住むとこがない!
更新が遅れてすいません!
・・・あれだけ、バーンと決意しといてなんですが。
早々に問題が発生しました。
「・・・住むとこがない?」
「はい、リーベルタールにある異世界人居住地が満員なのです」
本人よりも落ち込んだ様子でしょぼくれるドラグさんの前で遠くを見つめる私という奇妙な光景が資料室に出来上がってしまった。
ドラグさんが言うには異世界人を受け入れ、自活できるようになるまで面倒を見てくれる施設がこの街にあるらしい。
しかし、その施設の定員が一杯なので私の住む場所が確保できないという。
「あー、どうしましょう・・・」
「どうしましょうか」
私が所持している物でも売って宿に泊まるしかないのだろうか?
といっても、所持品は事故に合う前から身につけているロザリオくらいのもので。
「あの〜」
今まで黙り込んでいたゼイブさんが手を上げて言う。
「はいなんでしょう、ゼイブさん」
「もしかすると住むところが見つかるかもしれません」
「えっ?」
「実はですね〜」
ゼイブさんが言うには知り合いの宿で従業員を募集しているとのこと。
そして、うまく行けば住み込みで雇ってくれるかもしれないという。
「・・・うまく行きますかね?」
「大丈夫ですよ、彩君は気に入られてますから」
ゼイブさんが何かを企んだように笑う。
「あの、もしかして、その宿屋って」
「はい、星屑亭ですよ」
ああ、やっぱり。
この人のこの笑みは自分にとって面白い事を思いついた時の笑みだ。
よし、覚えたぞ。気をつけよう。
「星屑亭というとリムさんとアムさんの営む宿屋ですね」
「はい。彩君とも面識がありますから、相談に乗ってくれると思います」
「そうですか!それは本当にありがたい」
ドラグさんが立ち上がり、私の手を取り、ニコニコと笑う。
なんだこの人、癒される。
「彩君、良かったですね!」
「雇って頂けると嬉しいですね」
星屑亭かぁ。
リムさんは優しいし、アムさんは明るいし、ノーチェも居る。
それに従業員になれば収入も得られるから一石二鳥だ。
「彩君、二人に相談してみましょう」
「はい!」
「あ!」
「えっ?」
ほのぼのとした雰囲気の中、ドラグさんが焦ったような声を上げた。
「大切な事を忘れていました。彩君は召喚師になりたいのでしたね?」
「はい」
「それでは住むところが決まりましたら、召喚師育成学校へ入学して頂きます」
「・・・学校!?」
ドラグさんが言うにはリーベルタールにはそれぞれ、案内された職業に合わせて育成学校が存在するとのこと。
この世界でも学校に通うことになるとは思わなかった。
「育成学校ではこの世界の歴史や常識、召喚師の基礎を学んで頂きます」
育成学校はこの世界で生きていくためのスキルを学ぶ場所らしい。
確かに召喚師になりたい!って言っても何かを召喚するにしても何していいか分からないのが現状なわけで。
「なるほど、分かりました」
「それじゃあ、団長を拾ってから星屑亭へ向かいましょう」
「では、玄関にご案内しましょう」
「(入って来た所って、玄関だったんだ)」
神殿の玄関へと案内するドラグさんの後をついて行きながら団長さんの身を案じる。
「団長さん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。団長は不幸体質ですが、悪運も強いので」
あの人、悪運も強いのか。
何というか生命力強そうで安心した。
「彩君。無事、星屑亭で雇ってもらえることを祈ります」
「ドラグさん、ありがとうございます」
ドラグさんに見送られながら、神殿を後にする。
「さあ、団長を探しましょう」
「探すって言ったってどこを探すんですか?」
そうですね〜っと顎に手を当てて考え込むゼイブさんの隣で途方に暮れていた時。
「ピチチッ!」
ボスンッと胸に飛び込んできた藍色の物体にたたらを踏む。
「えっ、ノーチェ!?」
そう、星屑亭にいるはずのノーチェだった。
「なんで、こんなとこにいるの? お散歩?」
「クルルル♬」
上機嫌で擦り寄ってくるノーチェに聞いてみるもスルー。
どうしましょうと隣にいるゼイブさんを見上げるもゼイブさんはゼイブさんでノーチェの足をじっと見ていて私の視線に気づいてくれない。
なんとも世知辛い。
「ノーチェ、ちょっと失礼しますね」
「ピチチッ!」
ゼイブさんはノーチェの足を軽く持ち、何かしている。
「どうしたんですか?」
「ほら、ノーチェの足に手紙が」
本当だ。ノーチェの片足には細長く折られた紙のような物が結びつけられている。
誰だ、ノーチェを伝書鳩の代わりにしたの。
「よし、取れましたよ」
「ノーチェ、大丈夫?痛くない?」
「クルルル♬」
足を触られていたというのにノーチェは上機嫌。
なんで、こんなに機嫌がいいんだろう。
「彩君」
「はい?」
ノーチェをもふもふしながら、ゼイブさんを見上げる。
するとゼイブさんは何故か不機嫌気味で・・・。
「団長は星屑亭にいるようです」
「はっ?」
不思議そうに首を傾げる私にずいっと結びつけられていた手紙を見せてくれた。
内容は・・・。
「疲れたから星屑亭で待っている。ちゃんと牛は捕まえて飼い主に引き渡しておいたので安心しろ。団長より」
・・・ノーチェを伝書鳩代わりにしたのはあんたか!
「探す手間が省けたのはいいですが、何故本部に帰らずにサボっているんでしょうかね。あの人は」
ふふふ、今度の訓練では覚悟しなさいなどとブツブツと呟き続けるゼイブさんに軽く恐怖を覚えた。
「それじゃあ、星屑亭に戻ればいいんですねっ!?」
星屑亭に向かって歩きだそうとした私の体がふわりと浮く。
この感覚、まさか!
「ええ、戻りましょう」
にっこりと笑っているだろうゼイブさんにまたしても担がれてしまった。
「ゼイブさん、突然は驚きます」
「ふふ、すいません。早くあの人にお仕置きしたかったので」
哀れ、団長さん。
しかし、ノーチェを伝書鳩代わりにしたんだからざまぁみろ。
「ピチチ♬」
いきなり担がれ、驚いて逃げるかと思ったノーチェは意外にも落ち着いていた。
今だに上機嫌なのは一体、何故なんだ。
「さあ、行きますよ」
「はーい」
ゼイブさんはイタズラ大好きですね(笑