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アルバーナの軌跡  作者: シェイフォン
第一章 国の基本は人集めから
9/24

全員集合

ようやくアルバーナ陣営が全員出揃いました。

他にも人物は登場するのですが中立または敵役なので、アルバーナの味方は彼女達だけになります。

「だからそれは偶然だ! 決して意図したわけではない!」

 アルバーナは拳を振り上げて潔白を訴えるも周りからの圧力が下がるわけでもない。

「ほう、つまり無意識で行っていたのだな。なおさら性質が悪い」

 と、フレリアから駄目出しを喰らう始末である。

「何故だ? 何故こうなった?」

 アルバーナは内心頭を抱える。 

 彼は史上最大の窮地に陥っていた。

 アルバーナはその性格上、奇異な視線に晒されることが多いのである程度抵抗が出来ている。

 そして国を創ろうというのだ。

 いわれのない非難も、無責任な評論も全て受け入れる覚悟がある。

 しかし、それでもなお今の状況は針の筵であった。

「状況を整理しよう」

 待ち合わせ場所にギール商会から派遣されたアメリアが先にいたのは良い。

 メイリスも待っていた。

 そして時間きっかりにフレリアが来たことにアルバーナは内心口笛を吹く。

 だがしかし。

「すまんな、クークがどうしてもと頼み込むから連れて来てしまった」

 フレリアを釣るために利用した彼女がフレリアと共に来たことは想定外であった。

「は、始めまして。私はクーク=バースフィールドです。白魔法使いです」

 頭巾から栗色の髪の毛が見え、大きな瞳とブカブカなローブから小動物を連想させる。

 フレリアの後ろに隠れて挨拶する様子も相まって庇護欲を非常に楚々られてしまう。

「白魔法使いか……」

 アルバーナは腕を組んでクークを吟味する。

 白魔法使いというのはメイリス達魔法使いと対をなす存在であり、主に癒しを司る。

 攻撃魔法も使えることには使えるが、気休め程度であり、それよりも白魔法使いの存在によって軍の士気が上がるため、多くの場合で魔法使いより重宝されている存在である。

「結構使えるかもな」

 行き先である南諸国は不安定な国が多く、倫理をものともしない悪党が幅を利かせている地域もある。

 そしてアルバーナはその一地域を乗っ取って国を建国する予定である。

 よそ者が国を創ろうというのだ。

 対話(相互理解)と多数決(協調)よりも血(犠牲)と鉄(軍隊)で訴えなければならない。

「やれやれ、本当に爺さんは凄いよな」

 ヨーゼフ翁は軍隊の存在を、嫌悪はしているが否定はしていない。

 力こそ全てだという教育を受けてきた者に対しては、こちらも力を示さない限りまともに話し合ってもらえないという。

 話し合えば必ず理解してくれるとほざく理想論とは一線を画す説にアルバーナは今でも心服していた。

「……おい? 何だこの空気は?」

 ここまで考えていたアルバーナだったが場の空気が尋常でなく重いことに気付いて戸惑う。

「……ユラス、あなたが集めたメンバーを見て思う所はない?」

 低く、威圧感のある声の調子で尋ねてきたメイリスの言に従ったアルバーナは周りを見渡す。

 魔法使い――メイリス=カナザール

 騎士――フレリア=イズルード

 商人見習い――アメリア=マーガレット

 白魔法使い――クーク=バースフィールド

「中々良いパーティーじゃないか」

 後は兵士さえ揃えば軍隊を創ることが出来る。

 彼等の士気を高めて結束させるのはアルバーナの役目であり、そして己の演説は兵士の心を奮い立たすことが出来ると自負していた。

「あ、アルバーナさん、少し違います」

 フレリアの背から顔を少しだけ出したクークはそう反論する。

「た、正しくはこうです」

 無口系ロリータ――メイリス=カナザール

 元気系ロリータ――アメリア=マーガレット

 小動物系ロリータ――クーク=バースフィールド

「なん……だと?」

 クークに指摘されて足元がぐらつくアルバーナ。

 確かに外見だけで見れば自分とフレリア以外成人しているとは思えない。

 これでは己がロリコンだと表現している様に見える可能性も――

「外見で人を判断するな!」

 恐ろしい予測を振り払うかのようにアルバーナは声高に否定する。

「爺さんも言っていただろう! 外見や身なりで判断する者や組織に待っているのは滅亡だけだと!」

 表面上だけで人を判断することなど不可能に近い。

 その人の真価が発揮されるのは逆境や非常時に置かれた時のみであり、意図的にその状況を作って判断するのが賢明だとヨーゼフ翁は言っていた。

「ユラス、話を逸らさない」

「メイリスよ。俺はそんなつもりなど毛頭ない」

 そう抗弁するアルバーナの背中に冷や汗が垂れる。

 メイリスの言葉通り、話を別方向へ逸らす意図は僅かにだがあった。

 アルバーナは国を創る過程での汚名なら喜んで被るが、それ以外の悪口は出来るだけ避けたいところである。

 どう大人びていようとアルバーナはまだ二十代。

 自分は潔白だと信じたい年頃である。


(師匠、まさかそんな趣向があるわけではないですよね?)

