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アルバーナの軌跡  作者: シェイフォン
第一章 国の基本は人集めから
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酒場で

「何でも好きな物を頼んで良いぞ、メイリスよ」

「……マーガレットから搾取したお金なのに」

「搾取ではない、取引だ」

 アルバーナの大判振る舞いにメイリスはクールに毒を刺す。

 アメリアと別れた二人は近くの活気のある酒場にいた。

 “フレンリア”と銘打たれたこの酒場にはまだ陽が昇っているにも拘らず盛況で、あちらこちらのテーブルで冒険者や傭兵らしい連中が酒盛りをしている。

 そしてその中で一つのテーブルを二人が占領し、先に料理と酒をいくつか注文していた。

「本当にイズルードは来るの?」

 椅子に深く腰掛けたメイリスはアルバーナに問う。

「向こうも仕事の都合があるのだから、その関係で来れなくなるという可能性は」

「安心しろ、それはない」

 メイリスの懸念に対してアルバーナは自信満々に宣言する。

「賭けたって良い、フレリアは必ず来るぞ」

 一体どこからそんな確信が出てくるのか呆れるメイリスだが、アルバーナの性格を思い出して肩を竦める。

 アルバーナはやると決めたら必ずやり、その際の手段は取らない。

 有言実行と唱えればそれらしいが、言い変えると目的のためならば手段は問わない外道とも取ることが出来る。

「荒れなきゃいいけど」

 メイリスの脳裏には激昂したフレリアがアルバーナに斬りかかって刃傷沙汰になっている酒場の光景がありありと浮かび上がってしまった。


 メイリスの懸念は残念ながら現実のものとなってしまった。

 久し振りの再開というのは、通常なら笑顔で歓迎し合うか気恥ずかしげな様子で合流するかのどちらか。

 しかし、アルバーナとイズルードの邂逅はそんな温かいものではない。

「久しぶりと言おうかアルバーナ、この村の恥さらしが」

「お前の得意分野は剣でなく槍だったはずだが?」

 冷徹な怒りを振りまきながら剣をアルバーナの喉元につき付けるフレリアと、生死がフレリアの手に委ねられているにも関わらず、動揺の欠片も見せないアルバーナの姿がそこにあった。

 混じり気のない綿のシャツに麻のズボンなど飾り気のない服装だが、逆に簡素だからこそフレリア自身の魅力を惹き立たせている。

 身長はアルバーナに近いほど高く、腰まで伸ばした金髪は薄汚れた酒場内で輝いているかと錯覚するほど映えていた。

 背筋をしゃんと伸ばし、一本筋の通った声は耳に入るだけで敬礼してしまいそうになる。

 そして何よりも……

「また大きくなった?」

 身長は最後に会った時とさほど変わっていないものの、豊かに突き出た胸は明らかに成長の証が見えた。

「……普通は胸から痩せるものなのに」

 メイリスは己のささやかな丘を眺めながらそうため息を吐く。

 本当に神様というのは不公平だなと、神から最も遠い位置にいる魔法使いのメイリスは毒づいた。

「おお、喧嘩だ喧嘩!」

「わけえって本当に羨ましいな」

「いいぞ! もっとやれ!」

 メイリスからすると物騒な状況なのだが周りは面白い見世物程度にしか思っていないのか、取りたてて喧騒が変わることはない。

 もしかしてアルバーナはそこを織り込んでこの酒場にしたのだろうか。

「……それは考え過ぎかな」

 騒ぎを起こされる前提での説得なんて、仲間に引き入れる気があるのだろうか……が、アルバーナならやりかねない。

 どう捉えるべきか混乱するメイリスをよそに状況は推移する。

「お姉さん、エールを三つ」

 剣を摘まみ、下に下ろさせたアルバーナは近くの売り子に注文する。

「はーい」

 売り子のお姉さんも場数を経験しているのだろう、スマイルを浮かべて了承した。

「メイリスは苦いエールよりも甘い蜂蜜リンゴ酒の方が良いだろうが、最初は我慢してくれ」

「何で?」

 どうしてあんな苦い物をわざわざ飲まなくてはいけないのかと言外に訴えるメイリスにアルバーナは頭を掻きながら。

「何でって聞かれてもな……それがラクシャイン王国の酒場のルールだからとしか言えないな」

 アルバーナはそう答えるが、メイリスは全然納得していない。

 祭りを欠席する、村の守り石を道端にあるただの石にすり替えるなど風習どころか決まり事さえ守らないアルバーナのどの口がそんなことを言うのか。

 そんな疑問が湧いてきたメイリスだが。

「そうだぞカナザールよ、それが酒場での決まりごとなのだから守らねばなるまい」

「そういうことか」

 フレリアがアルバーナの言葉に賛同したことから彼の真意を知る。

 どうやらアルバーナ自身もフレリアの心証を下げるのは好ましくないらしい。

 あれほど殺気だっていたフレリアだったが、今は心なしか怒りが収まっている。

 まあ、そうは言っても。

「……焼け石に水だと思うけどなあ」

 再開早々剣を突き付けられるほど悪化した関係だと、この程度の小細工程度でどうにもならないと考えるメイリスだった。


「乾杯」

 アルバーナがその言葉と共にジョッキを掲げるとメイリスとフレリアがそれに続く。

 そして一斉に飲み始める三人なのだが、アルバーナが一息で半分ほど減らした時に、フレリアはジョッキ全てを空にし、反対にメイリスは一口分しかエールを含まなかったことを鑑みると、酒の好みが顕著に表れていた。

「同じエールで良いか?」

「よい、自分の分は自分で注文する」

 ここは全てに対して厳しいフレリアらしい言葉だとアルバーナは苦笑する。

 しかもご丁寧に割り勘だと言ってくるのだから強情さは筋金入りだな。

(さて、どう話を切り出すか)

 アルバーナはジョッキを傾けながら思い描いていたシミュレーションを繰り返す。

 フレリアの状態によって数種類の文句を揃えていたアルバーナだったが、まさかここまで己を嫌っているとは想定外。

(やれやれ、そんなに俺の接触方法が癪に障ったのか?)

 アルバーナはフレリアとのアポを取りに行ったが、彼女はにべもなく断ってきた。

 玄関から入れさせてもらえないのなら、勝手口から入れば良いと考えたアルバーナはとある一計を立てる。

 それはフレリアの人間性である高潔な部分を利用すること。

 人の弱みに付け込む方法は決して褒められないのだが、そこは外道なアルバーナ。

 人の良さそうな騎士団員に接触したアルバーナはあの手この手の話術を用いて籠絡し、その騎士団員の仲介の下、約束を違えればその者に迷惑がかかる状況を作り出してフレリアをここに呼び出した。

 目論みは確かに成功したがここから先をどうしようか。

 敵意を通り越して殺意の域に達した人間をどうすれば説得できるのか。

 アルバーナの思考回路はアルコールが入っているにも拘らずフル回転を始めた。

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