その神官、癒し。
「さあ、ここが神殿です」
「デカい・・・」
ストンっと地面に落とされ、見上げた神殿は予想以上に大きい物で。
ローマにあるパンテオンのようだ。
「こんな大きさですが、住んでるのは神官一人なんですよ」
「一人!? 掃除が大変ですね」
「ポイントはそこですか?」
笑いを堪えているゼイブさんに何処か間違っただろうかと首を傾げる私。
通行人がみたら、それはもうおかしな光景であろう。
「笑わないでください、本当に大変そうだと思ったんですよ!」
「クスクス、分かっていますよ。さあ、入りましょうか」
神殿へと続く階段を登り始めるゼイブさんの後に続く。
しかし、ゼイブさんの肩は今だに震えていて、いつか言い負かしてやると心に決めた。
「さて、神官殿はどこでしょうかねー?」
「こんなに広いと見つかるか不安になって来ますね」
神殿内に入るとそこは見た目通り、とても広くて人の気配がない。
大理石のような綺麗な石をこれでもかと使用した内観は神聖的で圧倒されてしまう。
「ドラグ殿ー! いらっしゃいませんかー!」
「ちょ! 神殿で大声だしていいんですか!?」
神殿の雰囲気に飲まれて借りた猫の如くじっとしていた私の横でゼイブさんが神官らしき人の名前を大声で叫んだのだから驚き以外の何物でもない。
「こうでもしないと見つからないじゃないですかー」
「そ、それはそうですけど」
ああ、ものすごく爽やかな笑顔ですね。
私の反応を楽しんでるのか、わざとなのかこの人!
「ガラガラ・・・」
「っ!?」
静かだった神殿内に微かに響く音にビクつく。
「おや、奥にいるようですね。行きましょう」
「あ、はい」
ゼイブさんは動じること無く、コツコツと足音を響かせながら神殿の奥へと歩いていく。
その後ろをちょこちょこついて行くしかないのだが、流石にちょっと怖いなぁー。
「怖いですか?」
何故、バレたし。
「えっと、ちょっとだけ?」
「大丈夫ですよ、あの音の主は神官殿ですから」
いや、なんであんな音がするのかが気になるわけで神官があんな音出してたらそっちのが怖いよ。
「・・・ぅ・・・ぅぅ・・・」
「っ!?」
「この部屋のようですね」
ゼイブさんが一つの部屋の前で足を止めた。
ドアに書かれた文字は資料室?
というか、この世界は日本語圏内なのかそれとも私が読めるようになってるのかよくわからない。
「彩君、入りますよ」
「はい・・・」
扉を開け、中に入るとそこには数え切れないほどの本、本、本。
資料室というよりも図書館レベルの本の数だ。
「すごい・・・」
前の世界では本の虫とまで呼ばれた私にとっては天国に近い場所に思わず、ほぅっと息を飲む。
「う・・・うぅ・・・」
「っ!?」
さっきから、この反応ばっかりしてますが本当にビビるんですからね!?
ビクビクしながら、辺りを見渡すと床に不自然にできた本の山が・・・。
「あの、ゼイブさん。もしかして・・・」
「ええ、そのもしかしてですね」
あー、やっぱりそうなんですか。
漫画とかアニメではよく見たことがある本に埋れた人が今まさに目の前に。
「た、助けましょう!」
「そうですね!」
一目散に本の山に駆け寄り、上からゆっくりと本を退けて行く。
中にはものすごく重い本があったりして、それはゼイブさんにお任せした。
しばらくすると本の下から、白い布が見えてきた。
「ゼイブさん! もう少しです!」
「ドラグ殿〜、生きてますか〜?」
「生きてなかったら困ります!」
「うぅ、生きてます・・・」
本の下から現れたのは体をすっぽりと隠すような白いローブに身を包んだ男性。
「大丈夫ですか?」
「はい・・・、お騒がせしました」
どうやら、台に登って資料整理をしていたところ、ゼイブさんの声に驚いて本棚と衝突。
そして、その衝撃で台から落ち、上から本が落ちて来て埋まったらしい。
「助けて頂きありがとうございます。君は異世界人ですね?」
「えっ、分かるんですか?」
「はい、神官は異世界人を導く存在ですから」
神官って、神に仕えてるわけじゃないのか?
こっちとあっちで意味が違うだけなのかなー。
「辻鞍 彩といいます。どうか力をお貸しください」
「私はドラグ・エスペランサ。貴方を導き、力を貸しましょう」
ポワンっと微笑んだドラグさんはとても暖かくて気持ちのいい雰囲気を持っていた。
何というかノーチェによく似た感情が芽生えてくる。
「(この人、癒しだ・・・)」
神官殿登場です(笑