召喚の儀
「こらこら、そっちじゃないよ。こっちこっち〜」
廊下の装飾品に目を奪われ、道を外れそうになったところをシエロ先生に呼び戻された。
「あ、はい!」
無事に学校へ到着した私ですが、早々に迷子になりかけてます。
何故なら、この学校。
広い上に内部が迷路の様に入り組んでいるため、何処から入ってきたとか出口が何処にあるか分からなくなってしまうのだ。
内装デザインは悪くないのになぁ〜。
「これは想像以上にヤバイかもしれない・・・」
「彩は方向音痴なのか?」
肩に止まったままのゼファーが不思議そうに声をかけて来た。
方向音痴では無いはずなのだが、流石にここまで入り組んだ建物は初めてなので地味にヤバイ。
「入学したら地図作ろう・・・」
「うまく出来たら移させてくれ」
「先生はもう迷わないんじゃないんですか?」
「いや、たまに迷うんだ」
「(マジか・・・)」
まさか、先生まで迷ってる校舎とは恐ろしい。
「あ、ここだよ」
シエロ先生が一つの扉の前で立ち止まった。
その扉は今まで通り過ぎたどの扉とも違うデザインと幾つもの鍵穴に守られた厳重な作りだった。
「ちょっと待ってね〜」
先生がズボンのポケットから、鍵束を取り出し、次々と鍵を開けていく。大量の鍵の中から正しい鍵を見つけ出して行く手捌きに感心しながらも自分なら覚えられないなぁーと遠い目をしそうになった。
「よし、これで最後っと」
その声と同時にガチャリっと大きな音を立てて、扉が開かれる。
部屋を覗くと神殿で使った様な大きな水晶玉が置かれた台を中心に部屋全体に広がる様に魔法陣が描かれている。
「ここが召喚の儀を執り行う場所。この部屋には召喚師になる者が魔力を扱いやすくなる様に魔法がかけられている」
「あの魔法陣ですか?」
「そう。それ以外にも魔力の暴走を防いだり、暴走した時に部屋が壊れない様に強化魔法もかけられているから安心して?」
あれですか、壊そうとしても壊れないから何やっても平気だと言うことだろうか。
部屋へと入っていく先生に続き、入室すると真後ろにあった扉がパタンと閉まり、壁と同化する様に消えた。
「えっ!? 扉が!」
「ああ、扉はどうしても強い衝撃とかで壊れちゃうから儀式が終わるまでああやって壁と同化するんだ」
・・・実質、召喚の儀が終わるまでこの部屋から出しません的な宣言の様に聞こえたのだが?
まあ、確かに扉は風とか衝撃波とかに弱いからあんな感じにしといた方がいいのかもしれないと思い直した。
「そうなんですか・・・」
「うん。じゃあ、こっちへ。ゼファーは魔法陣から出てな」
「うむ」
私と先生が水晶玉を挟む形で立ち、ゼファーは魔法陣の届かない場所にある止まり木へ。
「さて、召喚の方法を教えるよ」
「はい、お願いします」
「まず、召喚とは契約を結ぶことから始まる」
「契約・・・」
悪魔とか妖怪とかを使役する時も契約を結ぶんだよね。それと同じなのかな?
「召喚師の場合、召喚するために必要なのは魔力。魔力は召喚されたモノが吸収する栄養みたいな物だね」
「つまり、ご飯ですか?」
「うん、そう考えてくれて大丈夫だよ」
召喚されたモノは召喚者の魔力を糧とし、活動するらしい。
召喚者の魔力が足りなくなるとあるべき場所に帰ってしまうので要注意なのだとか。
「魔力の消費量は召喚されたモノの強さによって変わってくるから自分の魔力に合った子を選ばないと魔力不足で倒れるよ?」
「倒れるんですか!?」
確かにゲームとか小説では魔力の使い過ぎは気絶したり、命に関わったりしてたけどここでもなのか!!
「というわけで、魔力の消費量には気をつけてね」
「はい」
気をつけますよ、そりゃあもう。
倒れたくもないし、死にたくないからね!
「次に召喚方法。例えば、召喚対象の一部を用意して召喚する方法とか」
「鱗とか羽根とかですか?」
「そうそう。その他に召喚対象に懐かれたとか認められたといった場合、その場で契約を結ぶなどといった例もある」
「ふむふむ」
「そして、契約後は呪文や名前を呼ぶことで召喚が可能になるんだ」
「なるほど・・・」
呪文とか名前って召喚した子と一緒に考えればいいのかな?
私、あんまりネーミングセンスないんだよねー。
「で、今回やる方法はこの水晶玉を使います」
どどーんっと目の前にある水晶玉を見つめる。やっぱ、アレと同じ物に見える。
「神殿で魔力の強さを測ったやつによく似てるんですけど、これは?」
「うん、見た目だけかな」
「見た目だけなんですか」
ここで魔力測っても意味ないよね、そりゃ。
「この水晶玉の中には召喚獣の卵の様な物が入っている、その卵はこの世界に存在する全ての生物を元に作られ、それらと変わらず生きている」
「卵・・・」
先生曰く、初心者にパートナーとなるモンスターを召喚しろと言ってもリスクが大きすぎるため、この様な卵の状態から育てるのがベストらしい。
それに自分と共に成長することで絶対的な信頼関係を築くという狙いもあるそうだ。
「この水晶玉の中からパートナーを探し出してもらうのが召喚の儀なんだよ」
水晶玉の中で眠っている沢山の召喚獣達はパートナーが現れるのをずっと待っているのだと先生がふわりと笑う。
「さあ、はじめよう! 水晶玉に触れて意識を集中させて」
「はい・・・」
そっと、壊れ物に触れる様に水晶玉を撫でる。
すると不意に辺りが暗くなり、先生やゼファーの姿が見えなくなる。
「先生!?」
なんだこれ、聞いてないぞ!?
急いで辺りを見渡すがそこには深い闇が続いていて何も確認出来ない。
「新たに召喚師を志す者よ」
「っ!? 誰!」
闇の中から突如、響いた声にビビる。
仕方ないだろ!?こんな状況なら誰だってヒビるわ!
「我らに名はない、あるのは問いのみ」
「新たに召喚師を志す者よ、我らの問いに答えよ」
1人だけだと思った声は次々と増えていく。
「そなたが求めるものはなんだ?」
「何者にも負けない力か」
「それとも、無限に湧き出る知恵か」
この声の主は私の答えを待っている。
そして、この闇は召喚の儀が開始されてから現れた。ということはこれは召喚の儀の一部?
だったら・・・
「私が求めるものは力でも知恵でもありません」
「力も知恵も要らぬと言うならば、そなたは何を求める?」
「私はね、異世界人なの。この世界で、本当の私を曝け出せる人がまだ居ないの」
両親も知り合いさえ居ないこの世界で私が求めるもの。
「だからね、友達が欲しいの」
「友達?」
闇が困惑した様に揺れる。
こんな答えが帰ってくるとは思っていなかったらしい。
「そう。くだらない事で笑ったり、怒ったり、泣いたり出来る友達」
それにっと闇に私がどんな性格なのか、どんな事が好きで嫌いか、たくさん話した。
「だからね? 面倒臭がりで協調性がない私と友達になって」
闇に向かって両手を広げ、私は笑う。