったはいいけど問題は」
「抜けるか否かですね」
「抜けなかったら他の武器を探さなきゃ〜」
流石にこれ以上、この危険な山を掘り返す事は避けたい。
『リリンッ!』
鈴の音が強く響く。
「そんだけ呼んでんだ、呼んだなりに誠意を見せやがれ!」