結果オーライ!
ゼイブさんに担がれたまま、神殿から星屑亭の距離をものすごい勢いで運ばれ、瀕死な彩です。
あれですね、人に担がれたまま移動されると乗り物酔いするんですね、知りませんでしたよ!
「彩君、大丈夫ですか?」
「クルル・・・」
星屑亭に到着し、地面に降ろしてもらった。
まだ、揺れている感覚がして足元がおぼつかず、フラフラする私の腕の中でノーチェが心配そうに鳴く。
「死にそうです」
「ちょっと速度が早かったようですね、すいません」
フラフラする私が転けないように手を添えながら、申し訳なさそうに背を撫でるゼイブさんに次からはもう少しゆっくりでとお願いしておいた。
反映されるかは時と場合によるだろうけど、出来れば早めにされて欲しい。
乗り物酔いの気持ち悪さが落ち着き始めた時のこと・・・
「バンッ!」
突然、星屑亭の扉が開き飛び出してくる人影が一つ。
「おかえりー!」
「えっ、アムさんっ!?」
そう、飛び出してきたアムさんだった。
しかも、飛び出してきた勢いのまま抱きしめられ、収まりかけていた気持ち悪さが復活する。
「団長さんから聞いたわ! 住む所が無いんですってね」
「おや、あの場に居なかったはずの団長が何故そのことを知っているのでしょう?」
「ピチチッ」
いつの間にか、安全な位置まで退避していたゼイブさんとノーチェが不思議そうに首を傾げている。
「そりゃあ、俺だって仕事するさ。それとアム嬢、少年が死にかけてるぞ」
「えっ!? 彩君、大丈夫!!?」
開いたままの扉から顔を覗かせるように現れた団長さんがアムさんの腕の中から私を救出する。
「少年、生きてるか?」
「な、なんと、か・・・」
「よし、瀕死だな」
きゃぁぁぁ!と悲鳴を上げて、アムさんが星屑亭の中へ走る。
「リム!リムー!彩君が死んじゃう!!」
「ええっ!? アム、一体何やったの!!」
アムさんの叫びにリムさんが飛んできた。
これは訳を話さないとアムさんが叱られる!
「アムさん、半分は違います!」
「そうですよ〜、彩君の症状の原因は乗り物酔いです」
「・・・乗り物酔い?」
ゼイブさんが私がどうして乗り物酔いになったのかなどをリムさんに説明してくれた。
「けど、半分はアムが飛びついたからなのよね?」
「う、そ、それは。ごめんね、彩君」
「大分、落ち着きましたから大丈夫です」
団長さんに支えられたまま、大丈夫ですよーっとアピール。
説明の間に気持ち悪いのが収まってきたのは本当だが、こんな些細な事でリムさんとアムさんが喧嘩するのは見たくなかったのが本音である。
「それなら良かったわ。そういえば、彩君にお話があるの」
「・・・? なんですか?」
宿代の事ならまだ、払えませんと言うしかないのだが。
「まあまあ、立ち話もなんだから食堂に行きましょうよ!」
さっきまで落ち込んでたはずのアムさんがはいはーいっと提案する。
アムさんは感情の変化が激しいらしい。
「そうね、彩君を休ませなきゃ」
「先に行って、お茶の用意しとくね!」
そう言って駆け足で食堂へ向かうアムさんに続いて、私たちもゆっくりと歩き出す。
「それにしても、団長。どうして、彩君の住む所が無いと分かったんですか?」
食堂へ向かう途中、ゼイブさんが思い出したように団長さんに尋ねる。
「それがな〜」
団長さん曰く、牛に追いかけられながら走っている時に異世界人居住区の辺りまで行ってしまったらしい。
その時に居住区の定員が一杯だと言うことを聞いたんだとか。
「で、星屑亭で従業員募集してたの思い出して、今に至るってわけだ」
「サボりじゃなかったんですね」
「どうして、そんなにも残念そうなんだ。ゼイブ」
お仕置き出来なくて残念なんでしょうねと言いたいけど言えない。
だって、ゼイブさん怖いもん。
団長さん達が戯れ合ってる間に食堂へ到着。
「さあさあ、座って座って」
「はーい」
リムさんに案内された窓際の席に座り、アムさんがお茶とお菓子を持ってきて話し合いの準備は完了した。
ちなみにノーチェは食堂に入った途端に定位置の止まり木へ。
「(もふもふしたかった・・・)」
「じゃあ、本題に入りましょう?」
「はい」
食堂の空気が変わった。
アムさんが真剣そうな顔をして切り出す。
「彩君、住む所が無いのよね? 団長さんから聞いたわ」
「はい、異世界人居住区の定員が一杯みたいで」
「住む所が無かったら困るわよね?」
「困ります。野宿は嫌ですから」
本当に野宿は嫌だ。
そもそも、野宿なんて学校の行事でキャンプした時以来なのだ。
そんな状況で野宿したって不安しかない。
「だったら、うちにいらっしゃい」
「えっ?」
アムさんとリムさんがにっこりと笑う。
何か面白いことを思いついた子供のようなそんな顔だ。
「今、星屑亭では従業員を募集しているの」
「あ、その話はゼイブさんからちょっと聞きました」
むしろ、それを当てに星屑亭に来ましたとは流石に言えなかったが。
「あら、それなら話が早いわ!彩君には住み込みで従業員として働いて欲しいの!」
「知らない人を雇うよりも彩君みたいな可愛い子が入ってくれた方が嬉しいわ!」
リムさんとアムさんが顔を見合わせながら言う。
「へぇー。良かったじゃないか、少年」
「住む所が決まりましたね、彩君」
団長さんとゼイブさんが私の頭をくしゃくしゃと掻き回して笑った。
「本当にいいんですか? 僕はどんな世界から来たかも分からない異世界人ですよ?」
「あら」
「あら」
「「そんな事、関係ないわ! 彩君は彩君だもの!」」
そう言い切った二人はとても嘘をついてるには見えなくて。
「少年。好意は受け取っておくもんだぜ」
「そうですよ、甘えることは悪いことではないのですから」
団長さん達は力を抜けとばかりに肩や背中を叩く。
「っ・・・」
私はまだ何処かで、みんなの事を警戒していたのかもしれない。
わけも分からない世界で助けてくれた人、助けようとしてくれる人がいるその事実がとても嬉しくて。
まだ、分からないことが沢山あるけどこの人達のことは信じてもいいと思った。
「よろしく、お願いします」
この世界に来て初めて、ちょっとだけ泣いた。
主人公ちゃん、やっと泣きましたね(笑