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はぐれ召喚師の気まぐれライフ  作者: 柚子ポン酢
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シエロ・ジェードの考察


今回はシエロ視点でお送りいたします。



「始まったか・・・」


あの子は今、表現し難い闇に包まれているだろう。実際には目を閉じた状態で水晶玉に触れているだけなのだが、意識は水晶玉の中に引き込まれているはずだ。


「シエロ。何故、彩に本当の事を言わなかったのだ?」


「言ったら怖がるじゃないか」


召喚の儀は新たに召喚師となる生徒が水晶玉に込められた数多の召喚獣達と対話し、その中から自分を認めてくれるパートナーを探し出すこと。

しかし、ただ単純に対話するだけでは対象となる生徒の本質を理解出来ない。だからこそ、精神が不安定となる闇に引き込み、生徒の本音を引き出すのだ。


「それにこの試練さえ乗り越えられない生徒は召喚師に向かない」


召喚師は数多くの魔物や精霊などと会話し、時に力づくで使役する。

時には命の危険に晒されるだろう、時には相手を殺すことにもなるだろう。生半可な覚悟で召喚師になっても、それに耐えきれずに召喚師を辞める者や自らの命を絶とうする者がとても多い。

そのため、召喚師になると決めた者に召喚の儀という試練を与えることでその者の覚悟を問う。


「彩君の魔力は落ち着いているね」


「うむ。この前きた生徒は早々に魔力を暴走させたが」


魔力は人の感情の発起に反応する。

強い怒りや悲しみ、恐れを感じると増幅し、果てには暴走する。

彩君の魔力は穏やかな水面のようにゆらゆらと揺れはするものの大きな波にはならない。


「あの子は今、どんな話をしているんだろう?」


「案外、笑っておるかもしれんぞ?」


「そうだね」


辻鞍 彩。

神官からの報告では異世界から迷い込んだ異世界人。魔力測定によると属性は水でその魔力は強い。歳は18。その年頃にしては自分の考え方を持ち、意見をはっきり言う性格のようだ。


「報告を読めば読むほど、変わった子だね〜」


「召喚獣と友達になりたいなどと言うくらいだ、変わっていて当然だろう」


「僕はゼファーと友達だと思っているよ?」


「何を言う。初めて会った時、半泣きになったお前が」


「ぐっ、そ、それはしょうがないだろう! 僕はまだ、小さかったし!」


僕とゼファーが出会ったのもこの召喚の儀だった。彩君と同じように水晶玉に触れ、闇に引き込まれた時、怖くて不安で仕方なかった。

そんな精神状態の中、数多の声が問いかけてくるのだ。お前の望むものは何かと。


「あれは恐怖以外の何物でも無いよ」


望むものは何かと聞かれた時、僕は迷わずここから出してくれと願った。召喚師になる夢も何もかもかなぐり捨てて、ただこの闇から逃げ出したいと思ったんだ。

そんな時、ゼファーの声が聞こえた。


「お主が逃げたいと望むなら、我が力を貸してやろう」


逃げると普通に考えれば否定され、叱咤されるであろう行為。

ゼファーはそんな行為に力を貸すと言った。信じられなかった、逃げるなんて許されない、周りからお前は強い魔力を持っているのだからやれるはずだと大きく期待されていたからだ。


「逃げることは許されないことでは無いのだ、幼子よ」


逃げて逃げて逃げた先で掴めるものも必ずある、逃げて初めて見えるモノがあるのだと、ゼファーは僕に言い聞かせてくれた。許されるのだと周りからの期待に押し潰されそうになった僕をゼファーは優しく包み込んでくれたのだ。

だから・・・


「僕に力を貸して」


「それをお主が望むなら」


そう言葉を交わした直後、闇は砕け、召喚の儀が終わった。


「懐かしいね・・・」


「そうだな・・・」


あの子はどうこの試練を乗り越えるだろう。召喚獣と友達になりたいと虐げられている召喚獣を助けたいと言った珍しい少年。


「シエロ。あの子は大丈夫だろうさ」


ゼファーが自信満々っといった様子で言う。


「何故、そう思う?」


「我があの子を好ましいと思うからだ」


そう答えた瞬間、僕の思考は氷のように固まった。


「・・・ゼファーって、ショタコン?」


「その頭に穴を開けてやろうか?」


いつでも開けられるとばかりに体制を整えるゼファーに慌てて弁解する。


「だ、だって、ゼファーがそんな事言うの珍しいから!」


「ふんっ、我が言っているのはそんな事ではないわ!」


ゼファーが言うには彩君の波長は召喚獣にとって、とても落ち着くものなのだそうだ。

そして、彼の考え方や性格などは個人的に好ましいらしい。


「波長って、そんなに珍しいの?」


「うむ。ごく稀に見るくらいだな」


そんなに珍しいモノなのか。

僕も十年近く教師やってるけど、人間の僕には波長とかよく分らないんだよね。


「っ!?」


突然、部屋の空気が変わった。


「シエロ!」


「分かってる!」


穏やかだった彼の魔力がゆらりと揺れながら増幅する。魔力の暴走かと思い、身構えたのだが・・・


「暴走じゃない・・・?」


ゆらりと揺れた魔力は彼を中心に集まっては離れを繰り返しているものの暴走ではないようだ。

とりあえず、ホッとして体に入った力を抜く。


「どうやら、水晶玉の中で彩の感情が揺らいだようだな」


「うん。だけど、こんな魔力の変動は見たことがないよ」


数多くの召喚の儀を見てきた僕でさえ、こんな事態は初めてだ。

ゆらりゆらりと揺れる魔力に触れないように後退し、様子を伺う。


「ゼファー。どう見る?」


「暴走しておるわけではないのだから、様子見だの」


「ですよねー」


彼の魔力に触れないように後退しているとついにはゼファーの隣にまで追いやられてしまった。


「追い出されたな、シエロ」


「うん」


どうやら、僕を魔法陣から追い出すのがこの魔力の目的だったようだ。

対象者を追い出した後、彼の魔力は落ち着きを取り戻し、ゆらゆらと揺れる。それは召喚の儀を始めた時と変わらないように見えたが、ゼファーが翼をほぐすように羽ばたいた風がとても冷たいことに気がついた。


「なっ!? この部屋、こんなに寒かったっけ?」


「そんなに寒いのか?」


明らかに召喚の儀を開始した時の室温と今の室温は変化している。

原因は考えるまでもなく、彩君だろう。


「一体、何を召喚する気なんだ?」







初の主人公以外の視点。

上手く書けてるか心配です(汗

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