 アメリアは涙目でアルバーナを見やる。

 アメリアからすればアルバーナは突然現れたヒーローの様な存在。

 どん底でもがき苦しんでいた自分を助けてくれた救世主であった。

 人は尊敬する対象を神格化する傾向がある。

 ゆえにアメリアもそれに漏れず、アルバーナがロリコンであるわけがないと信じていた。

「あ――」

「何か落ちたぞ、マーガレット」

 少しだけ身じろぎしたせいかアメリアの裾から一片の羊皮紙が落ちる。

 それは何の偶然か風に流されてアルバーナの下に落下した。

「ほう……ここまでの餞別をくれるのか」

 アルバーナはその羊皮紙に書かれてある内容を確認して唇を捲り上げる。

 不敵な笑みを浮かべ、遠い場所に視線を向ける表情は先程のうろたえていた様子など微塵も無い。

 良く言えば勝機を見つけた将軍の眼。

 悪く言えば翼が生えた虎の眼。

「上司はこれ以上の品物が欲しければ、料金を払ってもらうという言伝をもらっています」

「その必要はない、今は十分だ」

 アルバーナはそう鷹揚に頷く。

「これだけあれば村の一つや二つ、楽に手に入る」

「おい、それはまさか」

 ここでフレリアが割り込む。

「そう、ギール商会から得られる武器と食糧の目録だ」

 アルバーナは羊皮紙をヒラヒラさせながら瞳を光らせる。

「これと人数を揃えて南諸国の一部を乗っ取る予定だ」

 そう答えるアルバーナの全身から覇気ともいえる強大な力が放たれていた。


 アルバーナ達の故郷であるラクシャイン王国は比較的治安が安定し、国民もそれほど不満を抱いていないため、国を創るなんて行為は相当な困難を要する。

 だからアルバーナはヨーゼフ翁が存命の時から国を創るに相応しい場所は何処なのか考えていた。

 旅人から入ってくる情報と世界情勢を吟味した結果、数多の国家が乱立し常に争っている南方地域に目を付けた。

 合併と吸収、そして分散を繰り返した南諸国に住む人民の心はすでに「誰でも良いから早く助けて欲しい」という疲弊の極地に立っている。

「アルバーナよ、侵略は褒められないぞ」

 フレリアが国同士の約束事を引き合いにアルバーナを諌める。

「国家の行方というのはその国に住む者が決めるものだ。他国である我らがあまりでしゃばるべきでない」

「イズルード……いや、フレリアで良いか。もう南諸国は自浄作用を期待できる段階をとうに過ぎているだろ?」

 フレリアの問いかけをアルバーナは両断する。

「空き家が盗人や咎人の住み処となって他人に危害を及ぼすように、人心を失った国家は速やかに滅びるべきなんだ」

 国家とはその国に住んでいる者のためにあり、それ以外の用途など無い。

「誤解を解いておくが、俺は国の主になるつもりはないぞ。単に国家の骨組みを決めるだけだ……まあ、改修の際に王となる必要があるのなら迷わず冠を抱くがな」

「それでは――」

 権力に染まり、結局は他の野心家と変わらん。

 そう続けようとしたがアルバーナは彼女の唇に手を当てることで制す。

「野心ありと判断すればフレリアが俺を殺すと良い」

 フレリアの視線を逸らさず、真っ直ぐ射抜くアルバーナは続ける。

「俺にとって最大の関心事は爺さんの国家論を実現させること。そのことを忘れてしまえば俺は俺でなくなる」

 アルバーナにとって最も恐ろしいことは当初の志を忘れ、他の有象無象と同じ存在に堕ちてしまうこと。

 名誉を、金を、権力を求めて尻尾を振る姿は最も唾棄すべきであり、それが自分も同じことをしてしまうと想像するだけで震えが止まらなくなってしまう。

「まあ、フレリアは爺さんが何を提唱したのか詳しく知らないだろう」

 アルバーナはニッコリと大きく笑みを浮かべた後に手を除ける。

「もし俺を諌めたいのであればメイリスに聞くと良い。俺の行動は爺さんの説が骨子ゆえに、そこから外れることは無いし、あってはいけない」

 それがアルバーナ自身が定めた制約。

 ヨーゼフ翁の提唱した国を創るために鬼でも悪魔にでもなる覚悟を持つ彼を唯一縛るものがヨーゼフ翁の説である。

「この際だから言っておく。もし俺がヨーゼフ=バレンタインが遺した説から、例え少しでも外れるようなことがあれば遠慮は要らない。どのような状況であろうとも迷わず俺を殺せ! それが俺を救う唯一の方法だ!」

 妥協は許されない。

 状況や体裁など、言い訳をした瞬間アルバーナの支えていたものが全て崩れ去る。

 生き恥を晒したくないアルバーナは皆に対していつでも殺すよう頼んでおいた。

「「「……」」」

 アルバーナの決死の覚悟が伝わったのか皆は黙り込み、何も言わない。

 それを了解とみなしたアルバーナは一つ頷いた後、踵を返して目的地へ向かう場所へと赴いた。

「フレリアさん……アルバーナさんがロリコン疑惑はいつの間にか有耶無耶になっていましたね」

「それが奴の上手い所だ。注意しておかないと話をすり替えられてしまうぞ」

 後方からクークとフレリアのヒソヒソ話が聞こえてきたが、もちろんアルバーナが反応することはなかった。

 

ここで第一章は終了です。

第二章は現在執筆中のため、完成の目処がつき次第投稿します。


ここまでお読み頂き誠にありがとうございました。

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